ユメちゃんの驚くべき特技
あの場所から出発し、旅を再開した私達。オルちゃんほどではないがユメちゃんも賑やかな子で、これまでよりも賑やかさと華やかさが増していた。
「へぇー、じゃあスカイくんに会うまでは誰とも会わなかったんだ」
「うん。まああの頃は天使の力が安定してなくて、本当にがむしゃらに歩いてたんだけどね」
これまでの旅のことを聞かれたり、みんなとの出会いを聞かれたり。今のはその一文だ、その頃の私は、まだ天使の力が安定してなかったため、魔力を追う、なんてこともできなかった。
だから本当に、目的地のない旅をしていたのだ。
「それから、ドッ兄にも会ったわけだ」
「待て、ひょっとしなくてもそれ僕のことか?」
「だってオル姉がドッさんドッさん言ってるから」
「……おかしいな、女性からのあだ名は胸踊るものだと思っていたのだが……何か違う」
今はそれなりに行き先に宛てをつけて旅をしている。そして旅を続けていく中で、こうして共に旅をする仲間が増え……こんなやり取りができるようになった。
オルちゃんと二人の頃には、当然なかったものだ。
「でもドッ兄って言いにくい……」
「勝手にそう呼んどいて!? 理不尽だ!」
この辛い旅の中でも、笑えるようになったのは……みんなのおかげだろうな。
私一人だったらきっと……いや絶対にこんな旅続けられなかった。仲間がいるから、励まさられる。一人で終わりの見えない旅を続けて、悪魔と戦ってなんて……きっと無理だったろう。
悪魔といえば……感じる魔力を頼りに旅を続けていくと、当然悪魔や魔物に出会う頻度も以前より格段に増える。大抵は私達三人で対処できるが、ある時隙をつかれてスカイくんを狙われてしまったことがあった。
連戦が続いた時や大勢を相手にした時、手が回らなくなってしまう場面が発生するのだ。
……いや、それ以前に最近では、以前までは統率のとれてなかった悪魔や、知性のない魔物ですら連携のようなものをとってきているのだ。それにより、若干苦戦を強いられることも多くなった。
その結果としてスカイくんを狙われてしまったあの時は、焦った。私達が気づいた時にはもう悪魔の、文字通り魔の手が迫っていた……
「だりゃー!」
……のだが、突然悪魔が吹っ飛んだのだ。何事かと確認すると、気合いの入った叫びと共に一撃を入れたのは、何とユメちゃんだった。
拳を顔前近くに構え、脇を締めている、ボクシングでいうファイティングポーズをとっていた。脚を引く様子から、まさか蹴りを入れたのだろうか。
自分を吹っ飛ばした相手に向かって、悪魔は今度はユメちゃんに狙いを定める。が、殴り掛かってくる悪魔の拳をかわし、反撃とばかりにその顔面に蹴りを入れたのだ。
ボールのように飛んでいく悪魔を、私達は唖然と見ていた。そんな私達を見て、ユメちゃんは口端を上げてこう言った。
「言ったでしょ? 足手まといにはならないって」
スカイくんを除けば、この中で最年少になるユメちゃん。だけど、その姿は今まで見ていたユメちゃんの中で一番頼もしく見えた。
「さ、スカイくんは私に任せて、みんなはちゃっちゃとやっちゃって!」
「……はい!」
「何で敬語?」
こうして、新たなメンバーとなったユメちゃんはある程度の体術が使えることが判明したのだ。どうしてこんなにも動けるのか疑問になったがユメちゃん曰く、昔ヒロトに教わったかららしい。
姉であるアカリちゃんと違い神力を使えないユメちゃん。そんな彼女は、神力学園に在籍しながら学園最弱の神力使いであるヒロトに、ある意味ではアカリちゃん以上にヒロトの気持ちを汲み取っていた。
神力使い、それも学園でトップクラスの神力を持つ幼なじみと姉を持つヒロトとユメちゃん。くわえて片や神力を満足に扱えず、片や神力を全く使えない。ある意味似た者同士の二人。
ヒロトは神力を扱えない代わりに体を鍛えていた。そのおかげで神技冠祭では勝ち抜くことができた。神力が使えないならせめて体くらい鍛えて、と本人は語っていたが、それに似た気持ちで、ユメちゃんはヒロトに体術を習っていたらしい。
……もしかしたら、ヒロトと一緒にいたかったから。そんな気持ちもあったかもしれないが、さすがにそこまでは聞かなかった。
そうして体術を覚えていったユメちゃん。彼女が私達の旅のメンバーに加わったことで、私達の役回りもずいぶんわかりやすくなった。
これまでは私とオルちゃん、エドさんのうち一人がスカイくんを守り、他二人で悪魔や魔物と戦うというスタイルだった。だがこれからはスカイくんを守る役回りをユメちゃんに固定し、三人で戦いに出ることができる。
ちなみに真っ先にこのスタイルを提案したのが、ユメちゃんだった。本人曰く護身術程度の実力しかないから、適任だと言うが……正直、護身術以上の実力はありそうな気がする。
というか、何の力も使わない素の殴り合いなら私勝てないんじゃないだろうか。
……とまあこんなスタイルで難無く旅は続いていき、ユメちゃんをメンバーに加えてから数日が過ぎていった。




