危急存亡の前兆(オーメン)
ぼろぼろの状態なのに、それを気にも留めずに立ち上がるバランダ。その姿……いや執念に、もはや恐怖以外の感情が湧かない。
「なら、ここからは僕が引き継ごうか」
狂喜に震えるバランダに足がすくむ。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、一歩前に出るのはエドさんだ。私はこんな状態、オルちゃんは解毒の影響か眠りについている。
消去法でいくなら、エドさんしかいない。
その手に、『星剣』"星砕き"を構えて立つエドさんは、目の前の少女を睨みつける。
「……悪いが、見ての通りの状態だ、仲間を戦わせるわけにはいかない。とはいえキミの状態もかなり危うい。このまま引くなら……悪魔とはいえ追うつもりはない。だが……そのつもりがないようなら、相手は僕が勤める。卑怯だ何だと言ってくれて構わないよ」
「……ごいづは、ケンカじゃ、ねぇ……ごろじあいだ。卑怯なんて、ことば……そん、ざいしねえよ。……てめえを、殺したあとに……リーシャ・テルマニンをごろじてやるよ!」
相対する二人。まだあんな力が出せるのかと驚愕するほどにどす黒い魔力を放出するバランダを前に立つのは、ただの爽やかな青年ではなく、仲間を想う一人の戦士だった。
エドさんのあんな真剣な目、初めて見た。しかも、かなりの重傷である悪魔を目の前にしておきながら、逃がす選択肢まで与えるなんて。問答無用で切り伏せるかと思った。
バランダにとっては、余計なお世話でしかなかったみたいだけど。
瀕死の状態に見えるバランダは、しかし魔力を高める。それは弱々しくも、闘争心は全く死んでいないことを思い知らされた。あんな状態で、万全のエドさんを前にしてもなお。
なぜそこまで……それほどまでに、人間や天使への恨みは強いのか。あなたの記憶を見た……きっと、あなたも私の記憶を。私達は、わかりあうことはできないのか。
まだ、終わらない……緊迫した空気が流れる。先に仕掛けるのはどちらか……その静寂は、誰も予想だにしなかった形で断ち切られる。
「おっとそこまで」
この場の誰でもない声が、響く。だけど、私にとっては聞き覚えのある声。少し明るめで、どこか鼻につく声。
いつか相対することを想像し、しかし簡単には会えるはずのないと思っていた相手。
……この場に現れるはずのない相手。会いたかったけど、よりによって今現れてほしくない相手。
「何で……ここに……?」
戦況が、傾く音がした。声の方向に視線を向けると……奴はいた。
「お前は……!」
不気味に笑う、『悪魔四神』の一角であるメルガディスが、そこに立っていた。




