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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
黒い少女
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せいとうぼうえい



「死にたくなけりゃさっさと出てこい!」



 銃声を聞いたバランダは、目を見開く。それはラーナも同様だ。いつも温厚で冷静なラーナの見たことのない表情から、事態の重さが伺える。



 ラーナはバランダに外に出ないよう告げると外へ出る。こっそり外を覗いたバランダが見たのは、ラーナと同じく家から出てくる村人達だった。



 だがキリとラン、シュピカなどの子供の姿はなく、おそらくバランダと同じように外に出ないよう言われているのだろう。村人の大人達が全員出てきた。



 銃声の音が聞こえて、出ないわけにはいかないだろう。



「なんだぁ、小せえ村だと思ったがこんなもんか? ……まあいい、金目のもんは全部いただく! 食料、それに若けぇ女もな! 死にたくなかったら言う通りにしろ!」



 村人の数、それに子供がいないことには気付いたのだろう。だが子供程度目的のためにはいてもいなくても関係ない。刃物を振りかざし、叫ぶリーダー格の男。



 その手に持つのはナイフというには大きくて、それは丸腰の村人達の覇気を奪うには充分だった。



「……わかりました、金目のものや食料ならお渡しします。ですが村人には手を出さないでいただきたい」



「……婆さん、ボケてて聞こえなかったなら一度だけ許してやる。もう一度だけ言ってやる、若い女もだ。なにぶん男所帯なもんでこいつら飢えてんのよ」



 村人を代表して応じるラーナの、村人には手を出さないでほしい。その願いは無情にも切り捨てられた。野盗のリーダーは後ろの男達を指し、男達は下品な笑みを浮かべる。



 その台詞と表情から、言う通りにしたら女性達がどうなるかは想像だに難くない。



 だが抵抗しようにも、うまくいく確証はない。村の人数としては少なくとも、野盗と比べれば数の優位はある。しかし向こうは屈強な男達、しかも全員が武器を持っている。



 抵抗しても皆殺しにされるのがオチだ。



「早くしな。それとも、見せしめとして一人殺れば言うことを聞くか?」



 応対のないラーナにいらつくリーダーは、武器をラーナに向ける。その刃先が、彼女の首先に触れようとしたその時……



「やめろー!」



 村人の誰かか。確かに、村人のものだった。しかしそれは、この場にいる大人のものではなく……



「シュピカ!?」



「おばあちゃんにひどいことするな!」



「なんだこのガキ……!」



 リーダーの足に飛びついたのは、バランダよりも……いや、この村で一番幼い少年だ。村にやってきた変な男が、おばあちゃんにひどいことをしている……シュピカにはそう映っていた。



