魔物と少女
吐きそうなほどに込み上げてきたものを無理矢理に飲み込み、そらしたくあり、そらしてはいけない現状を見つめる。集団自殺……というのはさすがに考えるのは無理がある。そうなると、たどり着く結論は一つだ。
「……悪魔……!」
奴らの、仕業だろう。奴らが、ここにいる人達を……! ただ殺すでは飽きたらず、人としての尊厳までを奪うような行為。こんな、ことが……
「許せない……!」
それに、奴らは自分達で女性をさらっておきながら、無残に殺している。その矛盾した行動が、理解できない。殺すつもりなら、わざわざさらうつもりなんてないはずだ。用が済んで……だとしても、その後のやり方が残酷過ぎる。
だが、これが奴らのやり方でなくて、何なのか。奴らに対する怒りが、憎しみが膨らんでいくのがわかる。人々を、こうまでする奴らに対しての憎しみが……
「! 魔力……」
そこへ、私の感覚をざわつかせる何かが近づいているのを感じる。それは魔力。もしかしたら、この惨状を引き起こした張本人かもしれない。膨らんでいた怒りと憎しみを抑え、オルちゃんに呼びかけて警戒心を引き上げる。
あまり……というか、全然大きくない魔力。普段なら見逃してしまいそうな程に小さな力。しかし、現状に対する奴らへの感情が、私の感覚を敏感にしていたのか。
いずれにしろ、何かが近づいてきているのは確かだ。この惨状を引き起こした奴なのかはわからないけど、いかに大きくない魔力を持った小さな存在でも、対抗する力を持たない人々にとっては脅威でしかない。
ここにいた人々に対する怒り、憎しみ。それをぶつける相手に対して、感覚を研ぎ澄まさせる。近づいてくる存在に、いつでも対応できるように。
「……来た!」
感じる存在は、近くの草むらから飛びだしてくる。その正体は……
「! 魔物!」
そこにいたのは、子犬ほどの大きさをした、紫色の毛色をした生き物。見た目は子犬そのものだが、その身からは魔の気配が漂っている。正直、力だけなら今まであった悪魔や、魔物の中でも下から数えた方が早いかもしれない。だけど……
「こいつが、みんなを……!」
この魔物が、ここにいる人々をこんなことにしたのなら、油断するわけにはいかない。いずれにせよ、魔物ならばここで倒す。魔物だって、私達に敵対心を抱いている。怒っているのは、こっちだ。
唸りを上げている魔物を倒すために、手の平を向ける。睨みつけ、狙いを定める。そして手の平に天力を集中させていき、光のエネルギー弾となったそれを放……
「ダメー!」
……とうとしたところへ、突然の声の高い声が集中していた意識を引き戻す。ここに来てから、聞くことのなかった私達以外の人の声。はずなのに、それはどこか懐かしい声にも思えて。
同時に目の前に誰かが現れる。それは私より年下であろう小さな女の子で、あろう事かまるで魔物を守るようにし両手を広げて立っている。
「……っ! ちょ、ちょっと! あぶな……」
いきなり目の前に現れた女の子に、集中力が途切れ不安定になった攻撃の手を、何とか止める。下手をして、女の子に当たるところだった。あ、危な……!
急に目の前に出てきたことに、そして魔物を守るように立っていることに物申そうと口を開くが……目の前の人物の姿を認識した瞬間、出てきた言葉の続きが出てこなくなる。なぜなら……
「……ぁ」
その少女は強い瞳をしており、億する様子もなくこちらを見つめている。震える手足が、しかし強さを完璧に見せられていない弱さがあった。肩よりも少し伸びた赤い髪を後ろで縛り、ポニーテールにしている。こんな状況であっても、綺麗に整った髪はまるで光っているかのよう。
しかし、私が戸惑った理由はそこではない。……その顔立ちには、見覚えがあった。その瞳にも。だってそれは、ずっと見てきて……ずっと一緒にいた人物。ついさっき、一方的にではあるが会ったばかりの姿だったんだから。
「……アカリ……ちゃん?」
目の前の少女は……私の親友、アカリ・ヴィールズと、うり二つの顔立ちをしていた。




