外れた鎖
……刹那の記憶が、過ぎ去る。
時間は現在に移り、ここにいるのは圧倒的な力により憎むべき相手を沈めた、悪魔と人間のハーフ、バランダだ。彼女は、目の前の存在に今まさにとどめをさすために、足を振り上げていた。
今のこいつに、これを振り下ろせば死は免れない。その後は、残りの人間を始末する。あの青髪はほっといても残り数分で死ぬが、他の人間もちゃんと送ってやらねばなるまい。ここにはいないが、こいつらが来た方向に人間がいるはずだ。
そんな思惑を思い描きながら、バランダは闇のエネルギーを纏った足を振り下ろす。こいつが終われば、ここの奴らが終われば……少し休んで、まだ隠れてる人間を殺しに行こう。奴隷は殺すなと言われてるが、あいつらも殺したいくらいだ。
その後の、人間をどう扱うか、どう殺すかについて考えていた。なので多少は思考が別のところにいっていたのは認めよう。
だが、気を緩めたつもりはない。力を抜いたことはありえない。それに、顔面を破壊するつもりで放ったのだ……狙いを外してもいない。ならば軌道を読まれた?
……だとしても、今のこいつのどこにそんな力がある。
目の前の状況は、バランダにとって予想外の一言だった。この状況をどう説明すればいい。狙いは顔面、軌道を読まれたのは仕方ないにそても。だが、何故私の足が止まって……否、止められている。
……それを行ったのは、動きを封じ、放っておいても死ぬほどに弱っていた……他ならぬリーシャ・テルマニンだった。彼女の手によってバランダの攻撃は防がれた。
「……!?」
そう、顔を踏み潰されそうになっていたリーシャ……彼女は、顔に足が打ち込まれる直前のところで、バランダの足首を持ってその動きを無理矢理に制止させたのだ。
力を込めても、動かない。足を、落とせない。
何故動ける、何故そんな力が出せる、何故……その疑問を、無理矢理頭から放り出す。今考えるのは、そんなことではない。何が起きているにしろ、こいつを殺すだけだ。
瞬間、視線が交差する。その中に何を見たのか、バランダは微かに笑った。依然拮抗したまま、目の前の存在を見つめて。
もしもこの場に第三者がいたら、この二人を見てこう思ったことだろう。
「何が起きやがった……化け物が」
……鎖の外れた、二匹のケモノがそこにいた、と。




