うっとうしい奴
バランダ・ナタリエーテ
悪魔と人間のハーフとして生まれた彼女は父にバランダの名を貰い、母にナタリエーテの人間の名を貰った。両親から貰った名と共に、この先の人生を生きていくはずだった。
しかしそれは、母との決別によりナタリエーテの捨てたことで叶わなくなった。さらにこの日、バランダは人間を不要と切り捨てた。
そして己の中の人間の血を忌むべき存在として、自分すら愛することをやめた。
それからのバランダは、本当の意味でたった一人になった。誰を信じることもなく、期待することもなく。全てを恨み絶望し、憎み怒り。行く先々の村や町で気に入らないことがあれば、滅ぼすこともあった。
人間と見れば殺意が湧き、自制に苦労する。自制する必要はないのだが、殺すために力を解放するのは、この頃のバランダには負担が大きかったのだ。
目的のない旅路。何のために、歩いているのか。もうここで終わってもいいのではないか。……殺し尽くしてやる。その気持ちだけが、バランダの原動力となっていた。
「……誰あんた」
「いやいヤイや! あなタが例の悪魔ト人間のハーフ! 会エて光栄! アァわたシ? 名をドッマと言う、以後お見知りオキを」
「ドッマ?……変な名前」
「覚えやすいでしょう?」
ある時、ひょろひょろした不健康そうな男に会った。どうやら悪魔らしい彼は、かなりの実力者だ。変な実験やら何やらで戦っているところを見たことはないが。
その姿勢はまさに変態だ。
「貴女、我々と来ませんか? 人間への憎しみ……素晴らしいものをお持ちだ」
ある時、モブっぽい悪魔に誘われた。モブみたいな顔のくせに強い力を持っているのがわかった。メル……メルなんとかは、悪魔の軍団が人間界に降りて来ており、世界を支配しようとしていると語った。
道理で、人間界にしては邪気が漂ってるわけだ。人間が臭いからと思ってたが。
そういえばドッマは、この悪魔軍団には行方不明扱いされているので内緒にしててくれと言っていた。守る義理はないが、秘密にしてやる代わりに主導権でも握ろう。
「ペアぁ? ……いらねえよ、アタシ一人でいい」
「まあまあ、そう言わずに」
「あの私、バランダ様の強さに憧れてるんです! 私、サラリアって言います!」
「……はっ」
悪魔軍団には入ったが、何が変わるわけでもない。強いて言うなら、力の使い方を覚えたり殺したり壊せる数が圧倒的に増えたくらい。
そんな中で、バランダの相方役だと女の悪魔を紹介される。別に誰の協力もいらない。一人で生きてきたんだ、これまでも。そしてこれからも。
お前らといるのは、ここにいた方がより多くの人間と天使をぶち殺せるからだ。ただそれだけだ。
なのに、そいつは無理矢理バランダの世界に入り込んできた。
「バランダ様ー、見てください私のテレポート」
「バランダ様ー、一緒に訓練しましょー」
「バランダ様ー、お茶でーす」
「バランダ様ーバランダ様ーバランダ様ー」
鬱陶しいくらいにまとわりついてくるサラリアは、例え同じ悪魔であるバランダにそっけなくされてもしつこく来るのだ。
バランダにしてみれば、そっけなくしているのは悪魔でも信じられないのか、自分が純粋な悪魔でないからかであるのだが。
「また変な薬持ってきやがったな変態」
「これは、天使に化ける薬……すごい、魔力まで感じなくなってる。どうですか、バランダ様?」
「あぁ、すげー殺したいわ」
「!?」
いくら無視しても話しかけてくるサラリア。うるさいが、こういう奴がいてもいいかもしれない。次第にそんな気持ちが芽生えてきて、ようやく、誰かを信じられそうになった……はずなのに。
「死んだ……サラリアが?」
その知らせは、突然届いた。変態な上にいけ好かない奴だが、ドッマからの情報が間違っていたことはない。嘘である理由もない。その連絡はつまり、真実なのだ。
『えぇ、残念なコトコの上なイ』
「何で……まさか、あいつらに……?」
『……そう、えェエぇそうソウ! 奴ら、数の暴力デ彼女を一方的に。彼女の能力ナラ、逃げルことも容易かっタだろうニ、多勢に無勢で……』
それを聞いた時……久しぶりに、頭が真っ白になるって感覚を思い出した。最初は鬱陶しく思っていた。けど、その気持ちもいつからか消えていき……悪くないと、そう思えていた。なのに……
事実は、確かにサラリアは負けた。しかしバランダの知る真実は、実際の真実とは少し違っていた。
殺された。奴らに、しかも大勢で寄ってたかって。その相手とは、ハーフエンジェルのいる集団。天使と人間のハーフなど、その存在だけでバランダの対象となる相手だ。
「……殺してやる」
まだ会ったことのない、しかし殺してやりたい相手が……自分の大切なものを奪った。
バランダは、サラリアを大切な存在と思っていたことにようやく気付き……大切な存在を奪った相手に、さらなる憎しみを積み重ねていった。




