私も連れてって
「あの……私も、連れてってくれないかな。一緒に」
……ユメちゃんがそう願い出たのは、しばらく休んだ後、ようやく自力で動けるまでに回復した頃だった。
激闘の後だったため、回復に時間を要した……のは事実だけど、本来ならばもう少し早く治っていたはずだ。
自前の天力で、オルちゃんの神力で……これまでなら、怪我はすぐに治っていた。だけど今回は怪我が怪我だけにすんなりとはいかなかった。……という理由だけではないんだろう。
天力も神力も、瀕死の状態の私の体には効果がなかった。それは怪我の具合がこれまでで一番ひどい、というものではなく、瀕死に陥った私の体に起こった状態が天力も神力も拒否したんじゃないか。そう思えた。
つまり、いつもなら天力や神力で体の怪我を治していたのだが、今回は天力でも神力でも治癒することが出来なかった。だから、自然治癒を待つしかなかったのだ。
あの怪我の具合から歩けるようになれるまで回復するのに、かなりの時間を要した。
回復したそのタイミングで話しかけてきたユメちゃん。その腕にはゴンゾウを抱え、近くの岩場に座っている。ユメちゃんからの申し出……それは、正直予想していないわけではなかった。
何でか、旅に同行すると言ってくるんじゃないか……そう思っていたのだ。だから、驚きはなかった。
予想はしていたこと。だけど、それと同行を許可するかは別の話だ。
「ユメちゃん……私は、キミには安全な所に逃げてもらいたい。私の知り合いの天使がいる組織があって、そこなら……少なくとも、私達と旅をするよりは安全だよ」
旅の同行……その申し出を私は、嬉しくは思えない。ユメちゃんと……アカリちゃんの妹と会えたことは、嬉しい。本当だ。
だけど……いやだからこそ、彼女には危険な目にはあってほしくはない。私達と来れば、嫌でも辛い現実とぶつかることになる。
その点、カーリャさん達のいる組織『天』であれば、安全なはずだ。天使に化けた悪魔が紛れていた手前、確実とはいえないが……少なくとも、私達といるよりは。
それに戦力だって、私達よりも充実している。何かあっても、守ってもらえる。
「だから……」
「わかってる。神力も使えない私がいても何の力にもならない……どころか、足手まといになるかもしれないってこと。でも……」
やんわりと、断ろうとした。必要であれば、言葉はキツイようでも足手まといだなんだと言って、突き放そう。そういった思惑は、すんなりと否定された。
ユメちゃん自らが、自分の力不足を自覚しているのだ。ならば、どうして……?
断ろうとした私の口は開いている。なのに、続きが出てこない。……私のことをじっと見つめるユメちゃんの瞳が、あまりにもまっすぐで強いものだったから。
それはまるで、姉であるアカリちゃんそっくりのようで。だからか、とっさに言葉が出てこなかった。
私の心境がわかっているのかいないのか……ユメちゃんは、続ける。
「お姉が……死んだ……いや、殺されたってこと。ヒロ兄が、魔王だってこと。……私にとってはどっちも大切な人で、信じられない。信じたくない。……それでも、これが現実だっていうなら……ちゃんと向き合わなきゃいけない。現実と向き合うのは怖いけど、でも……ちゃんとこの目で、見届けたい。ううん、見届けなきゃいけないと思う」
話している最中にも、思うところがあったのか若干涙声になっている。それでも、瞳から涙は流さず、瞳をそらすこともせず、強い意思を込めた瞳を私に向けてくる。
……弱ったな。その目、向けないでよ。
「……辛い現実と向き合う覚悟は、あるみたい。でも……」
覚悟のほどは、充分伝わった。本当ならば、この想いに折れていただろう。だけど、これはそう簡単にはいわかりましたと首を縦には振れない。ここまで聞いても、やっぱり危ない目にあってほしくないのだ。
そんなことを思う私は、結構自分勝手なのかもしれない。
「覚悟は充分あるみたいだね。でも……残念ながらキミじゃ力不足だ。自覚があるだけまだマシだが、なればこそおとなしくしているべきだ」
いったいどうしたらいいのか……思い悩んでいたところに別の声が耳に届く。それはエドさんのもので、内容はばっさりと厳しいものだ。
エドさんらしくもない……いや、もしかしたらエドさんらしい言葉。
私がユメちゃんを同行させるのに揺れているのを見抜いて、その上でユメちゃんに言葉をかける。厳しくも、その中にはユメちゃん、そして私に対する思いやりがあった。
「私じゃ、何の役にもたてない……それはわかってる。だから……教えてください! 体術でも、剣術でも、もちろん神力でも……何でもやります! だから……!」
「……何でも、か」
力不足は重々承知。その上で、彼女は強くなろうとしている。着いていきたい……そのわがままに見合っただけの強さを手に入れると、その瞳が語っている。
……まったく、強くなりたいのは、私もなんだけどな。というか、神力はやろうと思ってやれるものではないし。
その姿勢を受けて、エドさんにも思うところがあったらしい。顎に手を当て、頭を下げているユメちゃんのことを見下ろしながら……
「あ、ドッさん今『何でも』でえっちなこと考えましたわね!?」
「……!?」
「え……」
「ご、誤解だ!」
……シリアスブレイカーオルちゃんに振り回されていた。
オルちゃんからのまさかの言葉に、エドさんは慌てている。ユメちゃんはというと、自分の体を抱きしめるようにして若干引き気味だ。
ゴンゾウに至ってはユメちゃんの腕から下りて威嚇体勢。ユメちゃんを守るようなその様子、どうやら本当に懐いているらしい。
あれ、今まさに大事な話してたんだけど!?
「いや誤解だって! オルテリアも、こんな時にそんなふざけないでも……」
「こんな時だから、ですわ!」
いつも冷静なエドさんがこうも焦っているのは何とも新鮮だ。オルちゃんだからこそ、引き出すことができるのだろう。私だとこうはいかない。
あらぬ誤解を受けたエドさんであるが、誤解を与えた本人はなぜか堂々としている。こんな時だから、と自信満々に、その豊かな胸を張って立っている。
「みんな暗いですわよ。暗いと何をするにもうまくはいきませんわ。だから……こういう時にこそ、明るくならないと! 落ち込むくらいなら笑っとけ、ですわ!」
手を広げ、明るく明るく、とその顔には笑顔を浮かべている。暗いと何もうまくいかない、か……
私達の気分が落ち込んでいるのを見て、空気を明るくしようとあえてのさっきの発言なのだろうか。
今回、彼女はバランダの毒の影響で寝ていた。だから私の暴走の件も、スカイくんの件もまだ知らない。知らないからこそ、できることなのか。
……いや、多分知ってても、オルちゃんなら今みたいに笑っているはずだ。
何も考えてないようで、実は結構考えてるっぽいんだよな、オルちゃん。たとえ最悪な状況であろうと……彼女の笑顔が、私をどれだけ救ってくれたことか。これからも、彼女の笑顔に私は……みんなは、救われていくのだろう。
……そう、思っていた。
信じて疑わなかった、彼女の笑顔が見続けられると。だからこの先、彼女の……オルテリア・サシャターンの笑顔が失われることになるなんて、思わなかったんだ。




