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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
黒い少女
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変化



 父がいなくなった後の生活。父という一つの希望ともいえる存在がなくなったバランダは本格的に家に閉じ込められ、そして暴力を浴びる日々。



 大好きな父を失い大好きな母に暴力を振るわれ、バランダの心はゆっくりと、しかし確実に壊れていった。



 度々、母が見知らぬ男を連れて来ることがあった。実は父が亡くなる前から始まっていたことだが、バランダに出来るのは見て見ぬ振りだけ。



 外の世界の常識を知らないバランダには、母が夜出て行き朝方に見知らぬ男と一緒に帰ってくる意味がわからなかった。だが、母が生活のためにしていることだというのだけは理解出来た。



 いくら暴力を振るわれても、自分のために母は頑張ってくれている。だからバランダは、信じていた。まだ少しでも、母は自分のことを愛してくれているのだと。



 ……そんなささやかな望みさえ、神様は叶えてくれなかった。



 ある日の夜のこと。どこかで飲んできたのか、母は酔っていた。その上で家に帰ってきてからも缶ビールを片手にアルコールを摂取していた。



 お酒というのは、バランダは嫌いだ。本音でも勢いでも、その人の口から聞きたくないことを言わせてしまう魔力があるから。



「はぁあ……毎日毎日やんなっちゃうわね」



 その日の母の機嫌は、特に悪かった。酒を飲む度饒舌になり、溜まったものを吐き出すためにまた酒を飲む。この上ない悪循環。



 バランダはただ、聞いて耐えるしかない。だがそんな娘にも関係なく、母の愚痴は続いていく。生活が厳しい、仕事がうまくいかない、休む暇がない、など。



そして……



「それもこれも……あんたがいるからかもねぇ」



 空になった缶ビールが十本を数えた頃、ついに母の矛先は娘へと向かう。悪魔の子供、悪魔であっても愛した男との間に授かった子供、夫と同じかそれ以上に愛情を注いだ子供、その子供に……



「あんたがいなきゃ、こんなにも苦しくなることはなかった。あんたのせいで、私は働きづめで体もボロボロ。あんたが悪い。あんたがいなければ……」



 言葉の刃は、容赦なくバランダの体を、胸を、心臓をえぐっていく。



「……お前なんか、生まなきゃよかった。この、疫病神が」



 それは、思春期を迎える年頃の少女にとっては、地獄以外のなにものでもない。



 何を言われたのかわからない気持ちと、無意識に理解してしまう頭とでバランダの心はめちゃくちゃになっていた。



「な……んで? お母さんは、お父さんを……なら、わたしの、ことも……」



 自然と、口からこぼれる。母は、父を愛していた。だからその子供である自分のことも、愛してくれていたはずなんじゃないのか。



 子供ながらにバランダは、そんな打算的な考えも持っていた。母は娘だから、父との子供だから愛してくれていたのだと。



「あぁ……あんたにも話したっけ、私達のこと」



 父は、母との出会いをバランダに、それこそ耳がタコに出来るほどに話したものだ。



 当時ロムが大事に育てていた魔物……人間界でいうペットのような存在が、魔界から人間界に逃げたのだ。それに気付いたロムは慌てて、人間界へと降りた。



 そこで、その魔物に襲われかけていたカリーと出会った。それが二人の出会い。そしてそれは皮肉にも、二人の別れの状況と酷似してもいる。



 その出会い話を聞き、バランダは幼いながらにロマンチックだなと思ったものだ。二人はそこから一緒になり、愛を育み、バランダを生んだのだ。



 そこには確かな愛があったはずだ。その、はずだ。だから……



「あの時は若かったしね……いい男とはいえやっぱ人間でもない相手と付き合って、あまつさえ子供作るとか無理な話よね。失敗失敗」



 ……聞きたくなかった。父への、お父さんへの愛を失敗と切り捨てるその言葉を。それはお酒に酔った勢い? それとも本音?



