オルちゃんの気持ち
だが今回のことは、それらとは訳が違う。……のに、変わらず笑顔でいてくれる。これからもずっと一緒に、隣にいてくれると言ってくれた。
「……ど、どうしましたのその顔。泣きそうなのか怒ってるのかわかりませんわよ?」
今自分がどんな顔をしているのかわからない。が、オルちゃんの目にはそう映ったらしい。
「私が男だったら……絶対オルちゃんに惚れてたなって」
私のパートナーは、とても女の子らしいのに、とても男らしい。頼りになるし優しいし明るいし……もしも私が男だったら、間違いなく好きになってただろう。
「あらまあ! 私もリーさんのこと大好きですわよー!」
私の言葉をどう受け取ったのか、唐突に抱き着かれる。や、柔らかいけど苦しい……あ、まだ完全に回復したわけじゃない。お、折れそう。いろんな部分が。
傍から見れば微笑ましく見える光景も、今の私には若干キツイ。背中をパンパン叩くが、伝わらない。……そんな私の気持ちを察したのかわからないけど、ここにきてユメちゃんが一言。
「ほほえまな光景~。でもオル姉ってさ、えっと……キルデ、って人のこと好きなんでしょ?」
いきなりの横殴りのパンチに……私を抱きしめる力は弱まっていく。そして、面白いくらいにオルちゃんの顔が真っ赤になった。
「ななな、何を言ってて……言ってんますの!?」
面白いくらいに顔を真っ赤にしたオルちゃんは、わかりやすく慌てている。あまりのテンパり具合から口調がおかしなことになってしまっているが、それも気にしていないかのように。
何だかこんなオルちゃんは新鮮だなぁ。
「あ、ごめんごめん。人じゃなくて、悪魔だっけ」
「そこじゃないですわよ!」
抱き着いていた私から離れて、わたわたと慌てている。いつも大人に見えるオルちゃんだけど、こうして見ると当然だけどただの一人の女の子なんだよなぁ、としみじみ感じる。
それにしても、ユメちゃんはこれまでの会話だけで、キルデに対するオルちゃんの想いに気づいたらしい。実際、私でもわかるくらいにキルデへの想いはわかりやすいものがあった。
まあ今はどうか、わからないけど。
「な、何でそんなことを……」
「だってキルデって悪魔のこと話すときのオル姉、すごく恋する乙女の顔してたよ?」
想い人のことを話しているときの表情……それだけで、気持ちを読み取ったらしい。これにはオルちゃんも返す言葉もないらしく、「なんてこった……」と顔を押さえている。
「すごいな、僕には全然わからなかったが……昔の話だろう? 彼が悪魔だと判明する前に好意を寄せていた」
色恋沙汰の話には疎いのか、エドさんは少し驚いたように告げると……その後に続いた言葉に、私も同意する。何にせよ、オルちゃんがキルデに好意を寄せていたのは昔の話だろう。
だが……そう思っていた私の気持ちは、次の一言により大きく掻き乱される。
「いや……多分、まだ好きなんじゃないかな。そう見えるよ」
「えっ」
あくまで推論……ではあるがユメちゃんの言葉に、私は大きく動揺する。彼が悪魔だと判明して、いまだに好意を持ち続けているというのか?
その言葉に弾かれたようにオルちゃんを見て……気づいた。彼女の顔が、さっきよりも赤くなっていることに。
「え、オルちゃん……え、そうなの?」
それは、私も予想していなかったもの。これまで、今キルデのことをどう思ってるか聞いてこなかったけど……
オルちゃんはといえば、顔真っ赤のまま俯いている。え、まさか……ユメちゃんの言葉が、図星ってこと? え、オルちゃんってそうなの?
「うぅ……そ、そうですわよ! 今も憎からず思ってますわ! 悪いですか!?」
「い、いや……」
その気まずさに耐えられなくなったのか、開き直ったかのように叫んでいる。その迫力に押されつつ、私は驚きを隠せない。
「でも……あんなことが、あったのに」
つい、声が漏れてしまう。だがそれはしっかりと聞き取っていたらしく、恥ずかしそうにボソボソと呟いている。
「わかっています……こんな、気持ちじゃいけないことは。でも、キルデを……嫌いに、なれない。彼は、悪魔……この世界の人間や、私の友達を殺した悪魔と同じ……なのに……」
恥ずかしそう……というよりは、自分でも自分のことがわかっていない。そんな感じに捉えられた。相手はあの悪魔だ、そんな気持ちになってはいけない。
でも……キルデは少なくとも、私達の前で、人は、殺していないんだよな。




