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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
ケモノとケモノ
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仲間という存在



「はぁ、はぁ……」



 オルちゃんと手を繋いだまま、私は膝から崩れ落ちる。張り詰めていた緊張感が、ぷつりと切れてしまったらしい。それに、体力も一気に……



「リーシャ、大丈夫……と言い難いのは明らかだが、それでも……大丈夫か?」



 私の背中を擦るようにして、エドさんが声をかけてくる。なるべく優しく、刺激を与えないようにしているようだ。でも私は、返事をできない。首を振ること、さえも。



「いや、無理はしなくていい」



 と、背中を擦り続けてくれる。落ち着けと言われているようで、その気遣いが嬉しかった。そんな私の前に、一つの影が立った。誰かの足元。その正体を確認するために、私は顔を上げる。



 そこには、赤毛をポニーテールにした、小柄な女の子……ユメちゃんが立っていた。睨みつけて、とも心配して、とも言えない複雑な瞳を向けており、口を固く結んでいる。その腕には、子犬型の魔物、ゴンゾウが抱えられていた。



 彼女にも……いや、彼女にこそ何を言えばいいのかわからない。私のせいで死んだも同然の、姉の死という残酷な事実を伝え、しかもこんな姿を見られて……何て言えばいい?



「……ぁ」



「リー姉ちゃん、怪我いっぱい。痛む?」



 何を言えばいいかわからないままに、口を開いたところへ、スカイくんが駆け寄ってくる。手を血に染め、手どころか体にも血を浴びている私に怯むことなく、話しかけてくれる。しかも、心配までしてくれている。



 ……この子にも、こんな姿見せちゃったんだな。



「うん……あ、痛むけど……平気」



 スカイくんに心配をかけまいとするが、つい本音が出てしまう。咄嗟にごまかすけど、ちゃんとできたかどうか。本音が出てしまうほど、今の状態はよくないと本能が言っているのかな。



 痛い……体も、心も。



「……」



 自分の手を見る。そこには血がべったりと付着していて、とてもじゃないが私を心配してくれてるスカイくんの頭を撫でてあげようとは思えなかった。結局のところ、何が起きたのか……自分では覚えていない。



 ただ、意識がなくなる直前、何だか黒いモヤモヤに包まれたかと思ったら……暗い、海のようなところにいた。ヒロトに、無間地獄に落とされたであろうときはまた違った感覚。もうずっと出れないのかと思ってしまっていた。



 でもそこへ、スカイくんの声が聞こえて……



「……また助けられた、か……」



 気付けば、そこには私を呼ぶスカイくんがいた。あの時……私に必死に呼びかけてくれたオルちゃんと同じように。また仲間に、助けられたのだ。



 私は、私がどうなったかを知らない。ただあの惨状を見る限り、とんでもないことをしてしまったのだということは理解出来る。その姿を、スカイくんに見られてしまった。全部かはわからないけど。それでも尚、私を元に戻すために危険を侵してまで私を抱きしめてくれた。



 ……でも……



「……」



 一瞬……ほんの一瞬だけど、私を見るスカイくんの目には『恐怖』が映っていたのを、私は見逃さなかった。



「うっ……くっ……」



 何が起きたのか、私は知らない。でも、何が起きたのかを予想することは出来る。血だらけのバランダ、付着した血、途絶えた意識……それだけ材料があれば充分だ。全部、私がやったのだろう。



 最後に聞いた言葉……感じた感情は何だっただろう。そして、今も頭に流れるこの記憶は……バランダのものだろうか。そうだとしたら、何と過酷な運命を生きてきたのだろう。だからといって、彼女がやったことが許されるわけではない。ここにいた人達、ユメちゃんを除いた人達を皆殺しにする、惨劇を起こしていい理由にはならない。



 バランダの境遇は、私と似ている。そして、対称的だ。



 私とバランダの決定的に違うところ……それは、環境だ。両親に愛されて育ち、その後も恵まれた仲間に出会うことができた私。母親に疎まれ自らの手に掛け、天使と人間に対する疑心と憎しみを育てたバランダ。



 もしも立場が違えば、私もバランダのようになっていたのだろうか。バランダは、私のようになっていたのだろうか。それは、もう誰にもわからない。



 倒れているバランダを見て、戦いに決着がついたことを確認する。胸の奥がもやもやする。こんな気持ちになったのは初めてだ。それはバランダという、今までで私に一番近くて遠い位置にいる存在と出会ったからだろうか。



 決して、わかりあえないとしても。



 それとは別の心配事が一つ。さっきから……レイの存在を、感じないのだ。仮契約とはいえ、精霊であるレイが傍にいれはいればわかる。けど、今は何も感じない。単に引っ込んでいるのか……それとも、私に愛想を尽かしてしまったのか。



 ……後者の方が可能性が高いかも。覚えてないにしろ、こんなことをしてしまった私に……精霊に、レイに見初められる資格はない。



 レイを失い、力が残ってないに等しい今の状態。もはやガス欠寸前だ。力を使い果たすことはなかったが……これじゃ、人魔戦争のときと一緒だ。感情に呑まれてしまったあの時と。



 スカイくんが止めてくれなければ、どうなっていたかわからない。バランダをあれ以上傷つけていたかもしれないし、オルちゃんを助けられはしなかった。自分の体が壊れるまで、暴れていたかもしれない。



「……行こ、リー姉ちゃん」



 そっと、私の袖を引っ張るスカイくん。その表情にはまだ若干の恐怖が見えるが、それでも離れようとはしない。彼なりに気遣かってくれてるのか、その優しさに救われる。私はスカイくんに引っ張られるように立ち上がって……



「……!?」



 その時だった。……背後から、どす黒い気配を感じたのは。




「……がふっ! はぁ……は、ぁ……」



 振り返る私は目を疑った。あんな傷を負いながら……立ち上がる、バランダの姿があったから。見ていて、痛々しいどころではない。全身は血に濡れ、触れただけで倒れそうだ。なのに……どうして?



「も、っとだ……もっ、ど! 殺し、あおうぜ!」



 血へどを吐くほど辛いはずなのに叫ぶその表情は……まるで、新しいおもちゃを見つけた子供のように輝いていた。その目に宿るのは、狂気……いや、狂喜だ。この状況をこれ以上なく楽しんでいる。

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