力の差
魔力を解放する少女。その直後、黒い悪魔の翼の、片羽ずつからそれぞれ黒いレーザーが放たれる。両翼合わせて二つのレーザーは、一直線に私に狙いを定める。
「くっ……!」
咄嗟に防壁を張るも、二つのレーザーの激突により……数秒と持たず、防壁を破壊されてしまう。
「きゃああ!」
「おらぁあ!」
気付けば、吹き飛んだ私に平行するように並んでいる。私の防壁を破った直後、飛ぶように追いかけてきたのか……! 何て速さだ!
その右拳に闇のエネルギーを集中させる。それはオーラとなり拳に纏う。これも咄嗟に、私は光のエネルギーを同じように右拳に集中させ……互いに、打ち合うように拳を放つ。
「ぐ、ぅ……うぁあああぁあ!」
数秒の衝突。拳と拳。散る火花。……しかしすぐに私の拳は押し切られ、地に体ごと打ち付けられてしまう。
「か、はっ……」
打ち付けられた衝撃から体内の空気が吐き出され、同時に血も吐き出される。速さも、力の強さも……魔王や悪魔四神といった上級悪魔を除いて、今まで会った悪魔とはレベルが違う。
この子、やっぱり……強い!
衝撃がダイレクトに伝わり、咳込む。だが倒れているわけにはいかない。何とか、立ち上がろうと腕に力を入れる。
「どうしたよ、怒りで力が湧いてくるんだろ? 精霊様の力を借りてもいいんだぜ?」
挑発するように、私を嘲り笑っている。ようやく立ち上がった体は、足がふらついてしまっている。
「リーさん! この……!」
「っは!」
じっとしていられないと思ったのか助太刀に入ろうとするオルちゃん。だが彼女に向かって、悪魔と人間のハーフの女の子は攻撃を開始する。
翼を広げ、放たれる無数の黒い羽。オルちゃんは神力を使って防壁を張るも……
「こんなもの……なっ……がっ!?」
何と、黒い羽は防壁をすり抜けて、直にオルちゃんを襲う。ただの羽ではないのか、意味の成さなくなった防壁をかい潜った羽はオルちゃんに突き刺さる。
「オルちゃん!」
肩や足など、あちこちに突き刺さった羽。それを受けたオルちゃんは、その場に倒れ込む。
「オルちゃん、オルちゃん!」
俯せに倒れたオルちゃんは、息を荒くして額から汗を流している。それほどまでに、羽の猛攻は凄まじい。
しかし、あれだけの攻撃でオルちゃんがこんなになるなんて考えにくい。それとも、見た目に反して攻撃力が高いってこと?
「やめて! どうしてこんな……殺したいのは私でしょ? なら……」
「聞いてなかったのか? 言ったろ……私は天使も人間も大嫌いなんだ!」
私は何とか立つが、足元がおぼつかない。二撃……受けたにしろ直撃ではないのに、ここまでダメージがあるなんて。
ここまで、力の差があるなんて……!
「どうしたよ? 天使と人間の混血ゥ! 混血は純血よりも力が強いってあの変態は言ってたが……天使は違うのか?」
不甲斐ない私を煽るように笑う少女。その言葉、初めて聞くものだが、混血は純血よりも強く……だとしたら、この子の力がこんなに強いのも納得するところではある。
「そんな体たらくじゃ、先にあんたのお友達を殺すことになるなぁ? その後は、殺し損ねた赤毛の女だ」
殺し損ねた……そして、赤毛という単語に私は瞬間的にピクリと肩を奮わせる。彼女が言っているのは、まさか……
「ユメちゃんのこと……?」
「あぁ、知らねぇよ。お仲間が死んでいく中、『お姉、お姉』だの『ヒロ兄』だのって助けを求めて泣き叫んでたっけなぁ。一緒に殺してもよかったんだが、一人くらいは残しといた方がいい演出になるだろ? 現にお前は、今アタシに怒りを感じてる」
オルちゃんを、そしてユメちゃんを手に掛けようとしている、目の前に立つ悪魔。その言葉に、力の入らなかった体に力が湧いてくる。いや、無理矢理にでも力を入れる。
みんなに、これ以上手出しなんて……させない!
「おっ、そうこなくっちゃ」
構える私を見て、口笛が一つ。相手にも注意を払いつつ、オルちゃんを確認。見た感じは致命傷でないにしろ、早く治さないと……
……でも、オルちゃんの苦しみ方が異常に見える。致命傷でもない攻撃で、あそこまで苦しがるものだろうか……? そのことを不審に思う私の疑問をまるで読み取ったかのように、張本人が口を開く。
「あ、言っとくと……今あの青髪が受けたアタシの羽、毒だからほっといたら死ぬぜ?」
「……は」
いきなり、何を言うのか。鈍器に頭を殴られたような衝撃が、走った。
「ど、く……?」
「キシシシ……ついでにいいこと教えてやるよ。毒が全身に回るまで、ざっと十分……その青髪女の命は、残り十分だ」
まるで、面白い映画の感想を告げるような……そんな、無邪気な顔で、恐ろしいことを口にする。
「ま、別に素直に毒なんて教える必要はねえんだけど……その方が緊張感あって、お前もなおさら燃え上がるかと思ってよ。いやー、教えてやるアタシ親切親切」
毒……しかも、十分で全身に回り切る? 愉快に喉を鳴らす少女の言葉に衝撃を受けつつ、苦しんでいるオルちゃんに視線を向ける。
衝撃の告白に頭を揺らす私を心配させまいと、倒れている彼女は口を開く。弱々しく。
「リー……さん。私は……だい、じょうぶ……ですわ。こんな……毒くらい、神力でどう、とでも……」
苦しそうにしながらも、オルちゃんは私を心配させないために優しく笑顔を浮かべる。確かに、オルちゃんの力なら治療にも事欠かないだろうけど……
その言葉の直後、神力の光がオルちゃんを覆っていく。そのまま、オルちゃんの体調は良くなって……
「うっ……どう、して……?」
体を光が包んだ。なのに、良く……ならない? オルちゃんの力が、効かない?
「神力っつったっけ? んなもんでアタシの毒を防げはしねえよ。それに、足掻けば足掻くほど死期を早めるだけだぜ?」
さっきの、オルちゃんの防壁をすり抜けたことといい……今の、オルちゃんの回復が上手くいかなかったことといい……オルちゃんの力が……というか、神力が効かない?
この子は、一体……?




