怪しい出会い
そんなわけで今、俺達は服屋を後にしている。正直荷物が重いのだが、ここは男として弱音を見せるわけにもいかないだろう。……とはいえ、もう少し俺に気を遣ってくれても……
「あの、大丈夫ですか?」
「あぁ、平気平気。全然へっちゃらだよ」
そんな中で、俺を気遣ってくれるリーシャはマジいい子。うんうん、こう気遣われるだけでも違うよね。アカリとエルシャは、何やら話し込んでいる。仲睦まじいのはいいことなんだけどな。
からかうエルシャとからかわれるアカリという構図が出来上がってしまっているが、だからといって仲が悪いわけではない。むしろ仲がいいからこそ……と言える。
それはアカリの積極的な性格やエルシャのノリのいい性格嚙み合ってのことだろう。何はともあれ微笑ましい。
まあ、そんなことよりも俺は……隣で、めちゃくちゃ怖い表情をしているリーシャの方が気になるんだけどな。なるだけ見ないようにしようと思いながらも、妙な圧力を感じる。
これはあれか、漫画とかである、いわゆる殺気という……
恐る恐る視線の先を追ってみると、その先にいたのはアカリとエルシャ……いや、正確にはエルシャ一人だ。それに気付いているのかいないのか、エルシャはアカリと笑い合ったりしているのだが……
もちろん勘違いかもしれないが……いや勘違いではないな。いったい何に対してリーシャが、エルシャにこうも強い感情を向けているのかわからない。かといって、直接聞くなんてもってのほかだ。
もしかして、さっきのファミレスでの一件が関係しているのか?
目を離した隙に、エルシャの態度がおかしくなった。エルシャとリーシャを二人きりにして、だ。そこで考えられるのはエルシャ一人というより、二人に何かがあったのだということ。
あの時感じたのは、見るからにおかしなエルシャの態度だけだったが、おそらくリーシャも。そしてこの殺気が、それに関係しているのだとしたら……
「ねえ、あれは?」
俺の思考は、そこで止まった。何事かと意識を戻すと、アカリとエルシャが足を止めていた。足を止めたのはゲームセンターの前。そこを見て不思議そうな表情を浮かべている。人が悩んでいる時にこいつは……と思ったが、一旦忘れよう。
……で、もしかしてゲーセン知らないのかエルシャ?
「あれって……ゲーセンだけど。あ、ゲーセンってのはゲームセンターの略称で……」
「違うわよ。あそこでクレーンゲームやってるの」
そこにあるものの意味を聞かれたのかと思ったが、どうやら違ったらしい。続くその言葉、その指さした先に視線を向けると、そこにはとある人物がいた。その人物は……
「オルテリアちゃん!?」
「え……あら?まあアカリさん!」
腰まで伸びた青髪を揺らしながらこちらに駆け寄ってくる、オルテリア・サシャターンだった。
「オルテリアちゃん、どうしてここに……」
「せっかくの休日ですし、遊びに来たんですの」
花が咲いたように明るい表情を向けるオルテリアは、ここに遊びに来たのだという。こんなところで会うとは、妙な偶然もあるものだ。見たところ、一人のようだが……
「あんた一人?」
「いいえ。連れの方が……あ、あの方ですわ」
どうやらオルテリアは、休みの日に誰かと遊びに来たらしい。一瞬、一人でゲーセンを堪能してるのかと思ったが、それは間違いだったようだ。クラスのことだろうか? いったい誰と……
「どうしたんですオルテリア。急に走り出して……」
「こちら、キルデ・オスロですわ」
こちらに駆け寄ってきたのは、男性だ。てっきりクラスか知り合いの女の子あたりだと思っていたから、ちょっと意外だ。紹介されたのは、いかにも好青年といった男性だった。
年は、俺達と同じくらいだろうか?
「休日に男と二人きりで……へえ……」
「な、何ですのその顔は! そんな関係じゃありませんの!」
「そんな関係って、どんな関係かなあ?」
俺も思ったことだが、それをエルシャはあっさりと聞いてしまう。それに対してオルテリアは、少し慌てているというか顔が赤いというか。そこに、いつもの彼女はいなかった。
あのオルテリアが押されている……エルシャ、やはり恐ろしい子!
「コホン! えー、キルデ、こちらクラスメートの……」
とにかく話題を変えようとわざとらしく咳ばらいをした後、せっかくなので一人一人自己紹介をする。エルシャ、アカリ、リーシャ、それから俺は最後の番。簡単な自己紹介のつもりだったが、俺の番になると、何だか他のみんなよりも妙に視線を感じたのは気のせいだろうか?
「よろしくお願いします。私、オルテリアの古くからの付き合いでして……」
「古くから……ってことは、幼馴染!?」
「ええ、まあ……」
「ふーん……」
「だからその顔は何ですの! 何もないですわ!」
オルテリアとキルデ、どうやら二人の関係は幼馴染らしい。俺とアカリみたいなもんか。だから妙に息ぴったりなのな。再びエルシャに関係を探られているオルテリアは否定はしてるけど、何だか満更じゃなさそうだな。ふーん。
その場で、女子トークが始まってしまう。ほほえま~、と思いながらみんなを観察していると、突然横から声を掛けられた。
「ヒロトさん……でしたよね?」
「ひゃっ!?」
い、いつの間に隣に!? てかいきなりのことで変な声出ちゃったんだけど!
「え、えぇ……オスロさん、何か?」
「キルデで構いませんよ。それに敬語も気にせず……あ、私のは素なので」
「は、はぁ……じゃあ、キルデ」
オルテリアの幼馴染みで、この口調ってことはこの人もどこかのお坊ちゃんとかかな。確かオルテリアは、家が金持ちでどっかのお嬢様だって聞いたような気がする。
「この中で男性は二人だけですし……仲良くしましょう」
妙に笑みを浮かべたままそう言うと、手を差し出してくる。これは握手……だよな。このご時世に、何だか珍しいことだ。
「あ、うん……よろしく」
応じないわけにもいかないので手を握るが……気のせいかもしれないが、キルデの手はひんやり冷たかった。それを言及はしなかった。手が冷たいだけでなく、それにやけに見られているような……
「……おや、もうこんな時間ですか。オルテリア」
そこで思い出したかのように時間を確認したキルデは、一言告げてオルテリアの所へと向かう。うーむ、礼儀正しいというか紳士的というか……変、とまでは言わないが変わった人だな。
「あら、もうこんな時間ですの? すみません皆さん、私達これから用事が……」
同じく時間を確認し、どうやら家の用事があるらしい二人は、そのまま帰っていった。変わった人とは思ったが、その二人の姿は何だか見ていて微笑ましいな。
その後、俺達はしばらくぶらぶらしてから、寮へと戻ったのだった。




