悪魔の所業
……鮮やかともいえる、一切の無駄がない動きで死神は手刀を繰り出した。それは狙い狂うことなく、目の前の標的……ドッマの首を斬りつける。抵抗する暇も、逃げる暇さえもないドッマ……その首と胴が、二つにわかれた。
まるで人形のそれと同じように、簡単に……体の部位が離れたのだ。
首から上をなくしたその体は、しばらくその場に立っていたが……徐々にふらついたように歩いていく。しかし視界のない体、その足は何でもない所で躓き、体は倒れる。
「---」
宙を舞う首は地面に落ちる。その表情は驚きに満ちており、何かを言いたげだ。だが声を発するための喉が切断されているため、口はパクパク動いても声という声は出ない。やがて、その動きすらも止まり……
「……」
首と胴の離れた体が横たわり、立つための足をなくした人造人間が、体を貫かれた人造人間がそれぞれ地に伏している。この場に立っているのはただ一人、"隻腕の死神"だけだ。
後は人造人間を完全に破壊し、念のために死体を消滅させておく。そうしたらここにもう用はないし、次に魔力を感じる場所にでも向かおう。そう思いながら死神は、首を失った胴体に近づいていく。まだ微かに痙攣しているが、そんなもの消し去ってしまえば意味のないこと。
胴体に、手を向ける。手の平に力を集中させ、肉片すら残さない一撃を放つ……寸前だった。
「……っ!」
死神が攻撃体勢を解き、周囲を警戒しはじめたのは。
『いやイヤいヤ……驚きマシタよ死神さン。まさかここマで力の差ガあるとハ』
聞こえてきたのは、今しがた首を斬り落としたはずのドッマの声だ。これには死神も警戒を強める。頭も体も、そこに転がっているのに……なぜ、声が聞こえるのか。
どこから話しているのか、位置を特定できないのも不可解だ。頭の中に直接、とも違うし……何が起っているというのか。
「…………」
死神は、神経を集中させる。少しの異変も逃さないように。……だが、まるでそれをあざ笑うかのように笑い声が聞こえてきて。
『あはハハははハ、無駄無駄。既にソコにハアナタ以外いナイので』
「……?」
ここには死神以外はいないと、そう言うのだ。それはどういう意味か。確かにドッマの声は聞こえているのだから、どこかに潜んでいることに間違いはないのに。それに、人造人間の二体も。
……ハッタリか?
『困惑、してルノかどウか。少しくラい喋ってクレないと寂しイが……まあイイや』
ドッマの言葉を素直に信じていない死神は、警戒を怠らない。その鋭い刃のような気配は、その矛先を向けられるだけで切れてしまいそうな危うさを持っている。
試しに、そこに転がっている頭と体を消し飛ばすため手のひらから火の玉を放つ。それは転がっている肉片を原型がないほどに消し飛ばすが、しかし……
『だカラ無駄だト……マ、いいガ』
声は、消えなかった。少なくとも、消し飛ばした肉片にドッマの魂が宿っていた、ということではなかったらしい。まさに奇怪な存在……それは、やはり一介の悪魔とは一線を越えたものがある。
『少シ種明かしヲしヨウ。実は最近、とあル実験を行っテいてネ。人格ヲ分けル……とデモ言オうか』
神経……というよりも殺気を張り巡らせる死神に、ドッマはペラペラと話し始める。研究者とは、その過程や成果を誰かに話したがるもの……とはよく言ったものだ。
それは変人であるドッマも例外ではなかったらしい。いや、だからこそか。
『例えバ、一つシカない魂。それを複数に分ケることが出来タラ……それハ素晴らシイと思わなイか?』
語られる言葉の意味すること……それを、死神は聞いた瞬間に理解した。
奴は言った。一つしかない魂を、複数に分けると。それはつまり、一つの肉体に一つの魂……その当たり前の常識を覆すものだ。それはつまり、とても恐ろしい実験をしていたというわけで。
……まさしく、悪魔の所業だ。
『気付いタようダね? まダ実験は途中経過だが……一ツの魂を、二つの肉体に分けるコトにハ成功した!』
驚きの言葉を、悪魔は告げる。今のドッマは、一つの肉体にしか宿らないはずの魂を、二つの肉体に分けたというのだ。到底信じられる話ではない。
だが……今のこの状況が、それを証明している。ドッマを殺したはずなのに、ドッマが生きている理由。この不可解な現象の理由が……それならば説明がつく。今消し去った肉体をは別にもう一つ、それぞれに魂を分けていた……だから、片方を殺しても完全に殺すことはできない。
ならば今失った、半分の魂。それがドッマに、何が影響を及ぼすのか。……そこまではわからないし、そのことでこの悪魔と問答するつもりもない。
奴は言った、まだ実験は途中段階だと。それは……今後、魂を分ける器となる肉体を増やしていくと思われる。そんなことになったら……それを想像するだけで、ゾッとする。肉体は複数でもあくまで魂の大元が一つだというなら、その人物の意思で複数の行動を起こせることになる。
しかもそうなれば、器となる肉体を量産する必要がある。こんな悪魔的所業を行う悪魔だ、かりそめの肉体を用意することなど造作もないだろうが……その矛先が、人間に向かないとも限らない。
何としても、止めなければならない。




