キルデという男
「一番厄介……というのは、力関係の問題……だけでは、ないんだね?」
一足先に気がついたらしいエドさん。そう、力が強いのも厄介なのは厄介なのだけど、キルデにはそれ以外のものが、厄介さがある。
それは、私よりもおそらくオルちゃんの方がわかっているだろう。なぜなら……
「キルデは……私の、幼なじみですのよ」
そう、キルデはオルちゃんの幼なじみ。……正確には、幼なじみ"という記憶を植付けられていた"相手だ。それは、つまり……
「幼なじみ、って……それ……」
「えぇ。アカリさんやユメちゃんと同じ……いえ、ある意味もっと悪質ですわね」
ヒロトと幼なじみだという記憶を植付けられていたアカリちゃん、ユメちゃんと同様の現象だということ。それがどこまでどれほどの影響を及ぼすのかわからないけど、少なくとも本人や周囲の人間が異変に気づくことはない。
こう聞けば、オルちゃんとユメちゃんにも共通点がある。だけど、オルちゃんが語ったようにそれは、ある意味オルちゃんの方が悪質なことをされているのかもしれない。
「悪質って?」
「それは……」
少し言いにくそうにしているオルちゃんに変わり、私が話そうと思ったが……それを止めて、彼女は語る。キルデとヒロトが、彼女達に施した『違い』について。
三人共、ヒロトやキルデを幼なじみだと記憶を植付けられていた。けどそれは、意図的かそうでないか、に分かれる。
キルデは、人間界に潜り込むために自らオルちゃんに記憶を植付けた。対してヒロトは、自分が魔王だと知らなかった。つまり、ヒロトの意思とは関係なしに記憶が植付けられた。
この二人には、小さくも大きな差がある。ヒロトは意思に関係ないほどに周りに影響を与える力を持っていた。無意識ではあるけど……いや、無意識だからこそ危険な力。
逆にキルデは、自分の意思で記憶を植付けている。それは、どんな手段を使っても目的を果たすという表れでもあるし……何より、人の記憶をいじる、なんて恐ろしい力を持っているということでもある。
それがキルデの能力か、それも含めてなのかはわからないけど。
「そもそも人間界に降りてきたのは、魔王であるヒロトを観察するって意味合いだったらしいし……やっぱり、キルデは特別なのかも」
大参謀って響きも何だかすごそうだし、悪魔四神含めた他の悪魔とは一線を引いた位置にいる悪魔なのかもしれない。実力も立場も、他とは圧倒的に違うものがある。
魔王であることが、悪魔のトップなのだとしたら今の悪魔の頂点に立つのはヒロトだ。
……でも、魔王になった直後はともかく再度会ったヒロトは、悪魔のトップ、という仰々しいものは感じなかった。どちらかというと、魔王という椅子に座っているだけの、抜け殻のような……
「もしかしたら、一番厄介なのは……キルデ、なのかも」
抜け殻というのも単なる表現だし、そんなに長い時間一緒だったわけでもないから実際はわからない。ただ、この予想通りなら、本当に厄介なのはキルデかもしれないということになる。
キルデは、何を考えているのだろう。人間に対しても……他の悪魔と同じように、どうでもいい存在、としか思ってないんだろうか。
「……」
この中で、一番キルデに近いのはオルちゃんだ。彼女が今何を思うのか、わからない。オルちゃんがキルデに何を思うのか……そしてキルデが、オルちゃんのことをどう思っているのか。それは、わからない。
ただ……あの時、キルデが最後にオルちゃんに見せた表情。あれは……少なくとも、どうでもいい存在に向けるものでは、なかった。




