守りたい人
家族全員を失ったあの日から、私はカーリャさんの下で暮らすことになった。ほとんど私が無理を言ったような形だけど、嫌な顔せずに受け入れてくれた。
というより、元々私を引き取るつもりではいたらしい。
それからというもの私は、カーリャさんと共に過ごした。暮らしのなかで天使のの力、天力の使い方をせがみ、指導の下扱い方を教わった。
初めは渋々だったカーリャさんも、私の気持ちに押されたのかきちんと教えてくれた。
その後、神力学園に入学するまでの間、毎日力の扱い方を学んでいった。
純粋な天使ではない上に、今まで人として生活していた私には……なかなか、成果が表れなかった。
そもそも、天力を使うのは天使にとっては当たり前のことで、教えるのも難しいとカーリャさんは言っていた。
うまくいかない日々……気持ちが沈みそうになる時は、お父さんのことを思い出して……悔しさをバネにした。
『これからは、幸せに生きて……』
その度に、お父さんの言葉を思い出した。最期まで、私のことを思っていてくれた、その言葉を。姿を。私の幸せを、願っていた。
……でもね、お父さん。ごめん、そのお願い聞けそうにないや。だって……家族の居ないこの世界で、幸せになんてなれっこないよ。お父さんがいないと、私……
あっという間に月日が経ち、神力学園に入学する年がやってきた。それはつまり、カーリャさんとの生活のお別れも意味していた。
神力学園は寮生活になるからら、ここから離れないといけないのだ。
短い間だったけど、一人ぼっちではなかった。お姉ちゃんと同年代なんだけど、私にとっては紛れもなく、もう一人のお母さんだ。
そんなわけで、新しい学園生活が始まった。……けど、今までと一番違うのは、私が自分自身を人間でないとわかっていること。
今までのように、素知らぬ顔で日々を過ごすことはできないのだ。
だから私は……最低限、人と関わらないようにした。もう、お父さんと同じ目に合う人を生み出さないために……
誤算だったのは、寮は二人一部屋だということ。学園の寮だ、当然と言えば当然かもしれない。
ルームメート……同じ部屋にいる以上、これはさすがに、関わらないというわけにはいかない。
とはいえ、必要最低限だけ、だ。無愛想だと思われても、仲良くするつもりはない。……なかった、はずだった。
「あ、あなたが私のルームメート? 私、アカリ・ヴィールズって言うの。よろしくね!」
活発そうな赤いショートヘアーに、私は目を奪われた。自分が小柄なのは理解していたが、この子も大概だ。ニッと笑った時に現れる八重歯が印象的な女の子だった。
「……リーシャ・テルマニンです。……よろしく」
それから彼女は、いっぱい私に話しかけてくれた。時には二人だけでお買い物したり、時にはほかの人達の輪の中に引っ張ってくれたり……
いくら無視しても、何度も何度も私に構ってくる。最初は鬱陶しいと思っていたけど、次第に私は……
「あはは、待ってよアカリちゃん!」
自然と、笑えるようになっていた。こんなに笑ったのは、お父さんが死んでから初めてだった。自分が何者かも忘れて、久しぶりに本気で笑った。これが……幸せ、なの?
アカリちゃんは、いっぱいの楽しいことをくれた。そんな彼女に、隠し事はしたくない。だけどもしそれで関係が変わったらと思うと……言えなかった。私は、同じ人間じゃないんだ。
それに、私の正体を話すということは、こちらの世界に引き込むということ。そんなの絶対にダメ。
だから私は、私の正体を話さない。アカリちゃんには……親友には、普通に、平穏に暮らしてほしいから。
……そう、思っていた。あの時までは。
「おやおやアカリちゃん、休日でもヒロトくんと一緒にいたいのかな?」
「ばっ、何言ってんの! 私はただ……」
アカリちゃんの幼馴染、ヒロト・カルバジナ。部屋では暇があれば彼の話ばかりされて……
その時のアカリちゃんの嬉しそうな表情から、その手の話には縁がなかった私でもその想いにすぐ気づいてしまった。
そんな彼の買い物に付き添いに行った時だった。……彼の部屋から、あの女が現れたのは。
一目見て、わかった。何でかはわからないけど、わかった。直感した。これが天使によるものなのか、第六感というやつなのかわかないけど……
……お姉ちゃんを奪った、神様が目の前にいる。
よっぽど、その顔を殴ってやろうかと思った。お姉ちゃんを犠牲にしといて……何で、そんなへらへら笑ってるのと罵倒してやりたかった。
見つけたかった神様がこんなに早く見つかったこと……それに嬉しさを感じると共に、怒りも感じていた。
何で、こんなところにいるの……?
アカリちゃんは、こちら側に来ちゃいけないの。なのに何で……何であんたが、よりによってアカリちゃんといるの。……でも、まだ確証はない。
私の直感が告げただけだ。この人が神様でないなら、この怒りは全く無駄なものだ。
だから、アカリちゃんとヒロトさんが席を外した時に……私は、正体を明かした。これで違ったら私とんでもないバカだなと思っていたけど……
私の話を聞いた反応を見て、確信した。こいつは、神様だ。こいつが、お姉ちゃんを殺した奴。ごめんなさい……その一言さえ聞ければいい、と思っていたほど単純な話ではない。
けどせめて、謝ってほしかった。
けどあいつは……謝りもしなかった。話を聞いた瞬間こそ青ざめていたけど、今はただ俯いて肩を震わせるだけ。何、もしかして笑ってるの?
神のために死ぬのは当然、とでも思ってるの? 自分のために死んだ者のことなんて、どうでもいいとしか思ってないの?
何で……何でお前みたいな奴のために、お姉ちゃんが死ななければならなかったの?
ただ、お互いの正体がわかったからといって何か行動を起こすわけでもなく……その日は、アカリちゃんとヒロトさんにバレないように努めた。
アカリちゃんの可愛さだけが、怒りの熱を冷ましてくれた。
ヒロト・カルバジナ……か。アカリちゃんの幼なじみで、彼女の想い人。でも同じ部屋に住んでいるのなら、あの女の正体を知ってる確率は高い。彼はもう、巻き込まれちゃったんだね。
ならばせめて、アカリちゃんだけは、何も知らずにいて。あいつから、あの神様から、私が……守るから。もう絶対に、大切な人を失いたくはないから。




