キャッキャウフフなコーディネート
エルシャとリーシャの間に何があったのかは結局わからないまま、そのうちに服売り場へとやって来た。流行のものから少し古そうなものまで売っており、まさに人気のありそうな店だ。
証拠に、今も結構人が入っている。店自体も広いから、まだまだ余裕はあるが。
「ほらエルシャ! 服だよ服! 何か気になるのない?」
アカリは、必死に盛り上げようとしているな。しかしまるでお通夜みたいなテンションだった上に、神様だからと豪語するエルシャが人間の服にそうそう興味を持つかな……
「……」
持ってた。目を輝かせ、まじまじと見つめている。尻尾があったらふりふりと振っていたことだろう。さっきまでのあのテンションはどこにいったんだと突っ込みたくなるほどに。
「さ、行こう! ほらリーシャも!」
「うん!」
と、二人の手を引っ張り中へと入っていく。俺完全に蚊帳の外だが……まあいっか。女の子のことは、男の俺にはよくわからんし。案外アカリに任せることでうまくいくかもしれない。逆にアカリだからこそ、かな。
後に続くように、俺も店内に。店内では当然ながら男性服もあり、俺も興味ひかれるものがあった。成る程これは人気出るわけだ。
「じゃあ、私が見繕ってあげるよ!」
「え、いやいいわよ……」
「遠慮しない! 私センスはいいんだから!」
そう言いながら鼻唄を歌いつつ服を選んでいる。まあアカリの服似合ってるの多いしな。俺も何度か見繕ってもらったことがあるが、なかなかにセンスはいい。
当人の性格を知っていればこそ、より選びやすいのだろう。それだけにエルシャの服選びは未知だが……
「あ、あのアカリちゃん……私にも選んでほしい、かな?」
「え、いいけど……リーシャ結構お洒落さんだから私がコーディネートしなくても……」
「アカリちゃんにしてほしいの!」
恥ずかしそう、且つ食いぎみなリーシャに、アカリもさすがに言葉を詰まらせてしまい、結局二人分のコーディネートをすることになった。ふむふむ、なかなか微笑ましい光景じゃないか。
「……ふぁあ」
それから、すっかり服選びに夢中になってしまったアカリに放置され、一人呆然としていた。女の買い物って長いよな……
前もアカリと出掛けたとき、こうだったし。かといって一人でどっか行っても後でどやされそうだし。
……結局一人でぼんやりして過ごしていた。男一人で女性服売り場にいるのはなかなかにキツイものがある。だが気づけば服選びは終わったらしく、アカリは二人に服を渡し、渡された二人は試着室に、渡し終えたアカリがこっちに寄ってくる。
「ふふん、思わず見惚れちゃうかもしれないよ?」
「そうかい、期待しとくよー」
全く感情のこもってない声。でも今まで暇だったんだもの、仕方ないじゃないか。アカリは何だか頬を膨らませ睨んでいるが。それからしばらくして、エルシャの入っていた試着室のカーテンが開いた。
「おぉ……」
現れたエルシャの姿を見て、思わず声が漏れる。青色風のデニムパンツはエルシャの長く細い脚を際立たせており、クリーム色のシャツ、上から水色のカーディガンを羽織っている。
おとなしめの服の色のおかげか、美しい銀色の髪はいっそうに目を引くに状態になっている。
服に着られるなんて状態になっているのではなく、ちゃんと着こなしている。モデルのようなエルシャの体型を、その服装は見事に引き立てていた。エルシャの体系もだが、やはり服のセンスもバッチリだ。
「ふぅん……ま、悪くないんじゃない?」
と言うエルシャは、実のところ満更でもなさそうだ。鏡で自分の姿を見たり、その場で回転して確認している。あの高飛車な神様がうっとりするほどとは……
さすがアカリ、やるな。会ってからもたいしてエルシャのことを知らないのに。
「ほらほら、感想は?」
エルシャの服を見て、コーディネートしたアカリが感想を求めてくる。ど、どうって言われてもな……正直に言うのは何だか恥ずかしいのだが。
「うん……似合ってるよ」
……やはり真正面から言うのは恥ずかしいな。言われたエルシャも、心なしか照れているように見える。普段あんなでも、やっぱ褒められたら嬉しいもんなのか。
「そ、そう……ま、特別にもっと褒めてもいいわよ!」
「あはは…」
「じゃあお次は……」
アカリが、隣の試着室……リーシャが着替えている個室の前へと移動する。こうなると、自然とリーシャの服にも期待がかかるというものだ。
