精霊の力
赤く、包まれる視界。このまま焼き付きされると思ったその時、炎一面の視界が一気に開けた。
「こ、これは?」
押しつぶされそうだったバリアが、急激に再生したのだ。それどころか、強度や大きさまでもが先ほどとは段違い。さっきまでの同じ盾とは思えない、力の差が明らかなものだった。
確かに私は今、今ある力を使い最大限のバリアを張った。でも、ここまで大きくなるはずがないというのは私が一番よくわかっている。防ぐのに手一杯だったそれを、今はらくらくと受け止めることができている。
「……レイ?」
思い当たる可能性。傍らにいるレイが、淡く輝き光を放っている。その光に包まれ、ポカポカと温かい気持ち、そして力が大きくなっていく感じがする。それはつまり、レイが精霊の力を貸してくれているということに他ならない。
「……ありがとう!」
私に今、力を貸してくれている。思わせぶりか、ただの気まぐれなのかわからないけど……今は、ただ嬉しい。
この力なら、こいつを……!
「はぁああああ!」
炎を防ぐバリア。それを今度は、逆に利用する。相手の力を、そのまま相手に返すのだ。バリアを受け皿のようにして受け止めたままの炎を、力をコントロールして竜本体へと跳ね返す。
「グァオオオ!」
自分の攻撃が跳ね返され、驚いた様子の竜はそのまま、自分が吐いた炎に身を包まれる。苦しそうにもがく姿は、やはり自身の攻撃であればダメージを受けるということを確信できた。
どんなに体が硬くても、自分の攻撃をそのままくらえばダメージはあるということだ。
「グガァ……!」
身をよじり、自ら炎を振り払う。多少の焦げ目はついているものの、その鱗は健在だ。だけど確実にダメージは負っている。この機を逃がす手はない!
一気に、突き崩す!
「レイ、もう一度お願い!」
翼に力を込め、全速力。竜の目の前を、後ろを、横を、上を……あらゆる角度から竜の周りを飛び回り、狙いをつけさせなくする。逆に私の狙いは、はっきりしている。頭だ。
人間は、頭……つまり脳にダメージを負えば、ただではすまない。竜も同じとは限らないが、試す価値はある。脳にダメージを与えるなら顎に狙いを定めるべきだけど……今の炎で、一番損傷箇所が見られるのが頭だ。ならばそこを狙う判断は間違ってないはず!
竜を撹乱した後、上空に飛ぶ。そのまま落下の勢いを保って、頭に狙いを定めて一直線。右拳を握り……そこに力を集中。さらに、自分のものとは別に、レイの温かな力が流れ込んでくるのがわかる。
金色と水色が混ざったような色に拳が輝き、急降下の勢いをつけて拳を構える。私の視線と竜の視線とが、交錯する。
「はぁあああ! "天拳"!!!」
口の中にエネルギーを溜める竜の反撃を待たずして……私は、渾身の一撃をおみまいした。
「うおぉおおおおおお!!!」
己の中にある以上の力を引き出し、それを目の前の竜に打ち込む。その、湧き上がるような力をそのまま竜の頭に打ち込み、重力に従って地面へと落下していく。
硬く、重い。上から打ち込んだとはいえ、そんなものは関係ないとばかりに。しかしそれが、拳を緩める理由にはならない。この小さくも大きな力を、おみまいする。
竜を押しつぶす勢いを乗せたまま、飛んでいた竜を、拳で地面に打ち落とす。
「はぁ、はぁっ……!」
巨体が地に落ち、ズシン…と重々しい音が鳴る。巨体を沈めた拳は、微かながら震えている。本来ならあのような硬く重い巨体、殴り飛ばしたともなればこちらの拳も相応のダメージがあるか、もしくはしばらく手を動かせないほどの反動があると思っていた。
最悪、右手が使い物にならなくなる可能性も。
「これが……レイの……」
だけど実際には、手の痺れだけで済んでいる。あの巨体を殴り飛ばしたのに、だ。それ以前に、殴り飛ばせたのだ。あの時は、何だかイケる気がしていたが、冷静に考えれば凄まじい威力だ。代償は手の痺れと、息切れのみ。
しかも……
「これで、ほんの少しなんだよね」
カーリャさんからレイを託された際、精霊の契約と仮契約の違いを説明された。その時に言っていた言葉……
『本来の契約とは違い、力もほんーの少ししか貸してくれない』
と言っていたのを思い出す。仮契約の今の状態でこの威力なら、契約状態ではどれほどの力なのだろうか。
「……っと、それは後だ。オルちゃん!」
精霊について、契約、仮契約について考えるのは、後回しだ。そもそも、竜を退けたのはオルちゃんとエドさんに加勢するためなのだから。
地に伏す竜に注意しながら、二人を探す。死んではいない……だろうけど、しばらくは動けないはずだ。幸い、硬い鱗をもぶち抜きダメージを与えることが出来たのか、今、竜に動きは見られない。




