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神殺しの弾丸  作者: 白い彗星
世界崩壊
151/314

ポチ



 破壊された切断面から見えるのは、人間のそれではない。肉の代わりに機械的なものがあり、バチバチと音を立てて火花が散っているのが見える。おそらく、切断された影響で電子回路がちぎれたのが原因だろうか。



 しかし、当の本人に苦悶の表情はない。ていうか、そんなあっさりした問題ではない。



 彼がロボット……という事実は、この際おとなしく受け入れよう。今は、目の前の事象を素直に呑み込むことが最優先だ。



 それに、ロボットというには、彼の姿は人間そのものだ。なので、この場合は人造人間(アンドロイド)というべきだろう。彼が人造人間(アンドロイド)というなら、これまでの行動にも納得できる。あれだけ激しい戦闘に息切れすら起こさないのは……エドさんの剣技をその腕でことごとく受け止め防げたのは……つまりそういうことなのだろう。



 体が、機械で出来ているから。



 ということはつまり、もう一人もそうなのか。片方だけが人造人間(アンドロイド)とは思えないし、何よりも彼女も、彼と同じように息切れもないしオルちゃんの攻撃を受け止めていたのだから。



 凍った地面に、足を踏み込ませ無理矢理に氷を割る。そうすることで足が滑ることを防ぐという、強引ではあるが実に有効的な手段で体勢を立て直している。



 謎の男の子と女の子の正体……それは、人間ではない。かといって悪魔でも天使でもない。初めて目にする、人間と見間違うほどの容姿、機械を感じさせない柔軟な動きを併せ持つ人造人間(アンドロイド)。それが、私達に敵対した存在の正体だ。



「……破損箇所、確認。修復不可能」



 目の前の存在に緊張する中……そこに、誰のものとも知れない声が響く。それは、これまでの戦闘の中でも一度も言葉を発することのなかった謎の男の子のもの。その声色には感情というものがなく、ただ事務的なもの。



 それは、ひどく機械的であり、その要素も彼の正体を物語っていた。



「……戦闘続行可能。再び戦闘体勢に……」



「却下。これ以上の戦闘は無意味」



 切断された腕を目で追うことも、気にすることすらなく言葉を続ける。彼にとっては自分の腕ですら、意味のないものなのか……?



 再び戦闘を開始しようと構えるところへ、彼とは別の、機械じみた声が響く。同じくこれまで沈黙を保っていた、謎の女の子のものだった。



「まだ戦闘続行可能。何故制止を?」



「目的の相違」



 二人の間で交わされる会話の真意は、端的で必要であろうことしか発せられない。おそらくは二人にしかその意味はわからない。だが、その口振りは、二人の目的=戦闘ではない、ということを表していた。戦闘であれば、ここで待ったをかける意味がない。



 現に、それを聞いた途端に男の子は、言葉を失い何かを考えているようだ。押し黙る彼に、続けて彼女は……



「目的はデータ収集。それはすでに充分。ここで戦闘を続行し万一があれば、マスター・ドッマの命に背くことになる」



 機械じみた台詞は、片言ではないにしろ流暢とはいえない。その台詞は、言葉の節々で意味を理解できるものだった。それは、私達に聞かれても問題ないと判断しているのか……それとも私達の存在などないものとしているのか、私達に聞かれることを懸念してはいない。



 今の台詞でわかったことは、二人の目的は戦闘ではなく、データ収集。つまり、敵対する私達のデータを集めることだということ。そしてそれは、『ドッマ』なる人物による命だということ。もしかすると、二人を作ったのもその人物かもしれない。



「……理解した。戦闘中断、これより帰還する」



 謎の女の子よりも片言が目立つ謎の男の子は、これ以上の戦闘が無意味であることを理解したのか、静かに言い放つ。それは、向こうから一方的に仕掛けられた戦闘が、向こうから一方的に終了を告げられるもので。



 そんな勝手なこと……!



