ヒロトの目的
目の前で死んだお父さんの姿が、フラッシュバックされる。もしも生き返ってくれたら……そんなことを考えたのは、一度や二度ではない。でも、それが叶うことはありえない。
『生き返り? 無理無理、ゲームの世界じゃないんだから』
以前、みんな(といっても学園時の私はエルシャにひどい態度とってたけど)で話している時に、何かの話題でエルシャがこんなことを言っていたのを覚えている。
確か、神様なら例えば死んだ人を生き返らせれるんじゃないか……と。
『確かに命を創造したのは、神よ。星に自然を、命を与えた。けどね、死んじゃった人を生き返らせるなんて絶対にしてはならないの。生態系が崩れしまい、世界に大きな影響を及ぼしかねない。死んだら死んだで、生まれ変わって新しい命になるだけよ』
いつも神様だ神様だと偉そうにしているのに、いつも適当で。だけどたまに真面目な、元神様。エルシャは、確かにそう言っていた。
もしかしたら、悪魔ならそんなことは気にせずあらゆる手を使ってでも方法がないか試そうとするかもしれない。
でも……
「ヒロトは、アカリちゃんのことを覚えてない。なのに生き返らせる理由はないよ」
ヒロトにとってアカリちゃんは忘れられた存在。そんな人物を、わざわざ生き返らせようとは思わないだろう。
それに、そんなことを考えていたとしたら、あんな無気力な目はしないはずだ。
「あれ、じゃあ何のために落第さんはアカリさんを?」
「落第さんってすごい久々に聞いた」
落第さん、とは、学園で落第生扱いされていたヒロトに付けたオルちゃん命名のあだ名である。
久々に聞いたというのも、オルちゃんがわざわざヒロトについて言及することはなかったし、そもそもこんな状況になってまでまだそのあだ名を使ってると思ってなかった。
「わからない。けど……もしかしたらだけど、まだヒロトの中で、アカリちゃんに対する……ううん、人間の記憶が残ってるのかもしれない」
ただの希望的な推測で、根拠は何もない。ただ信じたいだけなのかもしれない。……こんな状況になってまで信じたいだなんて、甘いことを考えちゃってるな。
でも、根拠がまったくないわけではない。でなければ、放った弾丸がエルシャを撃ち抜いたあの時……ヒロトが涙を流した説明が、つかないから。
無意識下だったとしても、何かしらの影響があの時、あったのだと思う。
「だからヒロトは、アカリちゃんの……その……」
「大丈夫だよリー姉。気を遣ってくれるのは嬉しいけど、気にしないで」
「……わかった。だからヒロトは、アカリちゃんの……遺体を、自分でもわからないうちに手元に置いてるんじゃないかと……思う」
人間としての記憶が残ってると仮定すれば、納得できる部分はある。もちろん、意識下では記憶はない。でも、無意識下でもしかしたら……
だとすれば……この中で一番影響力のあるであろうユメちゃんをヒロトに会わせたら、いったいどうなるんだろう。アカリちゃんとうり二つの妹、ヒロトの中でも大きな存在であろう、ユメちゃんを。
「ふむ……聞いた話だと、彼の戦闘能力は未知数、ということでいいのか?」
ここで、私達とは違いヒロトと交友も面識もない、ある意味第三者的に立ち位置にいるエドさんが口を開く。ヒロトとの交友があった私達では、少なからず感情が働いてしまう。
その点、ヒロトと何の関わりもない彼の存在はありがたい。
「そうですね。魔王になる前は、体術が少し強いってくらいなのと……あと、目がいい」
神力が凄まじく弱かった彼は、体を鍛えていたらしい。現に神技冠祭では、それを駆使して戦っていた。その最中、『神力を打ち消す神力』が発現したのだ。
神力を無効果すると言えば聞こえはいいが、その実同じ力を持つ人間……同族の力を殺す、『同族殺し』だ。
そのことに気付いていれば、何か変わったのだろうか。……そんなこと、考えてもしょうがないことなのに。
「『神力殺し』か……おまけに、その力を応用した『神封錠』。これを付けられた者は、神力を使えなくなると」
そう。それこそが、世界が、人々が支配されている一番の原因なのかもしれない。神力を使える人間は、神力が使えないと無力になる。
全員が全員そうではないだろうが……少なくとも、何の力もない人になるのは確実だ。
体術だとそれこそ、悪魔には勝てないだろうし。
「そうなると、この中で落第さんとまみえることができるのはリーさん……あ、ドッさんの剣はどうなんですの?」
「『星砕き』だね。確かにこれは神力は関係ない。僕のはあくまで『神力を利用した特殊な空間』にコイツを納めておくだけだから、『神力殺し』は関係ない」
まあ剣を納めた状態で『神封錠』をかけられたらどうしようもないけど……と、私達と出会ったときのエピソードを交えてエドさんは語った。
そうなると、天力を使う私と、剣を持った状態のエドさんならばヒロトと対峙できるってことか。後は魔物と合体したスカイくんもだけど、彼には不確定要素が多すぎる。
どのみち、対峙させるつもりはないけど。




