不死の人形
「ふふ、力のない神を消すだけの簡単な作業かと思いきや……これは思わぬ展開だ! せいぜい楽しませてくださいよ?」
高らかに笑うメルガディス。その瞬間、空気がぴりついたように感じた。自然と、俺達は警戒の体勢をとることに。特に奴に狙いを定められているアカリの緊張感はこちらまで伝わってくるようだ。
みんなが警戒する中で……それは起こった。突然のことだった。辺りの地面から、何かが出てきたのだ。それも、一つや二つではない。
「な、何だありゃ……」
何もないはずの地面から、まるで水の中から人が上がってくるかのように何かが生まれ……それが、人型の形を成していく。き、気持ち悪い……
「あれは……メルガディスの傀儡」
「傀儡?」
「人形のようなものよ。ああやって奴は、作り出した傀儡を自分の兵隊として操っているの。無から有を……しかも、無限に作り出せるからタチが悪い」
起こる現象を解説するのはエルシャ。その内容は驚くべきものだった。無から有を作り出すという、反則くさい能力。何もないところから、人形が生まれているのはその能力だっていうのか?
しかもそれを、無限にだなんて……反則に反則を上書きしているようなものだ。確かに、人形は増え続け早くも数十といった数になっている。
「これが私の“無限の兵隊達アンリミテッドソルジャーズ”……さあ、数で押しきって……」
バリバリッ!
生まれた人形が襲いかかってきそうになった次の瞬間、複数の人形に同時に雷が落ちる。撃たれた人形達は、為す術なく崩れていく。こ、これは……
「みんな同時に倒せば、無限でも関係ないよね?」
雷の……というより雷を落とした人物の正体は、やはりアカリだった。あれだけの人形に同時に、雷を落とすなんて……これならば、確かにどれだけの数がいても関係ない。
……関係ない、はずなのだが。
「くくっ、面白いですねぇその力……ですが……」
人形がやられているのに、不敵な笑みを浮かべるメルガディス。何がそんなにおかしいのかと思って再び人形に目を移す……すると、崩れ落ちたはずの人形が再び、形を成していくではないか。
「なっ……」
「こいつらは、数さえ気にしなければ怖くはない……けど、厄介なのはその再生能力よ」
一斉に倒したはずの人形達が、粘土のようものから再び人型へと変化していく。無限に出てくる上に、倒しても復活するなんて……そんなのありか!?
「ふはは、余り物は人形の相手でもしてなさい。ただ貴女は別です。アカリ……そう呼ばれてましたね? 貴女は私が直に殺して差し上げますよ」
「ヒロト……!エルシャ、リーシャ!」
心配なのか、こちらを振り返るアカリ。自分な一番厄介な奴に狙われているのに、俺達の心配なんて。……しかしその心配に応えるように、リーシャが自分の胸を叩いた。
「アカリちゃん! こっちは任せて! こんな奴らなら、私でも何とかできるから!」
そう、俺とエルシャは力はないが……リーシャは違う。ちゃんと神力を使える。……というか、使えない俺がおかしいんだけど。リーシャの言葉に、安心したような顔になるとアカリはメルガディスに向き直る。
「では、始めましょうか? 楽しい楽しいお遊戯会を」
「……悪趣味」
アカリなら、きっと大丈夫だ。今は、目の前のことに集中しないとな。俺なんかがアカリを心配しても、どうにもならないんだから。
「アカリちゃんには遠く及ばない、Cランクの私だけど……こんな奴らに、負けない!」
迫る複数の人形を相手にするのは俺とエルシャ、そしてリーシャだ。この中で一番力があるリーシャが告げ、手を銃の形にすると指の先から、炎の弾を放っていく。
先ほどのアカリが出した雷ほどの威力はないが、撃たれたそれらは正確に人形の額を撃ち抜いていく。寸分狂わずに、ヒットする。
「す、すごい……」
「リーシャは、ランクこそCだけど……そのコントロールは、ずば抜けて高いんだ」
神力のランクは、あくまで総合的なものだ。各パラメータが複数高ければもちろん総合的な評価上がるが、低ランクでも一部のパラメータがずば抜けているパターンはある。
証拠にどれだけ連続で撃っても、リーシャの撃った弾は外れることはなく確実に人形の眉間を撃ち抜く。
しかし、人間にとっては急所でも……再生人形には意味がなく、次々復活していく。
「くっ……さすがに数が……」
決して頑丈というわけではない。だが倒しても復活する上に、無限に増えていくのではキリがない。リーシャ一人ではジリ貧だ……それどころか、数が増えるのだからこちらが押される一方だ。
「お、俺も何か……」
こんな時何もできないなんて……情けなさすぎる。神力は使えないけどせめて、武器になるようなものでもあればそれを使って……
「あ、これ使って!」
武器を探す俺に、そう言ってエルシャが渡してきたのは……金属バットだった。
「なん……だと……」
これで戦えと? そりゃ武器探してたし、この際だから贅沢言えないけどさ……てかそもそも何でこんなの持ってんだ?そしてどこから出したんだ?
