歪んだ考え
それを真正面から聞いたギィルディルヒ。これにはさすがの奴も、何か感銘に受けるものがあるかもしれない。そう思い、オルちゃんから奴へと視線を移す。
「あぁそう。てか、そんなあっつく語られるとは思わんかったわ。見た目よりも、熱血なんだなあんた」
小指を耳の穴に突っ込み、半目を開いて興味なさげに反応していた。今の話が心に響いたとかそれ以前に、多分こいつは真剣に話を聞いていない。
その、どこまでも人をバカにした態度に、オルちゃんが肩を奮わせている。表情は伺えない(というか伺いたくない)が、あれはかなり怒っているんじゃないだろうか。私なら怒る。
「まあいろいろ言ったが、別にあんたらがどんな目的や信念を持ってヤってるかなんてどうでもいいしな。オレはオレが楽しむために行動する……だからまぁ、さっきお嬢ちゃんに意地悪を言ったのも、軽い戯れとでも思ってくれや」
こちらの気持ちを掻き回しておきながら、それは単に楽しいからという理由のみだと言う。元々人の気持ちなんてわかるはずもないが、この男が何を考えているのか本当にわからない。わかりたくもない。
こんな不条理な世界で、楽しみを見つけて生きる。文面だけにすると何だか素敵なもののようだが、この男がやっているのはただの殺戮だ。共感できるはずも、わかるはずもない。
「……キミは、本当に楽しいと思っているのか?」
「あぁ、楽しいね! こうして今の世を生きてると実感するぜ……あの頃は、何てつまらない世界だったんだと。ただ人を殺しただけでやれ犯罪者だ殺人鬼だ騒ぎ立てやがって、耳障りでたまらねぇ」
人を殺しただけ……その発言から、ギィルディルヒの狂気が見て取れる。寒気がする。尚も奴は、続ける。
「じゃあ聞くが、一度でも虫を殺したことはねぇのか? てめぇらだって、動物の肉や魚を食ってるだろぅが、何が違う? 人間じゃなけりゃ殺しても構わない? 家畜なら殺しても上等か? 命には価値の差がある? はっ、オレに言わせりゃ、そんな考えクソ食らえだね。命に差はねぇ……だから、同じ人間を殺しても問題ねぇだろぅが?」
「問題あるに決まってるでしょう! あなたが手に掛けた人達は、それぞれの生活や家族が……」
「なら食用の家畜共はどうなるよ! 食われるために育てられる、これほど残酷なことがあるか!?」
正しいとは、思わない。思いたくない。こいつはただ、それらしい言葉で自らの行いを正当化してるだけだ。その言葉は……正しいように思えて、その考え方はひどく歪んでいる。
家畜を殺すのは、生きるためだ。生きるためにその肉や魚を食らい、それに感謝する。感謝して、命を貰う。誰だって、好きで殺しているはずがない。人間だろうが動物だろうが、好きで殺したいなんて思うのは、ただの異常者だ。
「オルちゃん、まともに聞いたら……」
「えぇ、わかってます」
言葉によって、人を惑わす……もしこの男が悪魔だったならば、こんな能力がお似合いだろう。歪んでいる、壊れている、狂っている……それが、ギィルディルヒ・バトンという男だ。
命とは、本来尊重するものだ。でもこの男にはそれがない。命は平等……聞こえはいいが、この男の言うそれは意味が違う。命に価値はなく、軽視するもの……そう、思っているのだこの男は。
冗談じゃない。ふざけるな。
「やいやいうるせぇ世界にうんざりしてたのさ。そんな時だ。魔物? 悪魔? そんな『悪者』が世界を危機に陥れた! ははっ、笑ったぜ! この世界なら、悪魔や魔物を殺しても何も言われねぇ! むしろ感謝される! 世界が変われば『異常殺人鬼』も『英雄』にはやがわりってわけだ!」
何がおかしいのか、何に興奮しているのか、ギィルディルヒは腹を抱えて笑っている。何でそんなに笑えるのか、何でそんなに嬉しそうなのか、わからない。気持ちが悪い。
「……と、舞い上がったはいいが、拍子抜けだぜ。斬りがいがねぇ……ってのか。手応えがねぇし、人間の時みてぇに奴ら、怯えやがらねぇ。多少の知恵がある奴ならそうでもねぇが、殺される間際に見せるあの絶望した表情がいいってのに。満たされねぇ」
突然テンションが下がったかと思えば、またも理解できない言葉を話す。あいつが満たされるかどうかなんて知ったことじゃないが、とにかく気持ち悪い。
「魔物も悪魔も大罪魔獣ってのも、てんで大したことねぇ。この分じゃ、魔王だの悪魔四神ってのも期待できねぇかもなぁ」
まるでゲームであるかのように、話す。その言葉に、怒りすら湧いてくる……
「……って、え? あれ……?」
怒りを、感じていた。だがそれとは別に、今何かものすごく重要なことをさらっと聞いてしまった気がする。怒りに任せるより先に、頭が、耳がそれを逃さなかった。
奴は言った。『魔物も悪魔も大罪魔獣ってのも、てんで大したことねぇ』と。この言葉に、違和感を感じたのだ。
こいつが悪魔や魔物を狩っている以上、魔王や悪魔四神、大罪魔獣などの名前も確かに聞くだろう。だから、別にそういったことを知っているのはおかしくない。
問題は、その言葉の意味だ。魔物も悪魔も、大罪魔獣も大したことはない。だってこの言い方だと、まるで……
「ねぇ……その言い方だと、その……あなたが、大罪魔獣と戦って、その上勝ったように聞こえるんだけど……」
そう、大したことないなんて、まるで実際に戦ってみましたと言わんばかりだ。そして、実際に打ち倒したからこそ、大したことないなんて感想が出てくるのではないか。
まさか、そんな……という疑念が湧いてきて、怒りの気持ちもそこそこにその疑念を問いかける。それに対して……
「あ? あぁ……この前ぶっ殺した奴が、そんなこと言ってたぜ。自分は『強欲』の名を冠する大罪魔獣の一体だとか何とか。オレの木刀や肉や骨、臓物が欲しいだのとキモいこと言ってやがったわ」
……と、大罪魔獣の一体を倒したと、衝撃的な台詞を発したのだった。




