暴走の代償
「と、とりあえず治しますね」
申し訳なさそうなオルちゃんは、ビンタしてしまった私にそう告げ手の平を向ける。そこに淡い水色の光が集まり、神力による治療が始まる。せいぜい頬がちょっと赤くなってしまった程度だろうに、わざわざ傷を治そうとしてくれなくてもいいのに。顔が異様にひりひりするけど。
治療中に私の顔をなぜか気まずそうに見るオルちゃんが、何でか度々謝ってきたのが少しだけ気になった。
……私の顔の治療が終わったらしく、二人は安堵からか息を漏らしていた。何をそんなに安心したような顔をしているのだろう。
「これで、オーケーですわ」
「うん、ありがと」
なぜかほっとした様子のオルちゃんの隣で、同じくほっとした様子のユメちゃんは、同時に目を輝かせながら私の顔を見つめていた。
「おー、すっごい元通り……すっごい!」
すごいすごいと感想を連呼され、治療した本人も満更ではなさそうだ。そういえば、神力をちゃんと見たのはこれが初めてなのか。
「あそこから元に戻るなんて……!」
「ま、まあ? 誰にでも出来ることじゃありませんけどね?」
褒められて、わかりやすくどやっ……と表情を浮かべている。何だか見ていて面白いものがあるが、ちょっと引っ掛かることがあったので聞いてみよう。
「ねえ、私の顔そんなひどいことになってたの?」
「……ベツニソンナコトアリマセンワヨ」
「ウンウン」
「おいなぜ目をそらす」
二人の動揺が半端じゃない。もしかして自分で気づかなかっただけで、顔がひどいことになってたんだろうか。……まあ深く聞くのはやめとこう。顔がどんなになってたかなんて、私もそんな情報知りたくないし。それにオルちゃんも反省してるみたいだし。
「はぁ……いいよ、怒ってないから」
それを聞いたオルちゃんは、パアッと顔を輝かせる。そんなに私に怒られるかもと不安だったのだろうか、その反応はちょっと面白かった。
「それで話を戻すけど、その精霊?がいなくなったから落ち込んでたの?」
話が脱線してしまったが、路線を戻すようにユメちゃんが先ほどの会話に話題を繋げる。
「いなくなったのとは違って、姿を見せてくれないんだよ。それと、落ち込んでたのは……違うけど、違わないかな」
「?」
歯切れの悪い私の言葉に、ユメちゃんは首を傾げている。確かに、レイの件で落ち込んでいるような状態になっているのは事実だが……大元は、そこではない。レイが姿を見せてくれなくなった理由と思われるものだ。
「その……原因は多分、私が、あんなことして……だから。レイは私を見切ったんだよ。それに……またいつ、あんなことになって……今度はみんなを傷つけるかも……わからない」
その理由は私の暴走になる。その矛先がみんなに向くかと思うと、怖くて仕方ない。
「落ち込むってよりは……自分で自分がわからなくなって」
どうすればいいのか、わからない。せっかく力をコントロールできたと思っていたのに、あんなことがあったのでは自信もなくなってしまう。もしまたあんなことがあれば、レイだけじゃなくてみんなも離れて……
パチンッ
「ふぉ!?」
いずれレイだけでなく、みんなも離れていってしまうかもしれない。そんなことを考えていたが、突如何かを叩いたような音が響くのと、頬に衝撃が走る。
何か……私の方が、叩かれていた。いきなりのことに目を丸くしていたが、その先を確認する。私の両頬を叩いたのは、目の前のオルちゃんだった。
「だぁかぁらぁ、リーさんはネガティブ過ぎなんですのよ!」
両頬を叩き、そして手で頬を押さえるようにしながら、話す。彼女の真剣な目が、私の目を見つめてくる。手で押されて変な顔になってしまうが、そんなの彼女はお構いなしだ。
ちなみに先ほどの往復ビンタの傷は治ったが、痛みまで引いているわけではないので、実のところ若干痛い。また往復ビンタされるのではないかと、ちょっと覚悟もしてしまう。
「で、でむぉ……みんあ、エイみふぁいに、ふぁなえて……」
「離れませんわよ! それにリーさんが言ったんですのよ? レイはいなくなったわけじゃなくて姿を見せてくれなくなった、って。それってまだリーさんを見限ってはいないということでしょう?」
「すごい、何言ってるのか伝わってる」
レイみたいにみんな離れるかもしれない……その心配を口にするが、離れない、と私の言葉に被せるように声を重ねるオルちゃん。とはいえ、オルちゃんは実際にあの時の私を見たわけじゃないから、そんなことが言えるだけ……
その不安が顔に出ていたのか、頬を押さえる手に力が入る。ちょっと痛い。
「ネガティブというか、心配性というか……そんなことで私達が、私が離れると思いますの?」
「ふぉんあこふぉっふぇ……」
「そんなこと、ですわよ。リーさんが悩んでいるのなんて、ちっぽけな悩みですわよ」
「伝わってる! すごい!」
私の悩みを、たいしたことないと言う。それに、そんなことで離れるわけがないとも。いつも明るくて考えなしに見える彼女だけど、本当はいろいろなことを考えている。けど、今回のそれには、考えなんてないように思える。




