統率のとれた集団
その間、村や街だった場所を訪れたが、既に人の気配はなかった。代わりに出迎えてきたのは、複数の魔物ばかり。
レイが出てこないため、捕まっている人々を救出しても安全な場所に転送できるわけではない。だからといって、誰も見つからないでほしい、なんて思うはずもない。
魔力を追って旅を続けてはいたが、最近では悪魔や魔物が好戦的にこちらに仕掛けてくるためになかなか安定しない。なので、目的地の定まらない旅は尚足取りが芳しくないのだ。
「ふわぁ……おっきい」
その目的地のない旅の中でたどり着いたのは……栄えていれば大都市と呼ばれていたであろうほどに大きな街。まず目につくのは、巨大なタワー。おそらくは街の中心に立っているのだろう、この街のシンボルであろうものだ。
他にも建物もこれまで見てきたものより一回り大きく、街の規模を思わせる。……だがそれも、栄えていれば、だ。既に廃墟となり風化した建物は数多く、街のシンボルであろうタワーも錆びれて元の色が判別できないほどだ。
「うん。でも……そう呑気にもしてられないみたい」
「グルルル……!」
この街に来てから、これまでにないほどの魔力の塊を感じていた。警戒すると同時に姿を現したのは、四足歩行の獣。黒い体毛に全身を覆われ、鋭い牙と爪を持つ赤い瞳の魔物だ。
大きな街にいるから、というわけではないだろうがこれまでの魔物よりも大きく、車くらいはあるんじゃないだろうか。
驚くのはその大きさだけではなく……首が、三つに分かれていること。三つの頭を持った犬のような獣は、ケルベロスという空想上の生き物に似ている。
本で見たことはあるが、実際に見るのは初めてだ。さらにそれだけではなく……
「おいおい……これは」
そこらじゅうから、ワラワラと現れる魔物。車サイズだけでなく小型車、バイク程の大きさのものが周囲に群がり始める。十や二十……まだいるかもしれない。
数だけならまだしも、こんな大きさの魔物の集団は初めて遭遇する。
「グォオオオオオ!」
ピリピリ張り詰めた空気が、一瞬にして弾け飛ぶ。地鳴りどころか空気が揺れているのではないかと錯覚する雄叫びがこだまする。
その声の主……それは、一目見ただけで魔物の集団のボスであろうと直感できるものだった。
なぜなら……そのケルベロス魔物は、トラック程の大きさがあり、他の魔物よりも一回りも二回りも大きく……威風堂々とした雄叫びには相応の貫禄があるように思えたから。
今までの魔物や、下手な悪魔よりも確実に厄介な魔物が目の前にいる。それも、一や二どころではないのだ。これは……久しぶりに、ピンチというやつかもしれない。
唸るケルベロス魔物は、まるでこちらの動向を観察しているように睨みつけてくる。もしやあの巨体で、さらに知識まであるというのだろうか。ただ威嚇しているだけともとれるが……もし知識が備わっているなら、この集団で囲ってきたのも頷ける。
「せっかく空想上の生き物を生で見られたのに、全然嬉しくないですわね」
ペロリと唇を舐めるオルちゃんが、額に冷や汗を流し辺りを見回している。魔力は感じれないながらも、どうやらオルちゃんもこのケルベロス魔物が今までの魔物とは違うことを悟ったらしい。
そしてそれは、エドさんも同じようだった。
「確かにこれは……あまり、余裕はないかもしれない」
今までは、あくまでもスカイくんを守れるだけの余裕はあった。でも今回は、そうもいきそうにない。
スカイくん守る担当はユメちゃんになったとはいえ、ユメちゃんの体術も通用するかどうか……
「う、うわぁ……ケルベロスだ。すごっ、ヤバこわっ」
当のユメちゃんはこの調子であるが……顔が若干、青ざめている。どうやら彼女も、状況が芳しくないことを察したらしい。
そうこうにらめっこをしているうちに……一番大きな、ボスと思わしきケルベロス魔物が、大きく息を吸い込んだ。
こいつらが自分達の意思で集団でいるのかわからないから、ボスと言っていいのかはわからないけど。
そして……
「グルルォオオオオ!!」
大気を震わす雄叫びを発し、それに呼応するように周りの魔物も吠え……一斉に襲い掛かってきた。
「なっ!」
その光景に、私は思わず声を上げる。単なる生き物としての本能が雄叫びに反応したのか、雄叫びが合図のようなものだったのかはわからないが……ともかく、目測三十前後のケルベロス魔物が一斉に襲い掛かってきたのだ。
まるで、統率がとれているかのよう。
「ちょおおおおお!?」
「やるしかありませんわ!」
目の前の光景に涙目になるユメちゃんとは対極に、オルちゃんは冷静だ。魔物が私達に牙や爪を奮うリーチになるより先に、神力により水の防壁を作る。
私達を中心にドーム状の水の壁が出来上がり、備える。
「ねえ大丈夫なの!? これ!」
いかに防壁を張ったとはいえ、これは水だ。それを心配しているのはユメちゃんだが……やはり冷静なオルちゃんは、安心してとばかりに手を振る。
その意味がわからなかったようだが、次の光景にユメちゃんは目を丸くさせた。
「え、うそ!」
防壁に触れた魔物が、まるで風船に弾かれたかのように飛んでいったのだ。弾いた水の防壁はプルプル震えているが、強度が弱まることはない。証拠に、他の魔物も弾かれている。
それは、まるで割れることのない風船。ただ突っ込んでくるだけでは、沈むように埋まるだけでその反動により跳ね返される。
「安全地帯から失礼! 恨まないでくださいね!」
と、魔物が入ってこれないのをいいことにオルちゃんは次の行動に。何もない空間に手の平を向けると、徐々にそこに水の玉が生まれてくる。
これも当然神力の力だが、曰く空気中には水蒸気やら何やら水分がたっぷりあるから作るのは容易いですわ、とのことだ。
手を動かすと、水の玉を操っているのか同じ動きをしている。それを、近くにいた魔物に飛ばし……魔物の顔に、水の玉を突っ込ませた。