「ほら、早く早く!」
……っと、考え事は後だ。どうやら迷っている時間はなさそうだ……!
「くそ、こうなりゃやけだ!おらぁ!」
近づいてくる人形を、金属バットで殴る。思ったよりも柔らかく……グニャッとした感触が伝わり、背筋が震える。まるで粘土でも殴ったみたいだ。き、気持ち悪い……
だけど、アカリやリーシャの攻撃ですら効かないのにこんな殴打が効くわけが……
「お?」
再び復活することに構えて見ると、今しがた殴った人形の様子がおかしいことに気づく。殴ってへこんだ頭の部分が元に戻っておらず、痙攣しているように震えている。
「効いてる……?」
「な、何で?」
俺もそうだが、エルシャも驚いている。ということはつまり、このバットに特別な力があるというわけではないらしい。
……もしかして、こいつらには打撃が効くのだろうか? アカリやリーシャと違い、俺は直接攻撃で叩いたから……?
まあとにかく、効くとわかったからにはこんな奴ら蹴散らしてやる!
「リーシャ、援護頼む!」
とにかく、これが有効だとわかったのだから俺が前に出ないと。先ほどから頑張ってくれてるリーシャには、援護をお願いする。
「!わ、わかりました!」
迫り来る人形を殴り倒しながら、辺りを駆け回る。こんな攻撃が効くなんて……やってみるもんだな。リーシャも、さすがに驚いてるらしい。
さっきまで不死身の軍団だったけど、弱点さえ見えればただのもろい人形だ。これならいける……次々倒していきつつ、そんな希望が見えてくる。
しかし、やはり多勢に無勢……倒してもその分新たに生まれてくるので、いくら倒してもキリがない。かといって倒さないと、増え続ける一方だ。何だこの無限ループ。
やっぱり、こういうのは操っている本体を倒さないといけないのが定石なのか……メルガディス、あいつを倒すことさえできればこの人形達も消えるはずだ。って、結局アカリ頼りになっちまうかよ。
奴と戦っている、アカリに目を向ける。そこでは、激しい戦いが繰り広げられていた。ぶつかり合う力と力……というべきだろうか。メルガディスが放つエネルギー弾に、対抗するようにアカリの神力がぶつかっていく。
見ているだけでも、とんでもない戦いだというのはビンビン伝わってくる。戦いの衝撃がこっちまで伝わってくるしな。
……しかし、気になったのはその表情の差だ。一見互角に見える戦いだが、アカリの表情は険しい。当然だ、誰かと本気の戦いなんて経験、あるはずもないんだから。しかも相手は悪魔だってんだ。
対して、メルガディスの表情は涼しいものであった。悔しい話だが、こればかりは経験の差と言わざるを得ない。それでもちゃんと戦えているアカリのポテンシャルはさすがと言うべきか。
……その時だった、アカリの背後から、魔コウモリが迫っているのが見えた。アカリは気づいていないようだが、まずい。アレに噛まれたら……
「アカリ! 危ない!」
とっさに駆け寄ろうとするが、人形達が邪魔をして動くことができない。アカリはメルガディスとの戦いで周りに気を配る余裕がないようで、その間にも魔コウモリは迫り……
「キィー!」
気づいたのは、魔コウモリが今噛みつかんと鳴き声を上げた時だった。振り向いたアカリだが、その距離は目前に迫っていて、そのまま無防備な首を……
パンッ!
