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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
大罪魔獣
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厄介な能力



 『色欲』の眼前で止まった手は力なく垂れ、体から力が抜ける。目の光は消え、先まで生者であった少女は人形のように動かなくなる。



 腹に……今度は紛れもなく、穴が空いた。自然、『色欲』の口元には凶悪な笑みが浮かぶ。



「……なるほど、さしものあんたも、母親の虚像には抵抗できなかったか」



 えぐるように、突き刺した腕を捩る。嫌な音が耳に届くが、アスモデウスはそんなこと、気にもならないとばかりにけたけたと笑う。



 先ほどダメージ跳ね返しで負った内部への傷。そして今この傷……どちらも、腹部に関するものだ。それも、内臓を傷つけていてもおかしくないであろう、即死に直結しかねないもの。



 それを二度、この女はその身に刻まれたのだ。いかな人物であろうと、この傷で生きていられるものか。



 加えて言うなら……これは、あのアカリ・ヴィールズが死んだシチュエーションと同じだ。自らが大切に想っている者の姿をした奴に、大切に想っている者と同じ殺され方をする。



 こんなにも愉快な死に方が、果たしてあるだろうか。



「ふふ……」



 ……さて、一番厄介なのは消えた。残るは四人。あの子供達(スカイとアカリ)は置いといて、リーシャとエドワードは、実力ならオルテリアを追うところにいる。



 しかしリーシャはまだ不安定な力、少し動揺させれば刺せる。エドワードも、ああいう人間こそ御しやすいというものだ。よって、一番厄介そうな奴を選んだ。



 実際に戦ってみて、厄介すぎたけど。



 だが、こうして、今腕の中で眠っている。ちまちまと鬱陶しいハエどもを潰すのも、もはや時間の問題だ。後はアカリにでも化けて、油断しているところを順番に刺していけばいいだけだ。



 それだけの、はずだった。



 ……突然、がしっ、と。手首が掴まれる。



「は、ぇ?」



 何だろうか、気のせい……ではない。確かに誰かに、振り払おうとした腕の、手首を掴まれている。



 では誰か……そんなの、一人しかいない。今この手でその腹を貫いている、目の前の青髪の女ということに……



「ちょ、は、離せ! ってかなんつー力だこの死にぞこないが!」



 ぐっと力を込めるが、離れない。オルテリアの手が、予想以上の力で手首を掴んでいるからだ。何だというんだこの力は、腹を貫かれた人間の出せる力か?



 もう死にぞこないの人間、だというのに鬱陶しく手を離さない。どうして動ける、いやそもそもどうして生きている。



 まさか、自分達と同じように、この女も何らかの能力を持っているのか? 例えば不死身、とか。



 それともリーシャのように、天使と人間のハーフとかいうイレギュラーな存在なのか。そうだ、そうに違いない。ただの人間が、この傷で生きてられるわけは……



「あ……ぅ……」



「ひっ!?」



 何か、呻いている。無意識かとも思ったが、生意気にもこちらを睨み付け……弱々しくもその瞳に光を戻している。だが、それだけだ。腕の中で動くことも出来ず、ただこちらを睨みつけるだけ。



 何で、そんな目ができる。今にも死にそうな体で、どうしてそんなにも足掻く。くそはくそなりに惨めに死ねばいいものを、こいつは……!



「このくそっ……とっとと、離しやがれ!」



 ……ふと、何かが耳に届く。これは……声……笑い声、だろうか。



「ふ、ふふ……」



「あ?」



 この状況で、この女は何を笑っているのか。何がおかしいのか、それとも死の間際に直面して頭がおかしくなったか。



 どちらにしても、不愉快だ。何かを喋っているが、あまりに小さい声で聞き取れない。それが苛立ちを増幅される。どうせ死にたくないとかそんなものだろうが……



「あ……あな、たの…………ま、けで、す……わ」



 だが次第に、ちゃんと言葉として意味が伝えられる。そして聞き違いでなければ、今この女は、あなたの負け……すなわちこの状況下で、自らの勝ちを宣言したのだ。



「何言ってる。状況理解してんのか? そもそも、今にも死にそうなお前に何が……」



 ただの悪あがき、ですらない取るに足らない言葉。だがそれは『色欲』の神経を逆なでする。このまま放っておいても死ぬだろうが、もう跡形もなく消し去ってやる。



 そう決め、己の拳に魔力を込め始めた時だ。目の前の、己の腕に突き刺さっているはずのオルテリアの姿が揺らぎ始めたのだ。見間違いではない……目を擦っても、景色は変わらない。



「何だ、これは一体……」



「心を覗く……厄介な能力ですわ。でも……だからこそ対策も取れる。あなたの性格から……私を、殺す時は……一番ショックな死の光景。アカリさんの死を再現、すると……思って、ました」



 目の前のオルテリアが消え、背後からオルテリアの声が聞こえる。まさかと振り返ると……そこには、腹部を押さえたオルテリアがいたのだ。



「なんっ……で。お前、どうやって……」



 驚愕する『色欲』。対してオルテリアは冷静に、しかしどこか苦しそうな表情を浮かべながら人差し指を立てる。



「教えて、さしあげますわ。あなたが、アカリさんの死を、再現……私の、腹部を狙っ、てくることは、推測、できました。です、から……腹部を中心、に……一度きりの、秘策を使って……かわし、ましたの……」



 息も絶え絶えに、それでも最後まで話すオルテリア。それは所々理解の及ばない説明だったが、心の内を読める『色欲』には理解できた。



 一度きりの秘策……それは文字通り。つまりは、『色欲』に刺される直前オルテリアは、自らを"水"としたのだ。ただの水は当然攻撃など通らず……"水"は本体へと戻る。



 これは一瞬のうちに全身が水になるわけではなく、体の部位から全身が水に成っていく。



 オルテリアは『色欲』の攻撃個所を予想して、それが見事に当たっていたが……逆を言えば、あの時点で腹部以外の箇所を狙われていたら、そこで終わっていたということだ。



 オルテリアの推測勝ち……結果的に聞こえはいいが。



「バッ、カじゃないの!? そんなの、私の気まぐれで腹部以外を狙ったら……」



「えぇ、けど……それくらいの、リスク……がなければ、本当に、取り戻したいものに辿り、つけませんもの……」



 オルテリアの覚悟は、『色欲』を震え上がらせる。少しミスをしただけで死に直結する上、完全な回避とはならなかったのか、オルテリアの腹部にはダメージが見える。



 さっきから腹部を押さえていたり話すのも辛そうなのは、そのためだ。

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