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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
大罪魔獣
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心の奥の奥の、さらに奥




 やはり厄介……以上に、あの女は危険だ。そう考え、『色欲』は構える。大丈夫だ、奴は疑心暗鬼になっている。またダメージが自分に跳ね返って来るのではないかと。



 そこに隙が生まれるはずだ。そこを狙って……



「だぁあああ!」



 ……仕掛けることはできなかった。雄叫びを上げ、手を伸ばしてくる。この女、動けるのか……いやそもそも、声を出せるのか。



 今オルテリアが負っている傷は、オルテリアが『色欲』を"殺す"つもりで放ったものによる。つまり、オルテリアは自身を殺すほどの傷を受けているはずなのだ。なのにどうして?



 それを考えるより先に、体が動く。『色欲』は後ろに大きく跳躍し、距離を取る。だが叶わない。いつの間に生成したのか水の鞭が、オルテリアの伸ばした手に握られている。それは『色欲』の足首を絡めとる。



「てめっ、縛り付けるのもいい加減に……ぁあああ!」



 触手に鞭に、散々絡めとられた苛立ちからオルテリアを睨みつける。が、その先の言葉は引っ込むことになる。無数の水の刃が遅い、ユメの体をした『色欲』を切り裂いていく。言葉の続きは悲鳴として放たれる。



 刃はそれほど大きくない、避けようと思えば簡単に避けられる。が、それが無数ともなれば話は別だ。おまけに距離を取るために跳躍したため、足首を絡めとられ空中で動きが止まっている。



 刃は『色欲』の服を切り裂き、肌を傷つけ、無数の切り傷を刻んでいく。その間、オルテリアにダメージはない。『色欲』はダメージ跳ね返しを使っていない、あるいは使えないということだ。



 やはり回数制限か。まあそんなこともはやどうでもいい。体が痛みに耐え切れなくなる前に、この戦いを終わらせる。終わらせて生きて、みんなの下へと帰る!



「はいや!」



 抵抗できない『色欲』を鞭で引き寄せ、その顔面に拳をお見舞いする。その右拳には水の膜を覆っており、何がどうなってかわからないがその威力をアップさせている。本当に体を貫かれた痛みがあるのかと疑いたくなる、強力で容赦のない一撃。



 そのまま吹き飛ぶ……ことはない。足首に絡まった鞭がそれを許さない。吹き飛ぶ体を引き寄せパンチ、引き寄せパンチ……繰り返される。初めは鼻血が、次に皮膚から血が……飛び散る。



 オルテリアの拳には血が流れている。それは『色欲』の返り血なのか、やはり大切な人の姿をした顔をこの手で殴ることに対して、どうしようもない怒りから必要以上に手を握りしめたために爪が皮膚に食い込んでしまったからか。



「これで、終わりですわ!」



 どちらでもいい。どのみち、この最低な魔獣はこの一撃で葬り去れる。確信があった。ここで終わらせてやる。



 意識の朦朧とする中『色欲』は手段を探していた。この状況を打破する手段。だがこの状況でそんな都合のいい考えが浮かぶわけもない。こうなればもう、奴の心を探り、限りなくゼロに近いが隙を生むしかない。



 苦し紛れだ、わかっている。それでもこの世界、生きれば勝ちだ。負けは死だ。汚いだの何だのと甘ったれた考えなどくそ食らえだ。



 心の奥の奥の、さらに奥。(オルテリア)が大切に想っている誰かを……



「お……」



 見つけた。誰だこれは。調べる時間もないが一か八かだ。



 『色欲』は体を変化させる。また性懲りもなく……オルテリアは半ば呆れていた。大罪魔獣と言っても、種が割れれば対処しやすいものもいる……それが今回の戦いでわかった。たいした収穫だ。



 後はこいつを倒して、みんなと合流するだけ。みんなと引き離したのも、おそらくこいつが妙な手を使ったのだろう。だから、この攻撃が決まりさえすれば……



 強力な一撃を撃ち込む瞬間。『色欲』が体を変化させる瞬間。ほぼ同時、数秒とない時間。どちらが早いか、それはタッチの差だ。この時運命は、大罪を冠する魔獣に微笑んだ。それだけのこと。



 『色欲』アスモデウスの、その姿が変化する。風になびく長髪の美しい青髪を持った女性に、優しい顔つきの、目つきの細い女性に。華奢ながらも豊満な肉体を持つ……そう、オルテリアがこのまま大人になれば、まさにこうなるであろうという。



 瞬間、アカリの姿にもリーシャの姿にも動揺しなかったオルテリアの手が、ほんの少し揺れた。少し動きが、鈍くなった。



「ぉ……か、あさ……」



 ズシャッ……!



 ほんの僅かな動揺は、生きるか死ぬかの勝敗を分ける。結果として、オルテリアの腹には『色欲』の腕が深々と突き刺さっていた。

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