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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
大罪魔獣
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跳ね返される痛み



 人間はこんな言葉を作ったという。ピンチはチャンス、と。ならばその逆もまた然りだろう。チャンスはピンチ。



 オルテリアはそんなこと考えていないだろうが、間違いなく今のオルテリアはチャンスだ。そして、『色欲』は間違いなくピンチ。



「いーい言葉だよね、それ」



 誰にも聞こえない声で、呟く。その口元に、歪んだ笑みを浮かべて。



 その笑みを何と受け取ったのか。オルテリアは眉を寄せる。だがそれも一瞬だ。すぐに鋭い瞳へと戻り、水の剣を構える。あれは突きの姿勢、このまま『色欲』の体を、その剣で貫くつもりだろう。



「でやぁああ!」



 掛け声が響き渡る。同時に剣が正面へと突き出され、切っ先は迷うことなく『色欲』の腹部を目指す。



 その間を阻むものは何もなく、片や勢いを載せ、片や動けず……その先の未来は誰の目にも明らかだ。



 そして……



 ザクッ……!



 小柄で華奢なその体が、水によって完成した剣に貫かれた。完全に、紛れもなく。剣は間違いなく、『色欲』の体に深々と刺さっていた。じわりと、腹部から血が滲んでいく。



「がはっ……!」



 同時に、悲痛な叫びとともに吐血。赤黒い血の塊が地面に吐き出され、血を黒く染める。



 自らの腹部を"押さえながら"……オルテリアは、口から流れる血を拭うことも出来ずに、困惑した表情を浮かべる。



「……!?」



 訳が、わからない。今自分は確かに、目の前の、ユメの姿を借り物にした外道に剣を突き刺したはずだ。現に奴の腹部には剣が刺さり、刺さった箇所からは出血している。



 なのに何故……こんなにも、自分の体が痛い。腹を押さえても、傷口はない。それなのに何故……まるで腹を刺されたような痛みが、全身を襲うのか?



「ぷふっ……あははは、あっはははは!」



 困惑するオルテリアの耳に、愛しい声の煩わしい笑いが届く。現在腹をぶっ刺され、尚も水の触手に動きを封じられている『色欲』が、とうとう抑えられないとばかりに笑い始めたのだ。



「あはは、それ、その顔が見たかったんだよ! いくらお仲間に化けても動揺しなかったが、ようやくいい顔を見せてくれたなぁ!」



「な、にを……」



 口元を押さえるが、流れる血は止まらない。外傷はないのに、実際のダメージはある。逆に『色欲』は外傷はあるのに、実際のダメージはない。



 まるで、『色欲』が受けるはすだったダメージを、オルテリアが代わりに受けたかのような……



「ま……さか……」



 はっと、気づく。何かに気づいたように目を見開くオルテリアのその様子をおかしそうに見ながら、邪悪な笑みが正面に浮かぶ。



 まるで糸をぶちぶちと千切るかのように、『色欲』は自らを縛っていた水の触手の拘束から脱出する。



「そう、あんたが考えてる通り、そのダメージは本来私が受けるはずだったもの。だけど実際には、あんたがダメージを受けている。おっかしいなー、これってどういうことかな?」



 けらけらと、こちらを嘲笑う。その笑い方は耳障りだ。しかも、ユメの声を使ってだからなおさらに。



「正解が欲しいかな?」



「ひ……つよう、あり、ませんわ」



 そもそもとして、相手の心を覗いて大切な人に化ける、なんてくそったれな能力を使う奴だ。いまさらどんなふざけた手を使ったとしても、驚きはない。



 おおかた、心を覗いた相手……この場合のオルテリアに、瞬間の痛みを跳ね返すとか、そういった類のものだろう。



 仮に、化けられているユメ本人にダメージが行ったとしたら、それはもうどうしようもない。が、その事実を伝えた方がよっぽどオルテリアを動揺させられるだろう。この性悪ならなおさらそう言うはず。



 ならばオルテリアの動きは、止まる。さすがに本人(ユメ)にダメージを受けさせるわけにはいかないから。



 その言葉がないということは、あくまでこのダメージはオルテリアに跳ね返ってきたということだ。



 そして、オルテリアとダメージを交換できるのになぜ今までそれをしなかったか。今のようにここ一番で取っておきたかったのか……回数制限が、あるのか。



「……ふぅん、やっぱ厄介だねあんた」



 その疑念は、"心を覗いた"『色欲』の言葉によりほぼ確信に変わる。同時にこの時をもって、『色欲』はオルテリアに対する警戒度を上げたということだ。



 回数制限、と考えた時に奴の瞳は僅かに揺らいだ。もしも回数制限があるのなら……もしもそれが、一度きりだったのなら。オルテリアはその、未知の可能性に賭ける。



 読みが外れていた場合、死ぬ。オルテリア自身の攻撃で、仲間の姿をした外道に殺される。そんな最悪の終わり、想像しただけでも吐きそうだ。



 ……だが、ここで動かねばどのみち出血多量で死ぬ。奴を倒さぬことには回復する隙すら満足に与えてもらえないだろう。



「……すぅ」



 痛む体を無理矢理に落ち着け、深呼吸をする。とはいっても息を吸い込むだけで体の内側から激痛が走る。まるで内臓のみを傷つけられたような感覚、耐えられるものではない。



 その痛みも当然だ……殺すつもりで、刺したのだから。それがまさか、こんな形で跳ね返ってくるなんて。



 だがオルテリアは……その顔に、痛みを感じさせないほど穏やかな表情を浮かべている。痛みで、気が狂ってもおかしくない状況……その姿に、『色欲』は舌打つ。

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