なくなった施設
ただ呆然と目の前を見つめるオルテリア。その様子を、気まずそうな顔で見ているキルデ。ここに連れてくるんではなかったという後悔が、彼の頭を占めていく。
「……すみません。ここにあった施設なんですが……」
彼女の落ち込み具合から、記憶違い、ということはないだろう。ならば、この三年の間にここで何が起きたのか。その原因を突き止めなければ。キルデは通りがかりの主婦に声をかける。
また『魔法』を使ったのか、主婦は平日の昼間にいる子供に疑問を浮かべることなく会話に応じる。
「あら、ここの施設? 確か……そう、にね……らい前に…………みなごろ……あったみた…………れで、施設がつぶ……ちゃっ……」
失意のオルテリアは、キルデが何を話しているのか意識を向けることができない。何やら物騒な言葉が聞こえた気もするが、いろんな疑問がぶつかり合ってそれどころではない。
「施設、み……ろし、です……?」
「そう……のよ。何でも……んにんは……く……じんき……『ギィル…………ヒ・……トン』らし……のよ」
施設はどうして消えた? みんなはどこに? ユウキは? カリィは? 何がどうして? これは現実? 痛いでも信じたくないだって確かにここにはみんながいて笑っててわたしもその中にいてみんなと一緒にいてだからわた
「オルテリア!」
はっと、声をかけられて我に帰る。キルデだ、どうやら何度も必死に話しかけてくれていたのか、肩で息をしている。
「キルデ……みんな、は?」
先ほど誰かに話を聞いていたらしいキルデなら、何か知っているのでは。そう思って話しかけたが、キルデは首を振るばかり。
「……帰りましょう、ここには……誰も、いない」
言葉の意味がわからなかった。だが手を引かれるままに、歩いた。その場に留まる気力もなかったから。
学校に戻ってからも、家に戻ってからも、その日は脱け殻のようだった。頭の中はただ、みんなの安否のみ。
もしかしたら、何か事件にでも巻き込まれたのかもしれない。サシャターン家……いやオルテリアには、外の世界の必要以上の情報は入ってこない。だから、情報がストップしている可能性はある。
「お母様!」
思い立ったが行動するのがオルテリアだ。その足はすぐに母の所へと向かい、ノックも忘れて扉を開ける。粗相をしたと直後気づいたが、もう遅い。
「……どうしたというの。そんな慌てて……はしたない」
射るような視線がオルテリアに突き刺さる。聞こうと思っていた言葉が体の奥に沈む。だが、それよりもみんなの安否が気がかりだ。だから……
「あの……っ」
……再び、言葉が詰まった。聞くとして、何と聞く? 今日学校を抜け出して施設に行ったら、施設はありませんでした。理由を知っていますか?
……バカか。そもそも学校を抜け出したことがバレるのはまあいい。それを引き換えにみんなの安否を知ることができるのならば。問題はその過程。
護衛のいる中でどう学校を抜け出せるのか。その話になれば、キルデが一緒だったことがバレるかもしれない。そうなれば、キルデに迷惑がかかるのは必然。
みんなのために、キルデを危険にさらすのは……
「どうしたのです? 何か言いたいことがあるのでしょう?」
「……いえ、勘違いでした。すみません」
こうするしか、なかった。
それから、真実を知ることなくオルテリアは過ごしていた。キルデならあの時話を聞いていたようだから理由を知っているかもしれない。だけど、それを聞くのは何でか躊躇われた。
時が忘れさせてくれる……そうも思った。だが、いつまで経っても忘れることはなかった。
そもそもの話、年の頃が十になったばかりの少女にはあまりに多くの重荷が背中にあった。サシャターン家の人間としてふさわしい英才教育、言葉遣いから生活態度まで何から何まで徹底され、自由な時間はほとんどない。
それに加えて、施設の一件。オルテリアの心は日々の疲れやストレスで参っていた。
そんな時だ……一つの、事件が起こった。




