優しい嘘か、残酷な真実か
「ねえ……お姉は、元気かな?」
唐突に突き付けられた……しかし、当然の問いかけに、私は心臓を掴まれた気持ちになった。息が、苦しい。
「お姉が神力学園に行ってからは、電話だといっぱい話したんだけど、あんまり会えてなかったから。それに、世界がこんなになってから電話も通じないし。お姉のことだから、心配はしてないけど……どうせなら、会いたかったかなぁ」
当然といえば、当然の質問。彼女は、私達が散り散りになったことを知らない。学園関係者から聞いていたとしても、アカリちゃんがどこにいるのかを知る術はないのだ。
「今人々の希望って言われてる"双翼の星"は、二人のことなんでしょ? てっきりお姉のことかと思っちゃった。」
間違えて恥ずかしい、と言わんばかりに舌を出して笑うユメちゃん。
その考えは、正しい。普通、人々の希望って言ったら、そう言われるだけの強さを持った人ということになる。アカリちゃんにはそれだけの力があった。神力の強さでも、精神的な意味でも……
オルちゃんがそう呼ばれるのも、納得だ。でも、私は……そう呼ばれる資格なんてない。友達を見殺しにした私には、希望なんて言われる資格はないのだ。
……ただ、今の問題はそんなことではない。一番の問題は、そう……
「お姉、あれで寂しがり屋だから、一人だと夜な夜な泣いちゃってるんじゃないかな」
はにかむ彼女を見て、私は言葉に詰まる。一番の問題……アカリちゃんの居所、いや生死についてを、どう切り出そうか思考が停止してしまっている。……そう、アカリちゃんが命を落としたという事実を、伝えることを戸惑っている。
その件を知らないユメちゃん。人魔戦争については世界中に広まっているが、その件は、学園の中でもあの場にいた限られた者しか知らない。だから、それが誰かに伝わることは、まずないだろう。
だからユメちゃんは、アカリちゃん、そしてヒロトの件を知るよしもない。だから当然、今もアカリちゃんはどこかで生きていると信じているのだ。
……姉のことを嬉しそうに話す妹。その姿にデジャヴュするものがあり、こんな時にも関わらず私は目頭が熱くなるのを感じた。
「……どしたの?」
そんな私の異変に気づいたのか、不思議そうに首を傾げるユメちゃん。私は何と答えるべきか少しだけ悩んで……
「何でもないよ」
答える。私は少し、お姉ちゃんのことを思い出しただけだから。
目頭が熱くなったのは……感慨深さによるものだけではない。当然、この先の展開をどうすべきか、真実を伝えるとしてその後の反応に、不安を示すものでもあり……
「そっか……二人とも、お姉の居場所は知らないのか」
ユメちゃんは、うーん……と指を顎に当てる。私達が何も答えないのを、居場所を知らないと判断したようだ。情報を得られず残念といった風だ。
……何も知らない、と答えるのは簡単だ。きっと、どこかで元気にやってるよ……と。
でもそれでいいのか? 希望を持たせるためとはいえ、嘘を。しかも、とんでもない嘘をついてしまって。
……とはいえ、こんなお姉ちゃん大好きっ子に真実を伝えるのは……気が引ける。しかも、こんな状況下で。
私の考えがまとまらないうちにも、ユメちゃんのお姉ちゃん話は続く。
「お二人と仲良くしてもらってるみたいだけど……お姉が迷惑かけてるんじゃないかなぁ? そもそもお姉は、人がよすぎるんだから、少しくらいは……」
「亡くなりましたわ。アカリさん……貴女の、お姉さんは」
「人に甘えたりとか…………え?」
……私もユメちゃんも、覚悟していない中で……いきなり放たれたオルちゃんの言葉が、場を凍らせた。
「ちょ、オルちゃん!?」
「優しい嘘か、残酷な真実か……私は、後者を選びますわ。どのみち、いつかは真実を知ることになります。それに、言うのが遅くなるほど言い出しづらくなるだけです」
「それは……」
そうなんだけど。でも、もう少しタイミングっていうか……心の準備が。
「亡く……なった、って……お姉、が……?」
衝撃の告白を受け、絞り出すように言葉を出すユメちゃんは……引きつった笑みを浮かべていた。先ほどまでの笑顔が消え……その言葉が信じられない、きっと質の悪い冗談だと自分に言い聞かせているようで。
……残酷な現実が、幼い少女を襲っていく。