「どうリーシャ、着替え終わった?」
話しかけるが、声は返ってこない。どうしたのだろうと思っていたが、するとやや遅れて、反応があった。
「お、終わったけど……恥ずかしいよぉ」
返ってきたのは、こんな回答で。……アカリ、お前はいったい何を着せたんだ。本人恥ずかしがってるんだけど。
「終わったんでしょ? なら行くよ~」
「ちょ、まっ……」
恥ずかしいからと姿を見せるのを渋っていたリーシャだったが、容赦のないアカリによって有無を言わさず、カーテンが開けられる。そこにいたリーシャの姿はと言うと……
「うぅ……」
言葉通り恥ずかしそうに、身を縮めている。頬を染めてもじもじしていているその姿は、何だかちょっとエッチっぽかった。
そんな彼女の服装は、ふわっと広がったシルエットの、薄い桃色のミニスカート。後から聞いたらフレアスカートと言うらしい。を履いている。少し大きめのグレーのパーカーに、ゆったりめのシャツはよく似合っていた。
服が大きいせいか、元からだったのがますます小動物みたい。
恥ずかしいからかスカートの裾を引っ張り、短いスカートから覗く脚を隠そうとしているのだが、そんなことをされると余計に注意が行ってしまうので困る。やっぱり何だかエッチっぽい。
「あ、今変な目で見てたでしょ」
そこに、アカリの突き刺さるような視線が向けられる。表情には出していないつもりだったが、こいつ目ざといな。女性は、男のそういう目に鋭いと聞くけど。
「き、気のせいだよ……かわいいなって思っただけ」
「かわっ……ひ、ヒロトさんのエッチ!」
「!?」
こうして、二人の服をアカリがコーディネートしたわけだが……ちょっとした出来心から、こんなことを口走っていた。
「どうせならアカリも着替えてみたら?」
「へ?いいよ私は……」
その申し出に断るアカリに対して、着替えさせられた二人はと言うと……
「そうね、ここはお返ししてあげないと……この私自らコーディネートしてあげる!」
「アカリちゃんをコーディネート……うふふ……」
二人はすでにやる気らしかった。それを見てか、珍しくアカリが戸惑っている。
「き、気持ちは嬉しいけど遠慮しとくよ……私、選ぶの専門だから……」
「いいから、さっさと入りなさい!」
と、無理矢理にアカリを試着室に押し込む。完全に獲物を見つけた目だった。リーシャはともかく、エルシャは服選びすら初めてそうなんだがどうなんだろう?
「一度やってみたかったのよねー、服選び!」
さっきまで青ざめていたのが嘘のように盛り上がってるな。まあ元気ならそれでいいが……な。ずっとあのままでいられても困るし、それはバカみたいに騒がしいエルシャらしくない。
「私に任せて、アカリちゃん」
「もしかして、二人でそれぞれ選ぶの?」
どうやらエルシャとリーシャで、それぞれがアカリの服を選ぶらしい。二人一緒にとかじゃないのか。まさかまだ二人の間に因縁的な何かがあるからか、単に別々に選びたいからか……
「じゃヒロト君、しっかり見張り頼むよ」
「逃がしちゃダメだからね」
二人に見張りを頼まれてしまった。俺はどちらの味方というわけでもないんだけど、後が怖いのでおとなしく従っておこう。だから……
「アカリ、逃げんなよ」
「! な、何で…」
振り向かなくてもわかるよ、お前が逃げようとしてることなんて……隙をついて逃げ出そうとしても、その手は通用しないからな。
「そりゃわかるよ、アカリの考えてることなんて」
「うっ……そ、そう……」
そう言ったアカリの声に、何とも言えない感情があった気がするのは気のせいだろうか?……それからしばらくして、ようやく二人が戻ってきた。服を決めるだけでどうしてこうも時間がかかるのか……
「お待たせー!」
「アカリちゃん、逃げてない?」
二人共目を輝かせてやがる……エルシャはともかくリーシャまで、そんなオモチャを前にした子供みたいな無邪気な顔をしなくても。
「もう早く済ませてよ……」
もう観念したのか、投げやりに答えるアカリ。そんなに着替えるのが嫌なのか、お前は……
「じゃあまずは私からね、はいアカリちゃん」
まずはリーシャが、持ってきた服を試着室の中のアカリに渡す。すげえ嬉しそうなんだけど、どんな服選んだんだ……? もしくは、服選ぶが好きなのだろうか?