 出てはいけないという言い付けを破ってまで飛び出したその行いは、村人全員が目を疑った。



 村人の誰よりも早く動いた少年。結果としてラーナへの刃先の行き先は見失われたが……勇気と無謀は違うことを、幼い少年は知らない。



「鬱陶しい! 死にてえかガキ!」



 しがみつくシュピカを無理矢理に振り払い、シュピカに刃を向ける。とっさに庇うように抱きしめるラーナと共に、その刃が狙う。村人が駆け出す、だが間に合わない。



 そのまま、少年と老婆の命は無情にも奪われて……



「って!」



 ……とは、ならなかった。石が投げられたのだ。リーダーの頭に、狙いすまされて石がぶつけられた。それにより刃の狙いは止まり、痛みの走る頭を押さえる。



 今自分に石をぶつけた相手を確認するために視線を動かすと、そこにいたのは褐色の少女だ。



「バランダ……」



「またガキか……」



 そこにいた少女……バランダを見て、リーダーは忌々しげに顔を歪める。邪魔をされたこともそうだが……あの距離から投げたにしては、やけに痛みを感じる。



 いったいどれだけの力で投げたのか? ……いや、当たり所が悪かっただけだろう。



 とっさに動いたのは、バランダ自身も予想外だ。だがこのままじゃ、村が……大好きなみんなが、殺されてしまう。



 金目のもの、食料、若い女……仮にそれに従ってもこいつが村人を殺さないとは限らないし、守ったとしてもそこにかつての村の活気はなくなるだろう。



 村のみんなの笑顔がなくなるのは、嫌だ。だから……



「どうやらお前も死にてえらしいなガキ、えぇ?」



「ガキのしたことにおとなげなくキレるなんて、かっこわる」



 どうしてか、気持ちが落ち着いているのがわかる。リーダーが目を見開き、こちらに走ってきていてもだ。この、気持ちは……



 ドクンッ……



 リーダーは思い切り振りかぶり、凶器を振り下ろす。本来ならば、ただの子供などそこで切り裂かれて終わりであろう。



 ……ただの子供ならば。



「……あ?」



 凶器を振り下ろす。しかしそこに手応えはなく、先に少女はいない。代わりに、狙った先のすぐ隣にいるではないか。まさか避けた? 対して大きな動きもなく。



 ……いや、ありえない。きっと手元が狂っただけだ。



「お、らぁあ!」



 そのまま横に振り抜いてしまえば間違いなく当たる。だがその未来は訪れない。なぜなら少女は頭を後ろにずらし、刃を回避したのだ。



 ほんの数センチ先を鋭い刃が通っても、顔色一つ変えることなく。



「っは……」



 今この少女は、間違いなく刃を避けた。しかも偶然ではなく、自らの意志で。驚きは隠せないが、ここで惚けるようなバカはやらない。



 再び武器を構え直し、刃を振るう。さすがと言っていいのかわからないが、その動きは素人ではない。しかし振るわれる刃は、ことごとく少女にかわされる。



「くそっ、どうなってやがる!」



 次々放つ。しかし当たらない。だが刃はついに、少女の額を捉える。そのまま、脳天を串刺しにして……



「っ……な、んだと……!?」



 しかしリーダーは驚愕に震える。切り裂いたと思った刃は止められ、一歩も動かせない。止めているのは他でもない目の前の少女、バランダだ。



 それも、素手で。刃を握り締め、手の表面からは血が流れている。



「お前、いったい……ぶべっ!」



 さすがに、これには驚愕を隠せない。これまでにこんな無茶苦茶な方法で刃を止めた者などいなかった。それも、こんな子供が。



 生まれた数秒の隙は、バランダにとっては充分すぎる時間だ。刃を止めた手とは反対の手を握りしめ、目の前の男の顔面に拳を振るう。



 バランダの拳を顔面にもらったリーダーは面白いくらいに吹き飛んでいき、近くの民家の壁にぶつかりようやく止まる。



 だがそこから立ち上がってくることはなく、その衝撃が辺りを包み込む。



「お、おい今、何が起きた? 俺には、あのガキがお(かしら)の頭を殴ったように見えたが……」



「は、はは、バカ言ってんなよ。だとしても……か、(かしら)? 冗談ですよね? だってほら、あんな子供の拳で……」



「てか、あの子供頭の刃避けてなかったか? それに、最後掴んで……」



 野盗に動揺が走る。だがそれは、村人達にも同様で……



 村を守る。そのためには、こいつらを追い払わないといけない。せっかくおばあちゃんが穏便に済ませようとしていたのに……



「先に仕掛けたのはそっちだもん。……せいとうぼうえい、ってやつだよね?」



 ……次の瞬間、野盗達が襲い掛かった。十人を超える、武器を持った大の男が、雄叫びを上げながら一人の少女に襲い掛かっていく。



 バランダと野盗の間には誰もおらず、一対十以上の構図がここに出来上がった。



「なめやがってこのガキィ!」



 剣が振り下ろされる。それを難なくかわし、男の腹に飛び蹴り。男は別の男を巻き込んで吹き飛んでいく。別の男が殴りかかってくる。その拳を受け止め、逆に握り潰す。まるでトマトが弾けたみたいだ。巻き込み覚悟の銃弾が飛んでくる。狙いは完全にバランダ、しかし足元の石ころを拾い上げそれを銃弾にぶつけることで相殺。そのありえない威力に驚愕する男の股下を蹴り上げる。悶絶する男の足を持ち周りの男にぶつける。尚も飛びかかってくる男達はバランダに覆いかぶさるように重なっていくが、子供とは思えない力で男達を吹き飛ばす。



 そしてついにバランダから動きだす。武器をへし折り、殴り合いというには一方的なバランダの拳が男の顔面を吹き飛ばし、殴られるがそのお返しに腕を引ちちぎり、首を絞める男の喉に爪を立て、羽交い締めにされ拳の嵐を浴びせられるとその拳を噛み牙を食い込ませ、頭突きをして羽交い締めから解放されると背後の男に落ちていた剣を突き立て、ようやく恐れる男達を逃がさないと飛び掛かり……



 『追い払う』……そのための行為はあまりに過激で、残虐で……鮮血が、飛び交う。そこで行われるのは……『処刑』だった。

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