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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
世界崩壊
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めんどくさがりな魔王



 ……先程まで目の前にいた、金と茶が混ざり合った珍しい髪の色をした少女は、もうここにはいない。髪の色と同じく金と茶を瞳の色に宿すその眼差しは、この状況下にあっても瞳の光が消えることはなかった。



 自身と対峙し、体が、頭が、理性が本能がその命の灯に終わりを見たのに、目だけは死んでいなかった。



 その目が、気に入らなくて。その目を見ると、何かを思い出しそうで。あの眠る少女といい、何なのか。何で、こんなにも心がざわつくのか。



 もう死んでいるただの肉塊の人間に。今の世界に抗う愚かな天使と人の子、天人に。どうしてこうも心が騒ぐ。



「……」



 手を、見る。何か特殊な攻撃をしたわけでもない。ただ、飛ばしただけだ。こことは違う、無間に無が続く、地獄の世界へ。



 それはこの手の平から放たれる、黒い霧によってその現象へと至る。あの時の人間も、今し方の天人も、今頃は無間地獄の中だ。



 これで、この場所には異物はもういない。殺してもよかったのだが、それは何故か躊躇われた。自分の中でブレーキがかかった、というわけではないが……殺す気分にはならなかった。



 だから、ここではないどこかで、勝手にのたれ死んでしまえばいい。無間の無の空間から抜け出すことは不可能だし、自分以外で誰かがあの場に行く手段を持ち合わせてもいない。



 一人、孤独のままに死んでいけ。



「……めんどくさいな」



 これ以上、ここにいないゴミのことを考えても時間の無駄だろう。意識をそらし、男は……ヒロトは、先程まで天人がいた場所へと視線を向ける。



 そこにはあの忌ま忌ましい天使の光を放つ人影はなく、代わりに彼女を無間地獄へと飛ばした原因……黒い霧が、漂っていた。



黒い霧には、当然ながら意志はない。ただ、そこに存在している。役割を終えたそれは、本来ならば主の下へと戻るはずだ。だが、主の方は黒い霧を放置したままだ。



「……お前も、好きにすればいい」



意志のないそれに、ヒロトは話しかけている。それがどういう意味を持つのかわからないが……その言葉を受けた黒い霧に、変化が生まれる。



 黒い霧は形のないもやとして漂っていたが、次第に何か意味のある形状に成っていく。それはまるで、四足歩行の獣のような形。



 生き物でないそれは、まるで生き物であるかのように己の体を形作っていく。とはいえあくまで黒い霧がベースなため、そこに生命としての肉の形はなく、あくまでもやが獣の形状を真似ているかのよう。



 そのはずなのに、狼のように鋭い牙を鳴らす口元からは、グルルル……と本物の獣の唸り声が響いている。



 かと思えば、狼の背中からは翼が生え、その胴体は翼の大きさに合わせるように小さくなり、手足も変化。獣の唸りは顔の形状の変化と共に甲高く勇ましい鳴き声となる。それは、狼がカラスの姿になった瞬間と同時だ。



 つまり黒い霧は、狼の姿に変化し、今度はカラスの姿へと形状を変え、室内を飛び回っている。それを当然驚くこともなく見つめるのは、黒い霧を生み出した張本人であるヒロトだ。



「……」



 その瞳には、何が映っているのか。誰にも、本人にさえわからない。憎しみなのか、悲しみなのか……ただ、心のざわめきの正体を知るために、破滅を願う。



「……邪魔する奴は、誰であろうと容赦はしない」



 この想いに従えば、いずれ全てを破滅に導けば……この心のざわつきの正体がわかるかもしれない。見ると、想うと心を締め付けられる感覚に陥る原因……カプセルの中に眠る少女に目を移す。



 雄叫びが、室内に響き渡る。後に『暴食』と呼ばれることになる黒い霧を見つめ、魔王は微かに口元に笑みを浮かべた。

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