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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
大罪魔獣
265/314

自由へ



ーーーーーー



「つぼが、割れましたか……」



 オルテリアが絶望にうちひしがれている時同じくして、別の場所から屋敷を見つめる人物がいた。



 その口調から感情を伺い知ることはできないが、その瞳は細められており不可解な現象に対する疑念を浮かべていた。



「遥か昔、天界か魔界かで何らかの強大な力を封印したというつぼ……まさか、オルテリアの家にあったとは。しかも、見つけた矢先にこのような事態になってしまうとは」



 その人物……キルデは、これまでの過程を思い出す。キルデが人間界に降りてきた理由、それは次世代の魔王となる者をこの目で見守ること。



 そして、とあるつぼを回収することだ。まだ魔王なる人物は見つけていないが、もう一つの目的は先日見つけた。



 後は、適当な頃合いで奪い去ってしまえばいい、そう思っていたのだが……



「やれやれ、任務失敗ですか。それにしても……あの大きな屋敷、百を超える人間。それがこの有様とは、いったいあのつぼには何が封じられていたのやら」



 つぼの回収を命じられていたが、その中身までは知らされていない。聞いても教えてもらえなかった。よほど重要なものなのか、もしかしたら魔神様でさえ詳細は知らないのか。



 何せ、何もかもが曖昧だ。遥か昔に、天界か魔界かで、強大な力が。まるで子供騙しの童話のように、ふわふわした表現だ。そしてそれが、なぜ人間界にあるのかも謎だ。



 元々は魔界のどこかで保管していたらしいが……まあ可能性としては、誤って落っことしたか、それとも誰かが持ち出したか。



「ま、割れてしまったものは仕方ないですね。誰かが故意に割ったのか単に落として割れたのか知りませんが、人間界で割れたのなら私達には関係ないですし」



 任務、とはいえそこまで重要視してなかったのか、気持ちをさっさと切り替える。割れたら割れた、悔やんでも仕方ない。



 それよりも今は……視線を移す。そこには、絶望に膝を折っているオルテリアがいた。普段から元気でこちらまでパワーをもらえる、そんな彼女が今は、ただの弱々しい女の子だ。



 それもそうだ。施設に、屋敷。彼女にとって家庭とも呼べる場所、家族とも呼べる人達をこの短期間で二つとも失ったのだ。こうなってしまっては……もうダメだろう。



 しかも、年齢的にもまだ幼い。立ち直るのは不可能だ。



 せっかく、いい隠れみのを見つけたのだが。記憶をいじり、己の親しいものだと本人、そして周りにすらそう錯覚させる。便利だが、そうポンポンと使えるものでもない。



 莫大な魔力が必要になるし、魔力が補給できない人間界で何度も使うのは体がもたない。



 仕方がない。惜しいが、彼女とはここでお別れだ。役に立たない人間など、何の価値もない。そもそも、魔王を見守るだけならわざわざ人間の記憶を改ざんなんて面倒なことをしないでいいのだ。



 だから、キルデがオルテリアにこだわる理由なんて、一つもない……



ーーーーーー



 ……どれだけ時間が経ったか。もう涙も枯れたのか、オルテリアの目から涙は消えていた。あるのは、涙が流れた跡のみだ。これから、何を考えていけばいいのか……わからない。



 元々彼女は捨て子だ。施設で育ち、引き取られ。引き取られた屋敷は消え、施設のみんなの行方も知れない。身を寄せる場所がないのだ、これからどうしろというのか。



 それでも……



「……負ける、もんか」



 いったい何が起こっているのかわからない。だが、わからないことをわからないままにしておくのは……嫌だ。



 母や屋敷のみんなが消えた理由も。ユウキやカリィ、施設のみんなが消えた理由も。その理由を見つけるまでは。



 だから……



「これは、驚きました。オルテリア、まさか自分で立つとは……」



「……キルデ」



 気がつけば、目の前には驚いた表情のキルデがいた。どうして彼がこんなところに……そんな疑問は、なかった。



 ただ、彼まで消えてなくてよかったと……信頼できる人が側にいることが、嬉しかった。



 キルデは何か、言葉を探しているようだった。だがいい言葉が見つからなかったのか、やがて諦めたようにため息を漏らす。そして……



「いきましょう、オルテリア」



 オルテリアに、手が伸ばされる。彼女はそれを、迷うことなく掴み、手を握る。



 何もなくなってしまった道。それでもオルテリアは、この先の人生を生きて、行く。そう決めたのだ。




 その後、世間ではサシャターン家の屋敷が消えた謎の現象が瞬く間に取り上げられた。その中で、一人だけ少女が生き残っているらしいということも。当然、大捜索が行われ、程なくして発見された。



 この一件は、稀に見る一大ニュース……になるはずだったのだが、なぜだかそんな対したニュースにはならず、世間の反応もあっさりしていた。それに、一緒にいたはずのキルデについては誰もまったく触れなかったのだ。



「ま、大事にされて私の存在が公にされても面倒ですし」



 と、いつだかキルデが呟いていたのをオルテリアは聞いていたが、それを本人に直接聞く気にはならなかった。キルデが何かした、なんてそんなこと物理的に不可能だろうと思ってしまったのだ。



 発見されたオルテリアは、暮らしていたサシャターン家の別家にあたる家に引き取られ、そこで暮らすことになった。



 ちなみに当初は、引き取るのを躊躇していた当主がオルテリアを引き取るに至ったのは、その頃のオルテリアには"神力"が発現していたからだ。



 こんな子供の頃から目覚めるのは、珍しい。将来使い道があると睨んだ見定めた当主が、手の平をひっくり返しオルテリアを引き取った。もちろん、その事情をオルテリアが知るよしもないが。



 それからの間、何事も起こることなく平穏な日々は過ぎていった。施設のことも本家のことも、忘れたことはない。



 だが、子供だったあの頃より、エリザスに縛られていたあの頃より、自由であったのは確かだった。



 そして……別家でサシャターンの娘として育ったオルテリアは、十年弱もの時間をそこで過ごし、神力学園に入学した。

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