あの子に似た少女
「アカリ……ちゃん……?」
目の前に現れたのは、アカリちゃん似の少女。その姿を見て、私は絶句する。髪型こそ違うものの、その顔は、瞳は……姿は、アカリちゃんと変わらない。
彼女は死に、先程目にしたのに、だ。うぬぼれではないが、私でも判断に迷ってしまったほどに、彼女は……
その彼女は、魔物を庇うように立っている。一体、何のつもりか。まさか、この惨状にこの小さな少女も関係しているのか?
警戒を怠るどころか、引き上げた時……こちらを睨む私の眉が動く。そして、口を開いた。
「アカリ……って、お姉を知ってるの?」
「……へ?」
……放たれた言葉は、切迫した私の心を鎮めるには充分な威力を持っていた。何せ、この少女はアカリちゃんの名前に反応しただけでなく……『姉』だと告げたのだから。
「お、姉……? って……もしかして…」
髪型さえ揃えれば本人と見違うほどのそっくりな外見。そしてお姉という発言。この条件がそろって、頭の中に別の考えが浮かぶ。
まさかこの子は……
「まさか、アカリさんの妹さんですの!?」
導き出された結論。その疑問に驚いた様子で見つめる先には、依然こちらを睨みつけながらも多少は警戒が弱まったらしき少女がいる。
「……確かに、アカリ・ヴィールズは私のお姉ちゃんだけど……」
問い掛けに、少女はあっさりと答える。その言葉に、嘘偽りはないだろう。その容姿が、それを証明している。
それを聞き、私は少女に近づく。警戒に身を固める少女を気にせず、顔を近づける。
……うん、アカリちゃんと同じ匂いだ。
「な、なに……?」
首元ですんすんと鼻を動かされ、警戒なのか恐怖なのかわからない感情を向けてくる少女。私はその肩を掴み、視線を合わせる。
「ということは……あなた、アカリちゃんの妹の、ユメちゃん?」
学園で、ルームメートだったアカリちゃんが度々妹に電話しているのを、私は聞いていた。その時に、『ユメ』という名前を聞いていたのだ。目の前の少女は、もしかして。
「何で、私の名前……もしかして、神力学園の人?」
名前を当てられ、驚く少女はまだ警戒しながらも……思い当たる節に行き当たる。それに頷いて答えると、少女の表情が微かに明るくなった気がした。
同じ学園の人に、姉を知っている人に出会えたことに思うところがあるのだろう。
私も、胸が温かな気持ちに包まれていく。
「そうだよ。アカリちゃんとは……友達」
その言葉に、彼女は希望を見つけたように目を見開く。そんな彼女を見て、積もる話もあるからと、場所を変える。……こんな場所で、する話ではないから。
場所を移し、改めて話し合いの場を設ける。私とオルちゃん、そしてユメちゃん。エドさんとスカイくんには、あまり人数がいてもユメちゃんを警戒させるだけだからと、別の場所に待機してもらっている。
それに、アカリちゃんのことを知っている人の方がユメちゃんの警戒も解きやすいだろうから。
「じゃあ、改めて。……あなたは、アカリちゃんの妹、ユメちゃんでいいんだよね?」
「……えぇ。ユメ……ユメ・ヴィールズ。アカリ・ヴィールズは私のお姉ちゃん」
改めて、本人の口から確認を得る。この子は、アカリちゃんの妹で間違いないと。
しかし……見れば見るほど、そっくりだ。アカリちゃんに聞いた話だと、まだ中学生の年齢らしいけど……双子といっても全然不思議ではない。
「二人は、お姉の……友達、なんだよね?」
姉の友達と名乗る相手に、少なからず警戒心は薄れている。それでも、完全に心を許してはいないのか、まだ表情は硬い。
……その腕に、先程の子犬魔物を抱えながら。子犬魔物は、腕の中でおとなしくしている。素直に、おとなしくしている。
「そうですわ! 私達はアカリさんのお友達ですの!」
ここだと言わんばかりに、オルちゃんが前に出る。いきなりの大声にユメちゃんは肩を小さく奮わせるが、オルちゃんの姿を見て思うところがあるのか、暫しその目を瞬かせている。
「えっと……」
「申し遅れましたわ、私、オル……」
「ちょっと待って!」
大きな胸を張り、自己紹介しようとするオルちゃんを制すユメちゃん。何事かと首を傾げるが、頭に指を当てている。もしかして、誰だか当てようとしているのだろうか?
初めて会ったはずなのに……もしかしたら、アカリちゃんから仲のいい人の特徴を聞いていたのかもしれない。
「青髪……お嬢様みたいなですわ口調…………もしかして、おっぱ……オルテリア、さん?」
「正解! ですわ!」
考え抜いたユメちゃんの答えに、満足そうなオルちゃん。名前も合っているし、どうやら聞いていたらしい。
だけど私は、ごまかされない。答える直前、何か言おうとしたのを。その時、オルちゃんの胸を見ていたことを。
多分、今おっぱいお化けって言おうとしたな。アカリちゃん、妹にもオルちゃんのことおっぱいお化けって言ってたんだ。
続いて、私の番。なぜだか、ドキッとしてしまう。
「うーん……小動物みたいで、ちっこく可愛い、一見頼りなさそうなショートカットの女の子。……リーシャって人に、大方の特徴は合ってるんだけどな」
私を観察するように、じぃっと見て……ぶつぶつ言っている。何とか自分の想像する人物と合わせようとしているようだ、が……
すいません、聞こえてますよ! 私そんな頼りなさそうな印象ですかね! ってか、アカリちゃんそんなこと言ってたの!?
「茶髪だけど……でも、金髪も混ざってるなんて言ってなかったしなぁ。瞳の色も左右違うし」
さっき呟いた台詞に私の名前があったし、頭の中で見当をつけているのは実際問題当たりだ。当たりなんだけども……
……アカリちゃんは、今の私の容姿を知らない。学園にいた頃とは、少なからず変化を起こしている。シルエットだけなら変わりはないが、そこに色をつけると変わってしまう。
ユメちゃんに伝わっているのがあの時のままの姿なら、ユメちゃんにはわかるはずもないだろう。
「うー……降参! 誰!?」
ついに諦めたユメちゃんから、ストレートに誰だと聞かれる。こんな直球に誰だと言われるのも不思議な気分だ。
こほん、と咳ばらいし、自己紹介する。経緯は簡略化して話し、ユメちゃんはたいそう驚いていたが、綺麗な髪と瞳だねと言ってくれた。優しい。嬉しい。
「知っているということは、アカリさん、私達の話を妹さんにしてくれてたんですわね!」
嬉しそうだな。それもそうか、オルちゃんとアカリちゃんはよきライバルって感じだったし。
どっちかって言うと、オルちゃんが一方的にライバル視している感だったけど。
「それで、私のこと何て言ってました!? ねえねえ!」
ぐいぐい行くな、オルちゃん。若干口調も崩れてるし、余程自分の評価が気になるんだろうか。それを受けて、ユメちゃんは自分の記憶を掘り起こしていき……
「えーっと、確か……『うるさい人』って」
「……」
バッサリだー……辛辣な答えをバッサリと告げた。