 ……どちらだとしても、聞きたくなかった。



 それから、母の娘への対応は以前よりも辛辣なものになった。酔っていたとはいえ己が言ってしまった言葉の記憶はあるのかは定かではないが、それでも娘への対応が和らぐことはなかったのだ。



 そして娘、バランダは日を追うごとに衰弱していった。



 母親の態度の変化、最近は食パンの耳といった意図的に減らされていくかのように貧しい食事、家の外に出られないストレス……何より、母に『いらない子』と言われたことが彼女の精神を大きく擦り減らせていた。



 そんなある日……バランダにとって人生の転機が訪れる。それは、この最悪とも呼べる生活からの脱却となる光……ではなく、闇であった。



「お母さん……その人たちは?」



 その日、母は知らない男達を連れてきた。いや、男達は四人ほどだったが、うち二人はバランダも見たことがある。母が家に連れ込んでいた男だ。それに、朝一緒に帰ってきた男も。



 バランダが見たことがないだけで、おそらく他の二人も同じようなものなのだろう。男達に囲まれ、その目に、バランダは怯えた表情を向ける。



 だが母は何も言わない。代わりに、男の一人が下品な笑みを浮かべながらも口を開く。



「げひひ、いいんですかい? 確かに上玉だが、まだ子供ですぜ?」



「バカだね、ガキだから早いうちに色々躾けられるだろうが。それに、ガキの方が需要もある場合もあるだろ」



 男と母が会話する内容が、理解できない。だが男達に向けられる視線に寒気を感じるのは確かだ。そのうちの一人が、現在成長期であるバランダの体を眺めて舌舐めずりをしている。



 バランダにはわからないが、悪魔と人間のハーフだからといって人間の成長速度と大差はない。



「はは、ここにも一人、需要がある奴がいるってよ!」



 バランダの体を視線で犯す男を肴に、他の男も笑い出す。バランダはどうしようもない嫌悪感を感じ、母に助けを求める。



「やだ……やだやだ! お母さん、たすけ……」



「今まで私が養ってやったんだ。あんたにも働いてもらわないとね? 連れていきな」



 『いらない子』と言われ、それでも『お母さん』と呼び続けていた少女は、ようやく自分を見た母の言葉を聞いて、そして目を見て今更ながら理解する。



 ……自分は、『お母さん』に売られたのだと。




「うぅ……はな、せ……離せ!」



 自分は売られた……そう理解すると、何度目かわからないほどの想像を絶するショックが襲う。だが同時に、このまま行きたくないという気持ちも生まれる。



 ここまでされても、まだ私は……



「離せ! 離せはなせはなせぇ!」



 力の限り、体をばたつかせる。だが思春期を迎えたばかりのまだ子供。ましてや女だ。対して彼女を押さえつけるのは、大の大人が四人。バランダの抵抗は、赤子の癇癪に等しかった。



「いやだ、はなして! お願いおかあさん! これからおかあさんの言うことはぜんぶ聞くし、手伝いもいっぱいするから! だから……」



「言うこと聞くなら素直に売られて、手伝いするってんならその体使って儲けたお金で私を楽させてくれ」



 泣きじゃくる娘の言葉は……母には、届かない。



「っ……いやぁあああああ!」



「お、そんな暴れんなっての」



 もう、私の言葉は届かない。なら何としても、自分一人だけの力で逃げないといけない。それなのに、自分に出せ得る力を全部出しても、それは男達の笑いを誘う程度にしかならない。



「あんた達、あんま乱暴にして傷つけんじゃないよ? 『商品』の価値が下がるからね」



「って、娘に虐待してた親の言う言葉かよ?」



 耳障りな笑い声と共に、服を捲られる。少女ながらにみずみずしい、若々しい褐色の肌……そこに、見るも痛々しい痣がある。それも複数。



 外から……父から見てもわからないように、服で隠せる場所につけられたものだ。転んだという言い訳では通らない証がそこにあった。



 それをした母は……最後、娘を見た。そこに娘を見つめる母親の目はなく……言葉通り、『商品』を見る目があった。



「お。何だ急に大人しくなりやがった」



 だから、暴れていた少女の体から力が抜けたのは必然であった。



 外に出ることは許されず、母に暴力を振るわれ、父は殺され、母はその死すら悲しむことなく、与えられる食事は日に日に貧しくなり、母に売られ、最後には『娘』として見てもらうことも叶わない。



 ……瞳から光が失われる。自分はこれから売られ、この世に生を受けたことすら後悔するほどの目にあうだろう。それがぼんやりと彼女の理解できたことだ。



 ……だったら。



「……え……」



 ……だったら、『お前』が生まれてきたことを後悔させてやる。

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