……アカリの首筋に魔コウモリが噛みつこうとしたその瞬間……魔コウモリの首から上が吹き飛び、それによって力を失った魔コウモリは地に落ちる。
それは、リーシャが魔コウモリの顔を吹き飛ばしたことによるものだった。あの距離で、リーシャは正確に魔コウモリの顔を撃ち抜いたのだ。
「リーシャ!」
「戦いの最中に後ろから狙わせるなんて……ずいぶんせこいことするんだね、悪魔って。四神って言うけど、やっぱり小物?」
「……ほぉ」
リーシャのナイス判断によりアカリは間一髪助かった。くわえて、メルガディスを挑発することも忘れない。いつもの物静かな彼女からは考えられないが、エルシャへの態度といい、もしかしたらリーシャの本性はこっちにあるのかもしれない。
何はともあれほっと一息。……だがそれも、つかの間のことだった。次の瞬間……リーシャの体が黒い歪みに包まれ、かと思えば黒い歪みは花を散らすように消える。そして開けたその場に……リーシャの姿はなかった。
「……リーシャ?」
呆然としてしまったが、アカリの声に我に帰る。見るとそこには……人の影も形もなかった。今の今まで、そこに居たはずの……リーシャの姿が、そこから消えていたのだ。
「あんた、リーシャに何を……!」
アカリの怒りの矛先は、当然メルガディスに向かっていた。体中に迸る電流がその怒りの大きさを表している。問答無用に放たれる電流は、しかし涼しい顔で受け流される。
「ははは、大丈夫ですよ……今のところはね」
意味深なメルガディスの言葉。……今のところは、だって?それってどういうことだ?
浮かんだその疑問に答えるかのように、話すのはエルシャだ。
「今のは、別の結界を作りその中に彼女を放り込んだ。つまり、奴は私達を分断するために、彼女を孤立させたってことよ」
「それって……」
孤立……ってことは、リーシャはたった一人で同じような局面にあるかもしれないってことか!?その意味を理解した瞬間、背筋が震える。
「これで、私の人形に有効な攻撃手段を持ってる貴方達も、あの娘の援護がなければ長くは持たないでしょう」
「よくもリーシャを!」
「だからまだ死んでませんって。ま、急がないとどうなるかわかりませんけど」
嫌な笑みを浮かべながら、メルガディスはこちらを見ている。……確かに奴の言う通り、いかに人形への攻撃手段があるとはいえリーシャの援護なしでは、そう長くは持たない。
それに単純な話、彼女の行方が気になり集中力が乱れる。戦いどころではない。
「不死身の兵隊に加え、部下も送っておきました。一瞬でケリがつきますよ。楽しみですねえ……彼女の死体を目の前にした貴女の表情。想像しただけで涎が出そうだ」
「なら……」
さすがは悪魔……と言うのは正しいかわからないが、いい性格をしていやがる。苛立ちと焦る気持ちとが湧いてきているのがわかる。こうしている間にも、リーシャは……!
俺より断然リーシャとの付き合いが長い、アカリは? ……そう思い、アカリのいた所を見ると、すでにそこにアカリの姿がなかった。さっきまで距離があったはずなのに、一瞬でアカリはメルガディスの懐に潜りこんでいた。
足には、電流が走っている。それを見て、まるで瞬間移動のような超速移動に一つの見解を得る。おそらくあれは、電流を利用して、足と地面との摩擦力を弱くしているんだ。現に、足は少し地面から浮いている。スケートのような感覚だろうか。
「あんたを速攻で倒して、結界を解く!」
懐に入り込んだアカリは右拳に炎を走らせながら、それを奴の腹に打ち込んだ!直撃すれば、それは充分な威力となるパンチだ。電気やら炎やら、様々な属性を使いこなしている。
「本人を吹っ飛ばしたら、結界は消えるでしょ」
「……えぇ、吹き飛ばせればね」
……確かに拳は直撃したように見えた。だが奴は……吹き飛ぶどころかアカリの一撃を受けて、平然と立っていた。




