狂ったような魔物達
「はっ、せいや!」
その後も次々に水の玉を生み出し、魔物に放っていく。これは魔物に対しての、窒息狙い……その狙い通りに、魔物の動きはだんだん鈍くなっていく。
これなら……そう思いオルちゃんに視線を向けたのだが、彼女の表情は暗い。というより、辛そうだ。手の動きに合わせて水の玉を操って動かしているようだが、その表情は確かに暗くなる一方だ。
「お、オルちゃん? 何が……」
「きゃっ!?」
いったい何が……そう思って声を掛けようとしたのだが、それは突如として上がった悲鳴により遮られる。その声の発信源は、ユメちゃんだった。
「な、何?」
「あ、あれ……」
彼女が指さす方向……そこには、頭を水で覆われ息をすることもままならないはずなのに、そんな状態で防壁に張り付く魔物がいた。突撃しても壊せないのなら、その爪で突き破ろうとしているように。
驚いたのは……その執念。窒息してしまうかの瀬戸際なのに、自分の命よりもこの防壁を破ることに全力を注いでいる。ただの獣ならその場でのたうち回るだけだというのに、こいつらはそんなことはない。次々、防壁に張り付いてくる。
「死を恐れていない……というより、それすら厭わず私達を殺そうとするのを優先している。そういうことでしょうか」
この防壁が破られれば、魔物が一斉になだれ込んでくる。防壁に神力を集中するためなのと、魔物に効果がないことを判断したオルちゃんは水の玉の生成を中断し、防壁が破られないために力を込める。
「ブバァアアア!」
水の中に顔があるためにうまく声を出せていない。むしろ声を出すことで余計に酸素が消費されるのに、構わずに吠える。その行為に、思わず身が震える。
怒りのような感情を向けられているのではないかと錯覚するほどに凄まじい気迫。それに呼応しているのか、魔物の魔力が高まっているように感じる。魔物の魔力が高まるなど、これまでにはなかったことだ。
オルちゃんの力が、そう簡単に破られるとは思わない。……そう思った矢先だ、高まっていく魔力が、魔物の顔部分……口内に集まっていく。それが何を意味するのか気づいても、ここからじゃ止める手立てはない。
「まさか……!」
次の瞬間、魔力は塊となって、魔物の口から発射される。しかし、放たれたそれは自らの顔を覆っている水の玉にぶつかる。水の玉が顔を覆っているのだ、外側だけでなく内側からも弾力の強い水にぶつかった攻撃が跳ね返ってくるのは当然だ。
魔物が放った魔力の塊は私達に届くどころか、自らの顔を巻き込んで爆発したのだ。自分の攻撃が跳ね返り自らを襲う……つまり、それは自爆にも等しい行為。言ってしまえば、ガスが充満した密室の部屋で火をつけたようなものだ。
何故、そんなことを……自爆により魔物の顔付近に煙が立ち込める。次第に煙が晴れていくと……魔物の顔を覆っていた水の玉は、なくなっていたのだ。
「……力業で水の玉を破った? そのために、あんな危険な行為を……?」
下手をすれば、自分の頭が吹き込んでしまいかねない、自殺行為にも等しいもの。窒素してしまいかねないとはいえ、だからといって頭が消し飛ぶかもしれない方法を選ぶなんて、狂っている。
他の魔物も、同じように水の玉による拘束から抜け出すために同じ行為をしている。だがみんながみんな成功するわけではなく、中には自らの攻撃が跳ね返ったことにより頭が消し飛び絶命する魔物もいる。
他にも……三つ首を持つケルベロス魔物は、それぞれの頭がそれぞれの意思を持っているのか、一つの頭が消し飛んでも他の二つは健在なために生きている……そんな魔物もいるのだ。
「このままじゃ……」
呼吸を取り戻した魔物達は、次々と防壁に群がって来る。このままでは防壁が破られるのも時間の問題だ。あんな凶悪な魔物、スカイくんやユメちゃんに近づけるわけにはいかない。
そう心配していたところへ、一歩前へ出る人物がいた。エドさんだ。何もない宙に神力による空間が生まれ、そこから『星剣』を取り出す。その行為が何を意味するのか、わからないはずがない。
「エドさん、まさか……!」
「少しでも魔物の数を減らせば、オルテリアの負担も減るはずだ!」
言うや否や、エドさんはその場で踏み込む。予感が的中し、声をかけるがそれも聞く前に勢いよく走り出した。そして、自ら防壁の外へ飛び出す。外からは強いこの防壁も、中から抜けるぶんには簡単にいけるのだ。
しかしいくらエドさんでも、あの数を相手では……
「はぁああ!」
近場にいる魔物に狙いを定め、剣を振り下ろす。それは魔物の体を真っ二つに斬り裂き、絶命させると同時に他の魔物の注意を引き付ける……はずだった。
ガンッ!
音が響いた。まるで金属同士をぶつけ合ったような鈍い音が。その正体が、すぐにはわからなかった。
エドさんの振り下ろした『星剣』は、確かに魔物の体にぶつかっている。……そう、“ぶつかっている”のだ。剣によって魔物の体が斬れることはなく、体に触れた剣がその動きを止めているのだ。
「な、に……?」
予想だにしない光景だった。剣で斬るどころか、傷すらつかない。そもそも、刃が通らないのだ。まさか、この魔物達も、以前戦った人造人間のような機械の体なのではと疑いたくなる。




