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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
黒い少女
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人か化け物か



 悲鳴と恐れが辺りを支配する。その悲鳴も恐れも、それを受けるのはただ一人、バランダだけだ。



 悲鳴を、恐れを向けるのが野盗だけではないと……狂気の笑みを浮かべるバランダは気付いていなかった。



 ……気がついた時には、野盗は全員倒れていた。ただの一人も息はなく、辺りには血や肉片までもが散らばっている。倒れる男達の中心に立つのはたった一人の少女。



 全身に返り血を浴びているその姿は、子供の姿なのにただの子供ではないというのがわかる。



 その少女……バランダはその戦慄の中心にいて、場違いな感情を浮かべていた。それは、達成感だ。それも、喜の感情に近い達成感。



 これで、村を救うことができた。村人にひどいことをしようとした連中を『追い払った』おかげで村は危機から脱し、平和な時間が戻ってくる。ただ、村を……みんなを救いたい。そんな純粋な気持ちが少女を動かした。



 その結果がこの惨状だというのなら、いったい誰を責めればいいのだろう。



「はぁ、はぁ……」



 この場には少女の荒い呼吸しか音がない。村人は誰一人として言葉を発しない。今どんな表情をしているのか、地面を見下ろしているバランダにはわからない。



 だが、みんなを救った自分をきっと、褒めてくれる。大人でさえできなかったことをやって、よくやった、すごいなと笑いながら、頭を撫でてくれる。



 自分を村に置いてくれた、その恩返しが少しでもできる。そんな気持ちを感じていた。だから……



「みんな……変なやつら、『追い払った』よ!」



 振り返り、村人を見る。そこには、危険から解放されて歓喜に湧き上がっているみんながいるはずだ。みんなで嬉しさを分かち合うんだ。



 みんなで、また一緒に……



「……ば、化け物……」



 ……どこかで、そんな声が聞こえた。一瞬、聞き違いかと思った。だがざわざわと、似たような言葉が聞こえる。それは実は、距離的にも言葉の大きさ的にも聞こえるはずのない言葉。



 だがバランダには、人ではないバランダにははっきりと聞こえた。



 そして、決定的な一言を聞く。バランダにとって……『化け物』よりも残酷な、最も衝撃的な言葉を。



「あ、あいつ……笑ってるぞ」



 笑っている。それは村が救われたことへの嬉しさ? ……それだったら、まだ幾分マシだった。そして気付いてしまう。その笑みの……気持ちの正体は『高揚感』だ。



 野盗を傷つけ、危める行為に感じてしまった胸の高ぶり……それは、皮肉にも自らが手に掛けた母が、娘に暴行を行うことで胸の高ぶりを感じていたものとまったく同じだった。



 母と、同じであるという事実がそこにあった。



 ……向けられる視線。それには思い当たるものがあった。恐ろしいもの、まさに化け物を見るような怯えた視線……それがバランダに突き刺さっていた。



 自らの意思で男達を、カリーを殺したあの日に浴びせられたものだ。故に視線には敏感で、言われずとも意味はわかった。



 誰もバランダに駆け寄ってこない。どころか、バランダが一歩踏み出すと代わりに一歩引くのがその証拠だ。まだ幼いシュピカだけがバランダに駆け寄ろうとしたが、母親に止められた。



