もぎ取りますわよ
「大罪魔獣を……倒した?」
予想だにしていなかった発言。悪魔や魔物を狩っているというギィルディルヒ……だから、数多くの戦闘を経験してきたはずだ。同時に、それなりに強い奴らとも戦ってきたはずだ。
だから、大罪魔獣などの名前を知っていてもおかしくはないが……まさか、倒しただなんて言葉が出てくるとは思わなかった。
「あぁ、そうだけど」
驚く私に対して、当の本人は、それがどうしたと言わんばかりの態度だ。その様子に嘘は見えないし、そもそもそんな嘘をつく理由もない。
以前私達は、『怠惰』の名を冠する大罪魔獣と戦っている。私はバランダとの戦闘直後で疲労困憊だったし、オルちゃんは解毒の影響で眠っていたため、実際に対峙したのはエドさんのみであるが。
その際、大罪魔獣の能力に苦戦させられ、エドさんでも倒すには至らなかった。それと同列の一体を、倒したというのか、この男は?
「なんだぁ、その表情。もしかしてそういった特別な敵は、全部自分達が倒すんだとでも思ってたか? アッハハ、んな話あるわけねぇだろ! どんだけ自分達を中心に世界が廻ってると思ってんだよ!」
言葉が見つからない私に対し、まるでバカにしたような台詞と笑い声。というか実際にバカにしている。この男、ホントムカつく。
……とはいえ、自分達の関わっていないところでそんな重要なことが起こったというのは……確かに、現実味がない。
「しかし……本当に? こんなあっさりと、倒したなんて言われても現実味が……」
私と同じ意見にあるオルちゃんが、やはり信じられなさそうに話す。人間性はともかくその戦闘能力は高いギィルディルヒならば確かに、倒すことが無理だとは言えないけど。
「ホントだっての、信用ねぇなぁ。別に殺した奴の名前に興味はねぇが、たまたま大袈裟な名前を名乗ってたから覚えてただけだっての、ボインねーちゃんよぉ」
「……次その呼び方したらもぎ取りますわよ」
相変わらずの軽口を交え話すギィルディルヒ。しかしその呼び方が気に入らないオルちゃんは目を細めて拒否する。もぎ取るだなんて、何をだろう。
考えないようにしよう。
「じゃあ……その、『強欲』の能力は? 戦って倒したのなら、わかるだろう?」
と、今度はエドさんが問いかける。先ほど倒したといったのは、『強欲』。同じ大罪魔獣であるなら、『怠惰』と同じく『強欲』にも何か能力があったはずだ。
本当に倒したというなら、今さらそんなことを聞いても意味ないだろうけど……
「本当に信用ないねぇ」
「当たり前だ殺人鬼め」
「ま、いいが……能力ねぇ。わざわざ気にしてねぇしな。……そういや、戦いの途中いきなりあいつの攻撃が鋭くなったり、防御が固くなったりしたな」
本気で思い出す気があるのかわからないが、ぼんやりと虚空を見つめポツポツと話し始める。ひどく曖昧であるものだが、『強欲』という名とその説明から、一つの仮定を出した。
いきなり攻撃が鋭くなり、防御が固くなる。これだけだと何の情報もないに等しいが、もしも『怠惰』と同じく、名前に関係する能力だとしたら。
『怠惰』は、言ってしまえば人任せ……この場合は、魔物だから魔任せというべきか。自分は戦わず悪魔や魔物を呼び寄せ戦わせる。厄介なのが、悪魔や魔物といった生き物の力を底上げするというもの。
それは武器も同様だ。だから何の変鉄もない剣の能力を底上げして、『星剣』と渡り合うまでの武器へと進化した。最もこれは、武器の力を底上げしても本人自身の力ではないためエドさんが打ち勝ったけど。
これと同じように、名前と能力が関係するならば。『強欲』は文字通り、何かを強く欲するというもの。もしもこれが、『攻撃にもっと鋭さが欲しい』や『強靭な肉体が欲しい』だったら。そして欲した気持ちが具現化したなら。
攻撃や防御のアップを欲し、それが具現化。だからいきなり攻撃や防御に変化が訪れた。こう考えれば不思議はない。
もしかしたら、相手の武器を欲し、それを奪う……なんて芸当もできたのかもしれないが、おそらくそんな隙はなかったのだろう。
「なるほど……」
オルちゃんもエドさんも、おそらく同じ見解に達している。しきりに頷いているのだ。
そしてこの推理が正しければ……間違いない。大罪魔獣の能力は、その名『七つの大罪』に影響したものだと。
「んー……ってことは、残る大罪は五つか」
生き残っているのは六つだが、逃した『怠惰』、倒した『強欲』を除けば残った大罪で、能力が判明してないのは五つだ。『色欲』『暴食』『嫉妬』『憤怒』『傲慢』。
名前から想像しやすいのは……『色欲』と『暴食』かな。多分、相手を誘惑して油断を誘う『色欲』と、あらゆるものを食べる『暴食』、そんなところだろう。
これまでの大罪魔獣の厄介さからして、ただ誘惑するや食べるだけ、というかわいらしい表現で済むとは思えないけど。
他の三つは……性格が、というのはわかりやすいんだけど。『怠惰』だって本人はめんどくさがり屋だったし、怒りっぽい『憤怒』とわが道を行く『傲慢』といったところか。『嫉妬』はよくわからない。




