人間か魔王か
「こっほん……えー、じゃあ悪魔サイド、それから私達サイドの状況をまとめたいと思います」
何だか話がそれてしまっていたような気がするが、切り替えよう。手を叩いて咳ばらいをして、みんなの注目を集める。
「そうですわね。いろいろ増えすぎて正直頭痛くなってきたところですもの」
と、便乗するようにうなずくのはオルちゃんだ。スカイくんはまだ理解できるとは思えないけど、特に反対はない。エドさんも動揺に。ユメちゃんに至っては、まったく情報はないだろう。
「じゃあさっそく……まず、悪魔を率いてる、って言い方は正しいと言えるのかわからないけど、その存在。……魔王って呼ばれてる……ヒロト・カルバジナ」
いきなり、確信に迫るような発言。少し言いづらかったのは、ヒロトが以前私達と仲良くしていたから……だけではない。きっとここに、ユメちゃんがいるからだ。
今ここにいる中で、彼に一番近いのは彼女だろう。神力学園からの私やオルちゃんよりも、付き合いの長いであろうヴィールズ姉妹。姉であるアカリちゃん共々、仲が良かったのだろう。
「……本当に、ヒロ兄が?」
だから、メルガディスの言葉を受けても、私達が肯定しても、まだ信じられないのは当然かもしれない。私には兄と慕う存在のような人はいないけど……その人が、人ではなく悪魔である、どころかその親玉的な存在だったのだから。
「うん、残念だけど……この目でちゃんと見た。魔力も纏ってたしそれに……纏っていた魔力はただの悪魔なんかよりうんと濃いものだった」
あの時感じた魔力。不安定なものとはいえ魔力とは人間にはありえないものだし、他の悪魔からの扱いも敬意を持たれて接されていた。それに、二度目にあった時……不安定だった魔力は落ち着いており、何と言うか……魔王としての風格が、あった。
「そっ、か……じゃあ本当に、お姉は魔王になったヒロ兄に……」
実際に見ていないユメちゃんには、やはり受け入れづらい現実。でも、受け入れてもらわないといけない。ヒロトが魔王であること。魔王となったヒロトに、アカリちゃんが殺されたことを……
「……あれ、ちょっと待って」
その時、私の頭の中で何かが引っ掛かった。何か、何か違和感がある。この違和感は、えっと……ヒロトが、アカリちゃんをその手にかけた。それは間違いない。問題は、その時のヒロトの状態は……
「違う……魔王になったヒロトにじゃ、ない。あの時、言ってたんだ……最も愛する者を手にかける、それが魔王復活の段階、って」
そうだ、あの時ヒロトは……突然、苦しみだした。それも、尋常じゃない苦しみ方。それを心配したアカリちゃんがヒロトに駆け寄り、そのヒロトの手によりアカリちゃんは……
直後、どす黒い魔力が溢れ出した。その時"あの悪魔"が言っていたのが、この言葉。それは、ヒロトにとって愛する者、アカリちゃんの命をヒロトの手によって奪うことによって魔王が復活するということ。
つまり……
「じゃ、あ……お姉は、人間のヒロ兄に……殺されたの?」
アカリちゃんは……『魔王』としてのヒロトではなく、『人間』としてのヒロトに殺されたということだ。
あの時の尋常な苦しみ方から……いや、苦しんでなくてもそうだろうが、ヒロトがアカリちゃんを殺すなんてありえない。少なくとも、普通の状態では。
だけどあの時のヒロトは、普通じゃなかった。もがき苦しみ、その最中にアカリちゃんの腹部を、その腕が貫いた。それによりアカリちゃんは命を落とし、それが引き金となって魔王が復活。これが正しい順序だ。
これを正確に話していなかったから、ユメちゃんは誤解していたのかもしれない。いや、私達も正しく理解していなかった。『人間』であるヒロトではなく、『魔王』となったヒロトがアカリちゃんを手にかけたのだと。
だけど……ヒロトがアカリちゃんを手にかけたことに変わりはない。そこを『人間の』と捉えるか、『魔王の』と捉えるか。それにより、少なくともユメちゃんの気の持ちようは違ったのかもしれない。
それが、普通じゃなかったとはいえ、『人間の』ヒロトがアカリちゃんを手にかけたとなると、彼女の中での気持ちは大きく変わるのかもしれない。
あの時の状況を見ていないユメちゃんには、実際の状況は伝わらない。だから、『人間の』ヒロトが行ったという事実は、彼女に大きなショックを与えていた。
「そんな……あんまり、だよ。魔王だか何だか知らないけど、なに、それ……」
……今日だけで、どれだけユメちゃんの心は折れたのだろう。いずれ知ることとはいえ……事実を伝えるのが、こんなにも辛いことなんて、思わなかった。




