モブ顔
突如として私達の目の前に現れたのは、悪魔四神の一角であるメルガディスだ。事態の変化についていけない。なぜ、こんなところに、こんな場面で出てくる……?
以前、神力学園にいた頃に私達の前に現れ、アカリちゃんと激闘を繰り広げた悪魔。魔界の中で上位の位に立つ四体の悪魔のうちの一体にして、アカリちゃんとヒロトにとって初めて目にする悪魔でもあったはずだ。
その時私は分断されて詳細はわからないのだが、途中乱入した先生が追い返したとのこと。
その後は、確か人魔戦争の時もアカリちゃんと相対していた。メルガディスは私にとって、悪魔四神の中で二番目に因縁のある相手だ。一番目は無論、お父さんを殺したゴディルズだ。
……まずい。この状況で新手、しかも悪魔四神だなんて、分が悪いどころではない。今私は戦える状態じゃない。オルちゃんも、解毒直後で今は眠っている。スカイくんとユメちゃんは非戦闘員。
戦えるのはエドさんだけだが、相手が相手だ。とても楽観は出来ない。
それに……現れたのはメルガディスだけではないのだ。奴の後ろに、もう一人いる。
風になびくさらさらの白髪は地面につくほどに伸びきっており、見た目も痩せていてひょろい。肌は病的に白く、服装も白いTシャツにズボンというラフな格好で、全体的に白い。
いったい何者なのか……これまでに見たことのある相手ではないことは確かだ。
ただ、言いようのない、気持ち悪さを感じる。実力は不明だが、この場に現れたということはただのモブ悪魔ということはないだろう。メルガディスに得体の知れない悪魔、ここで仕掛けられたら……
だがそこで、メルガディスが私達には目もくれずに告げる。
「さ、帰りますよ。バランダ」
「……あぁ?」
それは私達も予想してなかった、突然の帰宅宣言。それを受け、当然不服そうなのはバランダ。眉を寄せ、仲間のはずのメルガディスを睨みつける。
「やれやれ、ボロボロで見るに耐えませんね。そのままでは死んでしまいますよ?」
「知ったことか……! アタシはあいづらを……ごほっ! ころ、す!」
血の塊を吐き出しながらも、バランダは闘争心を隠さない。その殺意の塊ともいえる存在に、私は戦慄した。
あんなボロボロに……それこそ生きているのが不思議なほどの状態になってなお、私達を殺そうとしている。
「アタシはまだ……戦える! あいつらを……ころす、力…………こんな、もんじゃ……」
「……そのまま戦いを続ければ、確実に死につながりますよ?」
吠えるバランダに、呆れ顔のメルガディス。何だ……メルガディスは、私達を殺しに来たんじゃないのか? それとも、本当にバランダを連れ戻しにきただけ……?
「うる、せえ! てめえがら殺ずぞモブ顔が!」
「……やれやれ」
一向に引くつもりのないバランダは気にせず戦闘を続行しようとする。だが次の瞬間、メルガディスはバランダの背後に移動し……うなじに手刀を打ち込む。
するとバランダは気を失い……それを、メルガディスが支える。
「さて、と……彼女も回収したし、これで……」
「ま、待て!」
どうやら本当に、私達のことを気にかけていない。そのまま去ろうとするその背中に、私はつい声をかけてしまった。このままここからいなくなってくれたほうが、いいに決まってるのに。
案の定、メルガディスはその場に止まり、振り向く。
「これはこれは……お久しぶりですねえ。聞いてますよ、貴女達の活躍……『双翼の星』でしたっけ?」
「……何で、ここに……」
話しかけてしまった後悔と、ここで逃がしてはいけないという焦燥感とで板挟みだ。幸い、向こうから戦意は感じない。けど、それで警戒しないわけにはいかない。
「何で……おかしなことを聞きますね? 同じ悪魔として、彼女を連れ戻しにきただけですが?」
「意外ね……そんな、仲間意識があるなんて」
「彼女の力は、ここで失うには惜しいですからね」
仲間意識……という綺麗なものではないらしい。このままではバランダは死ぬまで戦う。その力が失われる前に、彼女を回収に来たということだ。メルガディスは私達を一通り見回す。
「ハーフエンジェルと人間の二人から成る『双翼の星』……二人だけかと思っていましたが、人数が増えたようですね。一人は戦えるようですが、一人は子供。そしてもう一人……おや?」
私とオルちゃんを見た後に、エドさん、スカイくんと視線を移動させていく。そして視線がユメちゃんに差し掛かったところで、メルガディスはここにきて初めて困惑の声をあげた。
アカリちゃんとうり二つの、ユメちゃんを見て。
メルガディスは、アカリちゃんと二度対峙している。そしてアカリちゃんは人魔戦争の時に、死んだ。私やメルガディス達の見ている前で、確かに。
その後、私の見た夢でなければヒロトによって死体が持ち帰られている。十中八九、現実だろうけど。
その件をメルガディスが知っているのかはわからないが……知っているにしろいないにしろ、アカリちゃんが死んだ事実に変わりはない。
そのアカリちゃんとうり二つの人物がいればさすがのメルガディスでも驚くだろう。
「あなた……確か死んだはず。なぜここに……」
「……もしかして、お姉を知ってるの? あのモブ顔悪魔」
いるはずのない人間がいる事実に、やはり困惑しているようだ。そんなメルガディスに、ユメちゃんは自分とアカリちゃんが重ねられていることを即座に理解、こんな状況でちゃんと頭が回っている。
自分を姉と勘違いしている悪魔に、ユメちゃんも不思議そうだ。そして……予想だにしない言葉で反応した。メルガディスに対してモブ顔だとは、それは奴に対するアカリちゃんの反応と全く同じだった。
やっぱり、姉妹なんだなあ。それに、やはりこの状況で口にするとは……
「……姉、なるほど納得です。本当にそっくりだ……それにしても、本当に失礼な姉妹ですね」




