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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
ケモノとケモノ
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異物の記憶



「っらぁ!」



 長いようで刹那のやり取りの後、バランダが拳を放つ。先の槍は、言わば前菜に過ぎない。本命はこちらだ。



 魔力を込めた右拳を、助走をプラスした上で打つ。その破壊力は、人体に当たれば粉々に吹き飛ばしてしまうだろう。



 ……それが少なくとも、明確に力量の差がある相手か、相手が狂ったケモノでなければの話だが。



「っ、こいつ……!」



 驚くことに、バランダの拳は受け止められた。立っているのがやっとに思えるリーシャの左手に。力を込めても、動きもしない。向こうも力を込めている、というわけでもないのに。



 続いて、リーシャの右手が持ち上がる。それは拳を作っており、振り下ろされて……



「っ! つ……おも……っ!」



 放たれる拳を、今度はバランダが左手で受け止める。受け止めた拳は重く、冷や汗が流れてしまう。これで、お互いに右手で殴りかかり、それを左手で受け止めているといった構図が出来上がる。



 両手は、少しでも力どころか気も抜けないから使えない。足も、踏ん張るために力を抜くわけにはいかない。両手両足封じられ、残るは……



「お、らぁ!」



「……」



 まるで、二人の考えていたことが同じであったかのように……お互い、少しだけ頭を後ろに引く。そして次の瞬間、引いた頭を思い切り前へ。つまりは……頭突きだ。



 この状況において、二人が選択したのは頭突きだった。最もそれは、理性というよりは本能による行為だったが。リーシャだけでなく、バランダも同様に。




「ぐっ、ぅ……!」



 ズキ、ズキ……と頭が痛む。痛みの衝撃が頭を、脳を揺らす。だがそれは、痛みによるものだけではない。キィ……ン……と、まるで頭の中で金属が震えるような音が聞こえる。



『……こんな状況ですけれど……私は、リーさんと一緒に旅が出来て嬉しいですわよ?』



 青髪の女が、見えた。視界ではなく、頭の中に。



 ……これは何だ。映像が、音が、流れ込んでくる。髪の長さが違うが、あそこに倒れている女に似ているが……



『もう、リーシャは恥ずかしがり屋だなぁ。そこもかわいいんだけどさ!』



 今度は、赤毛の女だ。これは、記憶? だとして……これはバランダの記憶ではない。これは……この記憶は……



『なあ、少しはあいつとも仲良くしてもいいんじゃないか? 別にあいつの味方ってわけでもないけど……あ、何でもないです。ごめんなさいにらまないで』



 この、顔……遠目に見ただけだが、あの魔王とやらと似ている気がする。いや、気のせいだろう。髪の色が違うし、何より魔王がこいつらと一緒にいるわけがないだろう。



『その……貴女のお姉さんを、守れなくて……奪ってしまって、ごめんなさい』



 銀髪の、いっそうに美しい顔をした女が映る。だがその顔に似合わず辛そうな、何かを堪えるような顔をしている。記憶の断片は見ることは出来ても、その全体を知ることは出来ない。



 記憶とともに、いろいろな感情が流れ込んでくる。



 記憶の中の人物が笑っていれば嬉しいし、泣いていれば悲しいし、困っていれば辛いし、あるいは怒りもあるし……自分のものではない記憶、感情が頭を支配していく。



『私と、その……何でもない』



『ちっこくて小動物みたいですわね! アカリさんと並んでもうたまらんですわ!』 



『もっと喋ったらいいのに。せっかくかわいいんだから』



『あ、あなたがルームメートの人ね!? はじめまして!』



「う、ぐぁ……」



 次々流れ込んでくる異物は、痛みとは別の衝撃をバランダに与える。知らない記憶を見せられ、どうしてこんなにも胸がざわつく……?



『リーシャ、元気に育ってるみたいね。いつか、ちゃんとお話したいわ』



『リーシャ、あぁ、かわいい妹に触れられないなんて……』



『リーシャ、今日はお前の好物だぞ。ほら、今日サメの肉を貰ったんだ』



 リーシャリーシャリーシャリーシャリーシャリーシャ




「やめ、ろぉ!」



 見せられる記憶から逃れるように、突き放すように、振り払うように目の前の女から距離を取る。互いに衝突した額からは血が流れており、口元にまで流れたそれをペロリと舌で舐めとる。



 無理矢理血を拭い、目先のケモノを睨みつける。記憶……見せられた記憶は間違いなくあの女のものだ。記憶の中であの女の名前を呼んでいたし、それ以外には考えられない。



 そしてもしもこれが、一方的に記憶を見せられたのではなく、互いの記憶が互いに流れ込んだのだとしたら……?



 ……リーシャ・テルマニンもバランダの記憶を見たことになる。最も、今の状態で記憶なんか見せられても理解すらしていないだろうが。



 どうしてそんなことが起こったのか。起爆となったのは、おそらく頭突きだろう。あの時互いの頭がぶつかり、記憶が流れ込んできた。一瞬のうちに、数えきれないほどのものが。



 それこそ、生まれて間もないものから先ほどバランダと会話をしたものまで。頭と頭の接触により起こったのだろうか。



 だとして、原因は? それは、わからない。



「アタシらが……ハーフ、だからか?」



 可能性としては、一つ。お互いに共通するのは、天使と悪魔との違いはあれど、ハーフだということ。片や天使と人間の、片や悪魔と人間の。



 だから、あのような現象が起こったのかもしれない。頭突きで頭同士がぶつかるという経験がそうないから関係はないかもしれない。



 ……だが、確信があった。ハーフ同士、その共通点がこの事態を引き起こしたのだと。頭突きは、本当に単なる起爆剤に過ぎないのだと。



「あぁ、くそ……気持ち悪い」



 他人の記憶を、しかも一瞬のうちに人生の大半のものを見せられるなど想像以上の苦痛だ。

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