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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
ケモノとケモノ
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似たもの同士



 頭の中に異物が入り込んだ気がして、今記憶の混濁はないものの、だからといってすぐに気分がよくなるわけでもない。



 おまけに、へどが出るほどにこいつは温かな記憶ばかりだ。愛され愛し、周りには常に誰かがいる。人見知り? 本当の孤独を味わったバランダからすればかわいいものだ。



 もしもバランダの記憶を見たというなら、同情でもするか? ……親からの愛情を一心に受けたこの女に、アタシの気持ちは永遠に理解できまい。



 だが、温かな記憶ばかりではなかった。父を悪魔に殺され、母と姉も魔の手に落ちた。加えてようやく手に入れた安住の地は悪魔に襲撃され、一番大切な存在……心の支えといってもいい存在を、失う。おまけに存在を殺したのが、あの魔王だというのだから驚きだ。



 姉の死に関わった神様とも、最後の最後で和解するが結局は死に別れ。



 その後の旅でも、突きつけるのは悪夢のような現実ばかり。この半年で、死体を見慣れてしまうほどに。それでも、待ち受ける運命は少女の予想をはるかに超えてくる。なるほどなかなかに壮絶だ。



 ……どれもこれも、バランダにとっては生易しいものでしかないが。



「くく……そうか」



 だがそれでも、確信した。この女は、アタシと同じだ。天使と人間のハーフなどと同じなどヘドでも吐きそうだが、それを抜きにしたらアタシ達は、むしろ……



「お前も、恨んでるんだろ! 家族を、友を、大切な存在と場所を奪った悪魔を! いや、この世界を! いい子ちゃんぶってても、所詮は復讐心に駆られただけの偽善者だろうが! ……アタシは天使を恨んでる。それぞれ境遇は違えど、アタシらは似たもの同士なんだよ!」



 お前の中にも、世界を憎むケモノが住んでいるのだろう。現に目の前の少女の様子が、その証拠だ。あれがケモノでないとして、いったい何であるのか。二人は、似たもの同士だ。立場に違いこそあれど、根本のところでは同じなのかもしれない。



 もちろん、同じだからといって仲良くするつもりはないのだが。



「……聞こえてねえな」



 バランダの叫びに、しかしリーシャは何も答えない。ただ黙って聞いているだけだ。聞いてない……聞こえてないのか? ……彼女の右手は、血に濡れている。先ほど拳を振るったが、そもそもそれがおかしいのだ。



 直前、リーシャはその手を犠牲に、バランダの槍を防いだ。その手で、バランダに拳を振るったのだ。槍が突き刺さり、引き抜いて痛みに震えるはずの手で。しかも振るわれた拳は、とんでもなく重かったのだ。



「理性も知性も、何もかも吹っ飛びやがったか」



 声も届かない。痛みも感じない。完全に我を忘れている。察しはついていたが、ここまでくると間違いないだろう。リーシャの中の何かが壊れ、狂った。



 それはバランダも経験したことがある……とはいえバランダの場合は、自分で鎖を千切ったという方が正しいのだが。



 リーシャが、自らの意志で、とは考えにくい。これは奥の手というより、どちらかといえば『暴走』に近いのではないだろうか。それに……



「翼が……黒くなってる……?」



 純白なはずの彼女の天使の翼は、黒い何かが侵食していた。翼が徐々に黒くなっているのだ。この現象を、バランダはドッマに聞いたことがある。



 ……『堕天』。天使が、例えば悪魔に身も心も汚された時。例えば、真なる絶望を知った時。……絶対的な負の感情を感じた時に現れる現象だと。聞いてはいたが、実際にバランダが見るのは初めてだ。



 これまでの旅の中で、リーシャは数々の絶望を味わってきた。だがそれでも『堕天』することなくこれたのは、共に歩む仲間がいたからだ。仲間が……オルテリアがいたからこそ、リーシャはまだ自我を保つことが出来たのだ。



 彼女がいない今、重なる絶望と死への恐怖がリーシャの鎖を千切った……バランダはそう考えていた。だが目の前のケモノは、何かが違う。『堕天』しても、こんなケモノのようになるなどと聞いていない。単に言い忘れただけかもしれないが、バランダにはそれだけでないように思えた。



 だがこれが『堕天』でないとして、他に何が……



「ちっ、今そんな場合じゃねえだろ」



 湧く疑問を、頭を振って追い出す。この状況で考えるべきではないし、そもそも考え事をするのは専門外だ。これまではサラリアや、あの変態に任せていた。まあ、変態とは連絡がつかなくなる時がしょっちゅうなのであまり期待していないが。



 今、というよりバランダがすべきは、目の前のケモノを狩ることだけだ。そのためならば……体がどうなろうと知ったことではない。



「くそったれなことだが、このままじゃお前に勝てない……だからアタシも、鎖を千切る」



 力の差は、悔しいが歴然だ。だからといって逃げる選択肢はない。そんなこと、この世で最も嫌いな存在が目の前にいるのにどうしてできる。まだ奴は動かない。こちらの出方を伺っている、なんて知性がないのはわかってる。



 ……今のバランダを、警戒すべき相手だと思ってないのだ。屈辱だ。同時に、それが自分の首を絞めていることに気がついていない。……毒に侵されたオルテリアを救うために速攻で片づけなければいけないのに、自らその機会を手放しているのだから。



「大事なお友達のことも頭ん中から抜け落ちてるってか。ま、アタシにゃどうでもいいがな」



 襲ってこないなら、好都合だ。このまま仲間が死ぬまで待ってもいいが……そんなのは趣味じゃない。時間稼ぎなんてせこい真似はしない。ある意味、友を想うリーシャの理性が吹っ飛んだことで、正真正銘の一騎打ちの場面が訪れたのだ。



 一気に、ケリをつけてやる。

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