関係ない
こいつらの、悪魔の目的はいったいなんなのか。それを、目の前に立つ、かつて友達だった男に問いかける。
「……さあな、何なんだろうな」
だけど返された答えは……ある意味で、まったく予想のしていないものだった。
「何なんだろうなって……!」
「何でコレを持ってきたのか……どうしてボクは、そんなことをしたのか」
アカリちゃんを指して、コレと……そして、持ってきたと言う。その表現は、とても人に向けられるものではない。
その言葉に、さっきのプレッシャーで沈められていた怒りが湧いてきそうになる。
「ただ……あの場に放ってはおけなかった。何なんだろうな、この気持ちは」
その後に続けられた言葉に、吹きだそうとした怒りはその場に押し留まる。今、何を言われたのか……ヒロトは何と言ったのか、理解するのに時間がかかった。
今言った言葉の意味、それはつまり……アカリちゃんの記憶は消えても、アカリちゃんに対しての想いが全て消えたわけじゃない?
確証はない。が、それ以外には考えられない。彼自身、そのことには気付いてないようだ。だけど……もしも、そのことに気付いてくれれば……
「その、答えは……今のままじゃきっと得られない。人間界を征服しようと企む、今のままじゃ……だから……」
アカリちゃんの想い、アカリちゃんへの想い。それはきっと、今の状態では気付くことは出来ない。もしもそれを求めているなら、それを利用して今の状況を変えることも出来るかもしれない。
……アカリちゃんは絶対にこんなことを望んではいないのだから。
だから、ヒロトの……悪魔の目的を、防ぐ。そのために今ここで、彼に何かを伝えることが出来れば、あるいは……
「征服? 何を言っているんだ」
「……は?」
……返ってきた言葉は、ひどく無機質で、またも予想しないもので。
「どうでもいい。あいつらが何をしようが、お前らが何をしようが……ボクには、関係ない」
「関係、ないって……!」
私の発言が、まるで見当外れのような態度。人間界を支配し、統治することが、悪魔の目的だと思っていた。
人間界に侵攻し、人間を捕らえ、殺し、世界を闇に包んで……それはまるで、世界征服とも言える行いに思えたから。
天界を侵略したように、次は人間界を……そう、思っていた。だけどそれは……自分には関係ないと、ヒロトは言う。部下である悪魔が何をしても、自分には関係ないと。
「関係ないで、済ませられるわけないでしょ!」
こんなことをしておいて! 世界中を巻き込んでおいて、関係ないで済ませていいはずない!
「吠えるなよ。そもそも、ゴミがどれだけ死のうと興味もない」
……信じられない言葉を聞いた。アカリちゃんに対しての物言いから予想はしていたが……価値観が、人間の時のそれとはまるで違う。
そして、みんなのことを"ゴミ"扱いする彼に対して、何も思わないわけがない。心の奥に、ざわざわしたものが沸き上がる。
この気持ちは……
「あー、その顔。もしかして怒ってる……のか? ……なら、それはボクの方なんだけどな」
私の心を透かし見たように、彼は無表情を微かに歪める。その瞬間、ぞくっと背筋が凍りつく。
「……話はもう、終わりだ」
とん、と一歩前に踏み出すのを見て、私は高ぶっていた感情が沈んでいくのを感じる。理性でなく、本能で。
それに伴い、自然と一歩後ろに。目の前のヒロトのその表情に浮かぶのは……無の中に、微かだが怒りがあるように見える。
さっきまで喋っていたのが嘘のように、無言の圧力が降りかかる。今までの会話は、一触即発の様子はあれど普通に話せていた。……この状況で普通、というのもどうかと思うが。
話しても問題ないことなのか、私なんかに知られても支障がないと判断してか会話に応じていた彼の姿は、そこにはなかった。
「……ここにお前は、いらない。この場所から、出ていけ」




