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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
黒い少女
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平和な世界



 力尽き、倒れても不思議と焦りはなかった。あぁ、これでようやく終わる……ただ、そう、思っていたときだった。



「あれま、どうしたんだいお嬢ちゃん」



 聞こえたのは、しわがれた女の声。信じられないものを見たといった声色だが、年端も行かぬ子供が道端に倒れていたら当然だろう。しかも、体は傷だらけ、返り血まで付いているのだ。



 こんな状況で誰にも見つからずこれたのは、偶然に偶然が重なった結果だ。その足は自然と、人里を避けていたのだ。



「こりゃあ大変だ。お嬢ちゃん、ちょっと待ってるんだよ」



 誰かが何かを言っている。すると、体が動く。持ち上げられているのだ。いったい、誰が?



 弱々しく、うっすらと目を開き、自分を持ち上げている人物の顔を見る。そこにいたのは、優しげな顔をした老婆だった。



 男達の、母の姿が浮かぶ。抵抗しようとするが、そんな力さえもバランダには残ってなかった。



 連れていかれたのは、どこかの村だ。村に入るや老婆の周りに人が集まってくる。どうやらここは老婆の村で、周りからずいぶん信頼されている人物らしい。



 だがそんな冷静な分析など出来ないバランダは、弱り切って動けなくなった体で黙って見ているしかない。



 老婆の腕の中にいるバランダを見るや、村人達は驚く。うち一人にバランダの体が預けられる。そのまま複数ある中の一つの家に連れていかれ、布団に寝かせられる。



 こいつらもどうせ最低な人間だ……警戒していたが、目の前に置かれた水に目を奪われる。水、水だ。体が、水分を欲していた。いつの間にか、浴びるように水を飲んでいた。



 それから体を拭かれたり、傷を手当されたり。看病してくれている……とはバランダにもぼんやりわかった。だが、なぜ見ず知らずの人達が自分を看病しているのか。それがわからなかった。



 代わる代わる人がやってきて、バランダに優しい言葉をかけていく。今まで一人で歩いてきた孤独感がなくなっていくようだ。緊張感が切れ、その影響かどっと睡魔が襲ってきたので、寝た。



 こんなに熟睡出来るのは、いつぶりだろう。家を去ってから……いや、もっと前からだ、こんなにも安心して眠ることが出来なかったのは。



 起きたバランダに用意されたのは、温かな料理。母が料理をしなくなってからは冷めた食事が続き、最近食べた食べ物らしい食べ物といえば食パンの耳だ。



 置かれたものを見て、バランダは目を輝かせる。



 思わず一口、食べる。温かい、美味しい。もう一口、食べる。手が伸び、口に運ぶ。口の中のものがなくならないうちに、また新たに口に入れていく。



 死にたいと思っていたのに、『生きたい』とどうしようもなく手が進むのだ。こんな美味しいもの、本当にいつぶりだろう。美味しい、美味しい、美味しい。いつの間にか、目から涙が流れていた。



 温かな料理に、美味しい料理に、バランダの凍っていた心が溶けていく。正直涙と鼻水とで味はあまりわからなくなっていたのだが、そんなことは関係なかった。



 涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、もぐもぐと食べていく。



 それを見守る、老婆や村の人達。人の温かさを感じたバランダはこの時、ただ感謝の気持ちでいっぱいだった。人間にもいい奴もいる……そう、思った。



 村人の温かさに触れ、バランダは徐々に活力を取り戻していく。どこの誰かもわからない、得体の知れない人間を、何の理由も聞かずに村に置いている時点で人のよさがわかる。



 人間ではではないが、それを村人は知らない。



 親切な村人達。中でもバランダを拾ってきた老婆は人一倍親身にしてくれた。だからバランダも懐き、『おばあちゃん』と呼んで慕っていた。



 彼女達になら、自分の正体を話しても……そう思う一方、自分の正体を目の当たりにしたあの時の男達の顔は忘れられない。もちろん死への恐怖があっただろうが、ただの少女が異形の姿になったのだから当然だろう。



 正体を知られたら、優しくしてくれたみんなも離れていくのではないか。そんな恐怖があった。そしてようやく誰かを信じられそうなのにも関わらず、それを疑っている自分が嫌だった。



 村に来てから数日が経っても、その気持ちは晴れない。その間バランダは老婆の家に居候していた。



 遠慮を見せたバランダだが、一人ぼっちの老いぼれに付き合ってくれと迎え入れてくれたのだ。それはおそらくバランダへの気遣いが半分、本心が半分だったのだろう。



 数日も過ごしていると、それなりにこの村のことがわかってきた。ボアナというこの村は、人口が五十人前後の小さな村だ。なので村人全員が顔見知りであり、 それは数日しか過ごしていないバランダも例外ではない。



 そしてボアナの代表的な人物が、何を隠そうバランダを拾った老婆、ラーナである。村の長のような存在なので、みんなからはムラオサと呼ばれている。



 幼なじみの男女キリとランは、バランダにとって一番歳が近くよく構ってくれる。豪快な笑い声が特徴の野菜売りのオヤジガランは、バランダの暗くなった気持ちを無理矢理引き戻してくれる。まだ幼い少年シュピカは、バランダを姉のように慕っておりバランダにとってはどう接していいかわからないと同時に愛しくも感じている。



 みんながみんな、絵に描いたようにいい人達だ。喧嘩などの争いごとは見たことがなく、みんなが笑いあい協力している。



 だからバランダは、話そうと決める。この人達ならきっと、受け入れてくれるはずだ。



「あのね、おばあちゃん……」



「ん、どうしたんだい?」



 ある日の昼下がり、バランダは切り出す。反応が怖い、だが隠し続けるのは嫌だから。覚悟を決めて、口を開いた時だった。



「おらおら! 村人全員出てきやがれ!」



 荒々しい、男の声がしたのは。突然の野太い声に会話は中断され、何事かと顔を合わせる。村の男の声ではない。ならこれは?



 ……困惑の中、銃声が響く。

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