 みんなとの距離が空いてしまった事実に心が抉られる。その足で家に戻る途中も、誰も話しかけてこない。



 歩く先をみんなが退き、まるでバランダのための道ができたよう。人の輪を抜け、家に入る寸前でばあちゃんが名前を呼んだが、聞こえないふりをして家に入った。



 それから、夜になるまで家にこもっていた。



 夜、いつもなら寝ている時間。しかしいつものようには寝付けず、起き上がる。ばあちゃんは、帰ってきていない。落ち着かなくて、外に出た。



 心がざわつく……とか、気分が悪いというわけではないのだが、風に当たれば少しは落ち着くだろうか。



 外に出ると、そこにあったはずの野盗のなれの果てがなくなっていた。いかに野盗といえど死体が転がっているのは嫌だろうから、知らないうちに後始末をしたんだろうか。



 悪いことしたな……とぼんやり考えていた。そう考えることができるほどには、回復していた。



 宛もなく、歩く。どこに行こうとか思っていたわけではない。だが歩きたかったのだ。暗い村の一角、そこに明かりが灯っているのが見えた。足は自然とそこへ向かう。



 ふと、向こうから声が聞こえた。思わず足を止め、立ち聞きする形になってしまう。



「……このまま、村に置いとく気か? あんな……危険すぎる」



「けど、山賊を追い払ってくれたし……」



「何が追い払っただ。見たろ? あの有様を。皆殺しだ。その上後始末は俺達がやったんだぞ? いくらくそみたいな奴らとはいえ、さすがに後味が悪ぃよ」



「確かにこの村を守ってくれたのかもしれないのは事実だが、いくらなんでもあれは……やり過ぎだ」



「しかも、子供一人で大人十数人をだぞ? 丸腰で武器を持ってる相手にだぞ? 危険すぎる。もしも矛先がおれ達に向いたりしたら……」



「しかもよ、しかもだ。見たか? あのガキ……笑ってやがったんだ。人を殺しておいて、笑ったんだぞ?」



「ありゃあイカれてる。もしかたらおれ達もいずれ……」



「……あれはまさしく化け物……いや、悪魔だよ。どうすんだ、ムラオサ」



「元はと言えば、あんたがあのガキを拾ってきたから……」



 ……聞こえてきたのは、バランダに関してのものだ。



 やはり直接は言わずも、心の内に秘めた思いがあり、陰でこそこそ言っていた。その会話から察するに、ラーナもここにいるようだ。帰ってこない理由も、これで納得がいった。



 これ以上は、聞いてはいけない。いけない、ダメだ、嫌……でももしかしたら、彼女だけはバランダの味方をしてくれるかもしれない。



 ここを去らねばという気持ちと、彼女の気持ちを知りたい。その二つの思いが混ざり合い……



「そうじゃの。あれはまさしく悪魔の子よ。村に災厄を招く前に、体よく出ていってもらうか……」



「けど、それで報復されたりとか……」



「……もしくは……」



 ……後者の気持ちを優先したのを、後悔した。その場から逃げるように去ったのは、ラーナの台詞が全て終わる前だ。もし全てを聞いてしまったら、壊れてしまいかねない。



 この村が、村人が、私が。聞きたくなんかない。ラーナの口から、バランダを"殺す"するなどと。



 走る。走る。走る。もう一秒でもこの村にいたくない。さっきのたまり場以外にも、そこかしこで会話がある。耳を塞ぐ。なのに、あちこちから声が聞こえてくる。



「前から、何考えてるかわかんなかったよね、あの子」



「そうそう。何か不気味っていうか」



 ……ならお前らは、目の前にいる奴が何を考えてるかわかるのか。



「村に来た時点でボロボロだったろ」



「誰か殺ってきたんじゃねえの? すでに殺人鬼ってか」



 ……何も、知らないくせに。勝手なことを言うな。



「いくらなんでもあれはな。やり過ぎだろ」



 ……何もせず震えてただけのくせに。助けを求める目をしていたくせに。



 そうだ、助けを求める目をしていた。だから、戦った。だから、頑張った。だから……なのに、この仕打ちはなんだ。



 ああいう奴らは、徹底的にやらないと懲りずにまた来る。ならいっそ、殺した方がいいじゃないか。あんな奴ら、死んでも誰も困りはしない。



 自分の利益のために他人を蹴落とす、温かく迎え入れておいて危険と見るやすぐに手のひらを返す、他人の生活を平気で踏み荒らす……子供を、売る。



 それが、人間。なんて身勝手で、愚かな存在なのだろう。



 人間は、自分とは違うものを否定する生き物だ。だからあの女は私を家に閉じ込めたし、あの男達は、野盗達は、村人達は、化け物を見る目で私を見た。



 化け物……化け物。人ではないから、私はこんなにも辛いのか? 化け物だから、みんなから非難されるのか?



 父は、『悪魔だから』という理由で殺された。私は、『化け物だから』迫害を受ける。父は天使に、私は人間に、それぞれ。



 憎い。憎い憎い憎い。父を殺した天使が。身勝手な人間が。この時バランダの心を占めていたのは、紛れもない憎悪。父を殺した天使に対して。



 あの女に売られ一度は絶望し、その後もしかしたら信じられると思った人間への裏切りに対して。己の中に流れる、人間の血に対して。



 ……同時に、胸には悲しみの波が押し寄せていた。胸の奥から熱い何かが込み上げてきて、それが涙となって流れ落ちる。拭っても拭っても、煩わしくそれは流れてくる。



「あぁああああああああ!!!」



 どうしようもない想いを吐き出すように叫ぶ。背中からは漆黒の翼が生え、重力に逆らい空へと飛び立っていく。星空輝く美しい夜空に、飛翔する影。



 そして、バランダが村に戻ることは、もうなかった。

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