めんどくさい
見た目にも、気だるげな様子がうかがえる少年は、ここに来たことに不服そうな言葉を吐く。
「すみませんねぇ。ただまあ、念のために」
「そんなことのために……? いちいちこんなとこまで来るのがめんどくさい。なのにわざわざ来て何もなしって、さらにめんどくさいんだけど。せっかく足を運んだのが無駄ってやるせない。……はあ、しゃべるのめんど」
白い少年は、怒っているわけではなさそうだ。かといって、感情を読み取れるわけでもない。だからこそ、不気味なのだろうか。
わざわざ出向いたのに、何もなしで帰る……そのことに不服を感じているようだ。
「まあでも……めんどくさいけど、せめてここに来た意味くらい作るとするかな」
白い少年の目が、こちらを見る。ここに来たのに何もせずに帰るのが嫌だというのか……理屈はさっぱりだが、このまま相手がおとなしく帰るという選択肢はなくなった。
そもそも、メルガディスがバランダを迎えに来ただけなら、一人だけでいいのだ。なのに他にもいたということは、もしかして最初からこうなることを予測していた?
私はこれでとか言っておいてこちらを安心させて、実は自分以外に戦いを任せるとか……
「性格悪……」
新たな戦いの幕開け。だけど私にはもう、戦うだけの力は残ってない。
「ここは、僕に任せてくれ」
すると、この場において、私達の中で唯一戦える人物、エドさんが一歩前に出る。その視線は鋭く、向かい側にいる白い少年を睨みつけている。
『星剣』"星砕き"を扱うその実力は高く、並の悪魔では相手にならない。その実力を私は信用しているし、だからこそ安心して任せることが出来る。
エドさんも、それをわかっての申し出だろうか。付き合いはまだ短いが、それでもそれだけだけの信頼関係は築けていると思う。
……とはいえ、相手が相手だ。その実力は未知数。メルガディスが相手でないのはひとまず安心とはいえ、だからといって安心は出来ない。悪魔四神より強い……とは思えない。というか思いたくないが、だから弱い、とはならない。
それに、メルガディスを『メル』だなんて気安く呼ぶなんて、もしかしたらよっぽど立場が近い位置にいるのかもしれない。
「えっと……剣の兄さんが、相手なわけ?」
「エドワード・アルスカンだ。まあ覚えてもらわなくて結構だが」
「ふーん……じゃあめんどいからエドで」
……もしかして、メルガディスって呼ぶのがめんどくさいから、名前をはしょっただけじゃないよね?
「ほう、あれが例の……では、あなたにも一応剣を渡しておきますね」
言って、メルガディスは何もない空間に手をかざす。すると、何もないはずの空間から突如として剣が現れる。そう、あれがメルガディスの、"無から有を生み出す"能力。
見たところ何の変哲もない剣だが、だとしても無尽蔵に生み出せるのだから恐ろしい。
「へぼそうな剣だ」
「そう言わないでください、上等なものや無数のもの生み出すには上質な力がかかる……ここで力を消費しては、ふとした瞬間に目覚めた彼女に殺されそうだ。……それに、上等であろうとなかろうと貴方には関係ないでしょう? では、ご武運を」
何やら意味深な言葉を残し、メルガディスはその場から消える。というより、作り出した闇の空間に吸い込まれていった。結局、奴を逃がしてしまった。
残された白い少年は、去ったメルガディスにもう興味を失ったのか、剣をぶんぶん振り回し……エドさんに笑いかける。
「せっかく名乗ってくれたんだから、こっちも名乗らないとね、めんどいけど。……どうも、自分は『怠惰』の名を冠する大罪魔獣、ベルフェゴール。めんどくさいから、手っ取り早く死んでね」