「待て! ……お前達は、何だ……?」



 私と同じく、納得できないと言わんばかりのエドさんが、二人を睨みつける。戦闘が終わって不満、ではない。一方的に仕掛けられみんな傷つけられ、それを一方的に終わらされる。そんな理不尽、許せるはずもない。



 エドさんの質問を、視線を真正面から受けた二人には……動揺も浮かばない。エドさんから放たれる覇気にも眉一つ動かすことなく、受け止める。警戒、恐怖……そういった感情は、欠落しているようだ。人造人間(アンドロイド)なのだから、無理もないだろうけど。



「話す必要性を感じられない」



「ちっ!」



 何者か……その問い掛けに、二人は応えることはない。人造人間(アンドロイド)は、生気のない瞳で、生気のない声色でそこに立っている。



 応えるつもりはない、か。だけど、ここからそう簡単に逃がすはずもない。



「……逃げられると、思っているのか?」



「……逃げられないと、思っているの?」



 構え、ここから逃がすつもりのないエドさんに対し、ここから逃げるつもりの女の子は応える。エドさんから放たれる覇気は、離れた所にいる私にすらビリビリと毛が逆立つような感覚を覚えさせる。のに……彼女は微動だにしない。



「……ポチ」



何かを呟く女の子。その呟きに反応したかのように、地面が暗雲に包まれる。



 ……いや、雲ではない。辺りを覆うほどの黒い影だ。それも、いきなり現れた!? その正体は……



「グルルル……!」



「な、ぁっ!?」



 先ほど地に落とし、沈めたはずの竜がそこに起き上がっていた。憎々しげに私達を睨みつける眼光は、人造人間(アンドロイド)の二人よりも、よっぽど生き物としての感情があるかのように思えた。



 まずい、ここに来てこの竜が起き上がるなんて!



「試作段階とはいえ、ポチをここまで追い詰めるなんて……驚愕」



 起き上がった竜……それが私に落とされたことが驚きだったのか。驚愕と言いつつ全く驚きを感じられない彼女の言葉に、私は二つの意味で愕然とした。



 ……ポチって、まさか竜の名前?



「ポチってレベルじゃない!」



ネーミングと本体の姿が全く噛み合ってない。その響きに対する可愛らしさは微塵もないし、何よりポチって犬のような名前を竜に!? バカなの!?



 あと、それに……



「試作……段階?」



試作段階と、確かに彼女は言った。試作段階……それはつまり、完成していないということ。それって、この竜のことを言っているの?



 まさかこの竜も、作られた存在であるということ? ……その疑問は一旦置いておいて、あれで試作段階、まだ未完成だというの?



精霊の力を借りてようやく攻撃が通じた相手が、試作段階だっていうの? 私単体では何も通じなかったというのに。



「……ふっ」



 驚きの中、人造人間(アンドロイド)は足を上げ、それをその場で踏み込む。まるで、相撲の四股のように。



 すると、辺りに衝撃が伝わり……地響きは氷を割り、地面が揺れる感覚さえ覚える。竜でなく、人造人間(アンドロイド)の踏み込みは驚くべきものだ。倒れてしまわないためにその場で身を屈めるが、竜が吠えることにより起こる豪風で立っているので精一杯だ。



 一瞬、目を離してしまう。豪風に思わず目閉じてしまうほどに目と耳に影響を与える咆哮。一瞬の後、目を開いた瞬間には……そこに二人の姿はなかった。次に竜の巨体に目を移すと、その背に人造人間(アンドロイド)が乗っているのが見えた。



「竜の、背中に……!」



 このままでは、宣言通り逃げられてしまう。そうなれば、相手の思う壷だ。目的がデータ収集と言っていた以上、このまま返せば今回の戦いのデータを元に分析されてしまうだろう。人造人間(アンドロイド)を作るような奴だ、データをどう活用されるかわかったもんじゃない。

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