「……へぇー、これ……」
中から、何とも嬉しそうな声が聞こえてきた。どうやら、アカリの趣味に見事にヒットしたらしい。アカリも乗り気になっているようで、それに越したことはない。
「どうアカリちゃん、終わった?」
「う、うん……」
終わったと聞くや、リーシャが中を覗き込む。その時「キャー」とか「うへへ」とか歓喜の色が混じった声が聞こえたのは気のせいではあるまい。
おっさんみたいだなと思った次の瞬間、リーシャの手によりカーテンが開けられる。
「う……何だかやっぱ恥ずかしいよぉ」
どうやら、試着した服を見せる、というのは共通で恥ずかしいらしいが……そこにいたアカリの服装は、何とも似合っていた。
Tシャツの上にジッパーのついたパーカーを羽織っており、ホットパンツから覗く健康的な脚が眩しい。これもまた、活発なアカリを良く表している。
さすがはアカリの親友でルームメート。しっかりアカリのことをわかっているらしい。
「かわいー! 似合ってるよアカリちゃん!」
「あ、ありがと……うん、結構いいかも」
アカリ本人も気に入っているようで、その場でくるくると回っている。アカリも言っていたが、リーシャもいいセンスをしているようだ。それは、アカリ限定な気もするのは何故だろうか。
「うん、アカリらしくて好きだぞ俺は」
「っ……そ、そう……なんだ」
「さあ、次は私よ!」
褒められてか照れているアカリ。そこへ、自信満々気にエルシャが目に出る。その自信は一体どこから来ているんだ?
「やけに自信満々じゃないか」
「一番可愛い服を選んだんだもの。当然よ」
そう言って、持っていた服をアカリに渡す。アカリも、リーシャの件から若干楽しみにしているようだ。ただ……一番かわいいって、店員さんに聞いただけじゃあるまいな?
「どんなん選んだんだ?」
「まあ見てなさいよ」
その笑顔が、怖い。まるで悪いこと企んでるみたいで、少なくとも美少女がしていい顔じゃないな。……それから少しして……試着室の中から、困惑の声が聞こえてきた。
「ちょ、な、何これ……何これ!」
顔だけを外に出し、顔を真っ赤にしてエルシャに抗議している。そんなに不服とは……何を着たんだアカリ。そして何を選んだんだエルシャ。
「あ、着た? じゃあお披露目~」
「や、まっ……」
有無を言わさず、カーテンを開けていく。何だかデジャヴュを感じるのだが、容赦ねえなあ。……で、露になったアカリの服はというと……見た瞬間目を疑った。
「め、メイド服?」
「み、見ないで……」
アカリが着ていたのは、よく貴族のお手伝いさんとかが着ているメイド服というやつだった。藍色と白を基調としたもので、俺はまずこう思った。
…………これもはやコスプレじゃん!というか、よくこんなもん置いてたな!
「これ、何のつもり!?」
「いや、一番可愛いのを……」
「私に合うのを選んだんじゃないの!?」
「くっ……悔しいけど、私の負けね」
「何が!?」
結局アカリはリーシャの選んだ服の方を選び、気に入ったのか買った。その際、若干赤く染めた頬で俺の方をチラチラと見ていたのだが……何だろう?
最後に負けとか言ってたリーシャだったが、これ勝負になってないだろ。そもそも勝負してないだろ。……ちなみにだが、メイド服は俺的には全然ありですとも、はい。
「いやあ、楽しいわね」
「ただ私を着せ替えてただけでしょ!」
服の買い物が終わったので、辺りをぶらぶらすることに。ちなみに荷物持ちは当然のように俺だ。アカリが選んだエルシャとリーシャの服に、リーシャが選んだアカリの服だ。
こっそりメイド服も買おうと思ったが、メイド服を見るアカリの目が怖かったのでやめた。




