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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
大罪魔獣
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血も涙もない女



 大罪魔獣『色欲』と相対するは、オルテリア・サシャターン。アカリ・ヴィールズの姿から自身の姿を変化させた『色欲』は現在、オルテリアの最も信頼できるパートナーである、リーシャ・テルマニンの姿に化けている。



 自分の大切な者……例えそれが偽りであっても、敵対するとなれば少なからず動揺は生まれるはずだ。それが死んでいるアカリならともかく、生きているリーシャならもっとやりにくいはずだ。その油断をつく……それが『色欲』の計画だった。



 だが、現在……



「ちょ、ちょっとまっ……ひぃい!」



 戦況は一方的に、オルテリアに傾いていた。先程、オルテリアがアカリ(の姿をした『色欲』)を攻撃できたのは、もうアカリが死んでいるものと割りきっているからだと思っていた。だとしてもあんな、乙女の顔面をへこませるほどに蹴り込むなんて相当だとは思うが。



 だが、現在進行形で生きているリーシャの姿をしているのに、バンバン攻撃してくる。水の槍は飛んでくるわ、足元から氷のトゲが生えてくるわ。さっきなんて顔を水が覆ってきて窒息するところだった。姿を変化させたことで背丈が変わり、何とか脱出できたけど(ちなみにエドの姿)。



 男の姿でも関係なかった。なので今、小柄で動きやすいユメ・ヴィールズの姿をしているが……変わらず攻撃は飛んで来る。アカリという女とうり二つの妹の姿でも。



 これではジリ貧だ。あの女、まったく容赦がない。血も涙もないのか。



 たとえ平静を装っていても、怒りの感情は確かにあるはずだ。どうせすぐに、その感情に呑まれて力を使い果たす。それが人間という単純な生き物だ。



 感情に呑まれてはいけないと頭ではわかっていてもコントロールが効かない、哀れな生き物。以前も、そんなことがあったと聞いたことがある。親の敵を目の前に、後先考えず力を振り撒いた挙げ句使い果たし、助けられたかもしれない友人を失ったバカな天使と人間のハーフの話を。



 この女もその例に漏れないはず。ただ、今は無様に逃げ回ってでも、(きた)るガス欠……その時まで待てばいい。そうすれば奴は……



「っ、ひぁあ!」



 ……結果としてその計算は、失敗だった。『色欲』を追撃するオルテリアは、怒りの感情を力に変え、しかしあくまで頭はクールに。そうやって自分の力をコントロールしているのだ。



 わかっていても、実際には頭と心というやつがうまく動かない。そんな単純な生き物が人間というやつではないのか。それなのに、あの女は……オルテリアは、『色欲』の中にある人間の常識を越えてくる。



「どわぁあ! っくしょお!」



 少しでも逃げるペースを緩めれば、すぐに捕まって力の限りぶち込まれてしまう。



 元々、『色欲』の能力は戦闘に特化したものではない。相手の油断を誘うために大切な者の姿に化け、動揺している所をブスリ……というのが、能力のシンプルにして最大の使い道だ。



 とはいえ、能力がえげつないだけで『大罪』を冠する魔獣と呼ばれるわけではない。単に特殊な能力を持つだけの厄介な悪魔はいくらでもいる。能力はあくまで飾りで、その身体能力は一般の悪魔よりも飛び抜けている……それくらいは当然だ。



 だから今、『色欲』が一方的に逃げ続けている状況……『色欲』が弱いわけでは決してない。むしろ、オルテリアの猛攻を回避し続けられているのは相応以上の身体能力があってこそ。



 要するに、オルテリアが容赦なさすぎるのだ。



「そこ!」



 だが永遠の追いかけっこはない。力を使い続けながら追いかけているオルテリアよりも、逃げ続けているだけの『色欲』が先にへばってしまい、ついに捕まる。知らず知らずのうちに地面が水に浸っており、体力の消耗に気を取られ地に足を取られ体勢を崩す……そこへ、水の触手が『色欲』を絡めとる。



 体を縛られ、締め付けられる。多少の隙間でもあれば抜け出せそうなものだが、がっちり締め付けている。動けない。忌ま忌ましく、顔を歪める。



 そこへ近づいて来る足音。ピシャッ、と水を踏み付ける音へと変わった足音のその主は、縛られている『色欲』の目の前に立つ。



「さあ、これで終わりですわ」



「あんた……少しも動揺しないなんて、ホントに血の通った人間かよ」



 目の前に立つ女に対して、『色欲』は恨み節を告げる。自分の能力が通じないどころか、見知った顔にもまったくの躊躇なく攻撃してくるとは。



「悪魔……いえ魔獣にそのようなことを言われるなんて、些かショックですわね」



 そう言いつつ、だがオルテリアの表情は、明らかにショックを受けているものではない。むしろ一切の気を抜かないように、引き締まった表情だ。



 姿を変えても動揺しなかった相手を、今更負け惜しみ程度の言葉で動揺されられるはずがない。ちっ、と小さく舌打ち。その様子を見て、一際オルテリアの瞳が鋭くなる。



「いい加減、その姿と声でその行動、言動やめてくれませんか。見ていて気分のいいものではないので」



 今『色欲』は、ユメの姿をしている。アカリの妹であり、共にいた人達からは太陽と評され、同じく旅をするようになってからはオルテリア達の癒しでもあるユメ。



 その姿で、声で本人とかけ離れた行動、言動をされてしまうというのは、まるでオルテリアの中のユメを汚されている気分になる。



「はっ、やだね。嫌なら力付くで止めてみろよ。ペッ」



 当の『色欲』は聞く耳を持たない。せめてもの嫌がらせ、のつもりなのだろうか。オルテリアが確かにイラッとしたのを確認してから、唾を吐き捨てる。



 もしかしたら、さすがに同じ姿は殺せないかもしれない。……そんな考えは甘いし、『色欲』もそんな期待はしていない。



 現にオルテリアは歩み寄ってくる。水を剣の形に変形させた武器を手に。材料が水であろうと、その硬度は水ではあり得ないのを『色欲』は知っている。



 このまま動けず、死するのを待つのみか……否、そんなつもりは毛頭ない。



 今オルテリアは、油断などしていない。動けない相手であろうと意識を削ぐことなく、こちらに全霊を集中している。その気に触れただけで、怪我をしてしまいそうだ。



 逃げる隙などない、完全に袋のネズミ状態。……だからこそ、隙がある。

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