向き合う力
「……って! 私のことはいいんですのよ! 別の! そう、これからのことを考えましょう!」
あまりの恥ずかしさに耐えられなくなったらしく、話題を変えようと再び叫ぶ。私としてはこういうオルちゃんも貴重なのでもう少し見ていたいのだが、本人を辱しめてまでやることでもないだろう。
「えー、恋ばなしようよー」
……と、口を尖らせているのが約一名いるけど。相手が悪魔でも、色恋沙汰には敏感なんだね、ユメちゃん。
「こっほん! えっと……精霊さんが出てこなくなって、それからって話ですわよね!」
無駄に大きな咳ばらいをしてから、無理矢理の話題転換を試みるオルちゃんはとても必死に見えた。
彼女自身のことをいじったことはなかったが、こうも面白い反応が見れるとは。新しい発見だな。
「あ、うん。そうなるね」
とりあえず今は、新しい発見は置いておこう。オルちゃん弄りは後でもできるし。
あっちこっち脱線してしまったが、先ほどの会話へと戻るとしよう。精霊が出てこなくなって、落ち込んでいた私を励ましてくれたオルちゃんの図から今の話になったわけだ。
なので、最初の話に戻ろう。
「レイも出てこなくなって……戦力的にも、大幅なダウンだよ」
大幅とはいっても、そもそも天使とのハーフである私にしか力を扱うことはできないし、仮の契約のため一部の力だけだけど。それでも、私にとっては大幅なダウンだ。
それに……レイの力を借りても、バランダには勝てなかった。だというのにこの上さらにレイの力を借りれないとなると、これからの戦いにも影響が出かねないし……
「あの、そのことでちょっと思ったことがあるんですが」
オルちゃんの言う、これからのことについて考えていると……言い出したオルちゃん本人が、ゆっくりと手を挙げた。
「思ったことって?」
何だろうか。さっきまでの慌てようは既になく、赤くなっていた顔も引いていた。
「リーさん、以前と……学園にいた頃と、力の使い方が変わりましたよね」
「え、うん」
彼女の言う通り、以前との私とは力の扱い方が異なっている。以前は私がまだ天使の力の扱いを制御できなかったこともあり、天使の力を解放しても僅かな時間しかもたなかった。
対して今は……天使の力の扱いにも慣れ、自由に扱えるようになっている。その代償としてかはわからないけど、容姿に変化が表れたり、時折発作が起こったり……あ、レイがいないと発作を抑える方法もないや。
「それが、どうかしたの?」
やはりレイのことは深刻だが、ひとまずオルちゃんの話を優先しよう。力の扱い方が変わったが、それは以前よりと扱いが良くなったと思うんだけど……
「ほら、あれあるじゃないですか。以前使っていたっていう……り、りみ……リミッタ……」
あれですわあれ、と言いながらなんとか思い出そうとしているようだ。何を言おうとしているのかわかった私は、代わりに答える。
「“限定解除”、だね」
「そう、それですわ! 学園でそれを見たとき、凄まじい力でしたわ。で、人魔戦争を経て力が平常時でも扱えるようになったと、言ってましたわよね」
彼女が言おうとしていたのは、“限定解除”のことだった。それっぽい名前ではあると思うけど、一時的に力を解放する……という意味で私が勝手にそう呼んでるだけなんだけどね。
「う、うん。でもそれがいったい……?」
それがいったい、今の話とどう関係するのだろう。その疑問は、問うより先にオルちゃんが答える。
「私、思ったんですの。あの時の力とは、何かが違うな、と。で、考えてみたんですのよ。“限定解除”の時はそりゃ爆発的な力でしたわ。ただ、今では……その、あの時のような爆発さがないんですのよ」
言葉を選ぶようにして、何を言おうとしているのかを教えてくれる。それは、詰まるところ以前のような爆発さがないというものだった。
……爆発さ、か。
「……そう、例えるなら車! 車はアクセルの踏み込みによって速度が変わりますよね? 一気にアクセルを踏み込めば、爆発的な速度を得る代わりにエンジンの減りも早い。逆にアクセルの踏み込みが甘ければ、速度は遅いですがその分エンジンの減りは少ない。つまり、そういうことですわ!」
どやぁ、と擬音がつきそうな顔で言い切ったオルちゃんの言葉に、私は考え込む。今回の例えはわかりやすい。なるほど、車か……
以前の私を前者、今の私を後者として当てはめたのだろう。車のアクセルを力の調整具合として、速度を威力、エンジンを天力と例えたってことだろう。力の制御ができなかった以前は爆発的な威力を得る代わりに天力の減りが早かった。
今ではもちろん力の調整はできるため以前のような天力の減り具合は考えているし、そもそも天力も神力もそれは同じことだろう。
だが、ひとえにオルちゃんは、力の制御はできるようになっても威力に決定打がないといいたのだろう。言われてみれば、力の扱いは圧倒的に向上したけど……爆発的な力は、無くなった気がする
「それで、その爆発的な力を見事に精霊さんがカバーしてくれてると思ってたのですが」
私ではない、他から見た意見。それも、以前の私を知るオルちゃんだからこそ言えるものだ。以前と今とで、扱い方は便利になっても、その威力に問題がある。
ほんの少しの限られた時間の中での力、制御を覚えたことで持続時間が格段に伸びた力。……もしかしたら、爆発的な威力で言えば、以前の方が威力はあったのかもしれない。
「あ、だからって以前の方がいいってわけじゃありませんわよ。今の方が扱い方は安定してますし……あれ、でも発作の原因が、今の力になったことと関係してるとしたら……うーん」
今が悪いわけじゃないとフォローしてくれるオルちゃんだったが、そこで気づいてしまったらしい。天力の扱い方が以前のものから今のものになったのと、発作の時期が重なっていることに。
もしもこの力の変化と発作が関係しているなら、今の方がいい……とは一概には言えないのだろう。わざわざそんなところを気にしてくれるなんて……
「ありがとうね、オルちゃん。気にしてくれて」
「へ? と、当然ですわよ!」
えっへん、と大きな胸を張り照れたように笑みを浮かべている。
オルちゃんのおかげで、今の私に足りないものがわかった。要するに、爆発的な攻撃力……というやつだ。レイが出てこなくなったことにより戦力は低下したが、それを抜いても、私の素の力の底上げが必要になる、ということだ。
……あの暴走も含め、この天使の力ともっと、向き合う必要があるのかもしれない。




