坊やはよゐこだねんねしな
「ふう……少し休もうか」
それから、どれくらい歩いただろう。そろそろ疲れが見えてきたので休むことに。ここまでの道のり、やはり見渡す限り荒地が続いていた。
目的地まではまだ時間が掛かるみたいだし、あんまり無理しないで体力を温存しておかないと。そう思いながら、近くの岩場に腰を下ろそうとした時だった。
「……っ!」
何かが、来る! そう気づいた時には、一瞬のやり取りはすでに終わっていた。
何かの気配に気づいたのと、キン、と何かが弾かれたような音がしたのは同時だった。
何かの気配……それは、どこからかの謎の攻撃。そしてそれを弾いたのが、音の正体だ。弾いたといっても、それは私が弾いたものではない。誰かが、私への攻撃を誰かが弾いてくれたもので。
「……おっと、無用の心配だったか」
言って、抜けかけの剣を収めるのはエドさんだ。どうやら彼も反応し、瞬時に空間ポケットから剣を出したようだが、この攻撃を弾いたのは彼ではないらしい。
同じくオルちゃんも、驚いてこそいるが手出しはしていない。
一体誰が……とら考える前に、答えは姿を現した。私の髪の中で身を休めていたらしく、今まで姿を見せなかった。私の目の前にその姿を現したのは、淡く光る水色の球体……いや精霊。レイだ。
「もしかして……レイが?」
その疑問に、気のせいか一瞬光が増した。それを肯定と捉えるならば、今しがた私のことを守ってくれたのはレイということだ。
そのことが何だか嬉しくて、私は「ありがとう」とお礼を告げる。
精霊は気まぐれ、と言っていたが、こうして私を守ってくれたというのは、少しは私のことを認めてくれていたりするんだろうか?
思わず頬が緩みそうになるけど、状況が状況だけに気を引き締める。
「今の……狙撃!?」
今の謎の攻撃……近くに誰かの姿も影も見えない。それはつまり、遠くからの攻撃を意味していた。しかも、この攻撃は私の頭を正確に狙ってきていた。
もしもレイの防御がなかったらと思うと……考えただけでもぞっとする。
どこからかもわからない場所からの狙撃。それは確実に私の頭を狙ってきており、狙撃手の腕は相当なものだということが伺える。
スカイくんを守るように、彼を抱きしめ守るオルちゃん。私とエドさんは、辺りに気を巡らす。悪魔の気配……はしないけど、油断はできない。
何せつい最近、天使に化けた悪魔を目の当たりにしていたところだ。気配を消す術を持っているかもしれない。
「…………」
誰も、いない。何もない。……こんな殺風景な場所で狙撃となると、場所は限られるはず。それに、今弾かれた攻撃が放たれた角度、方角を考えると……
「……まさか……?」
そことおぼしき方向……上空を見上げると、何かが、こちらへと向かってきていた。それも、ものすごいスピードで。
目を懲らして、その影を見ると……
「……気のせいかな。あれ……竜みたいなシルエットに見えるんだけど」
「……えぇ、私もですわ」
「僕もだ」
飛んでくる謎の影……それは、人型のシルエットではない。かといって鳥でもなく……何かと思い、さらに目を細める。
するとそのシルエットがはっきりしてきて……それは、よく絵本や絵画で目にするものだった。
「「「……竜ー!?」」」
本物はもちろん、見たことはない。見たことがあるのはフィクションの物語のみだ。例えば昔話のテレビで、坊やが乗っている緑色の蛇を一度は目にしたことがあるはずだ。
こちらに飛んでくるのは、まさにそれだった。蛇のように長い体を揺らし、短い手から伸びた鋭い爪。赤い鱗は見ただけでも固そうで、その牙に捕まればその身は無惨なことになることは予想がつく。
「いや、ちょっと待って! りゅ、竜!? 何それ! 実在したの!? わけわかんないんだけど!」
「そもそも悪魔がいる世界でわけわからんもないだろ!」
「わけわかんなくても、来ますわよ!」
私達の混乱などお構いなしに、竜は雄叫びをあげる。その叫びは耳を塞ぎたくなるほどで、耳がおかしくなってしまいそうだ。
竜は大きく口を広げ、その口の中に赤く輝くエネルギーを溜め始める。嫌な予感がするけど、それよりも先に、口から赤いエネルギー……炎の玉が放たれて。
「うそぉ!」
放たれた炎の玉は、狙いを私達に絞って向かってくる。避けようにも規模が大きすぎて、出遅れてしまったために間に合いそうもない。
「あ、"水の壁"!」
あまりの迫力に判断が一瞬遅れてしまう。が、私より先に動いたのは、青髪を揺らす頼もしい私のパートナーだ。
オルちゃんは一歩前に出ると、神力を使い文字通り水の壁を作り出す。それは、炎の玉を受け止めるほどに大きな壁。
水の壁に、炎の玉が直撃する。相性であえば、炎は水で鎮火する。そのはずなのだが、炎の勢いは死ぬことなく水の壁に対抗していき……熱気が、私達にも伝わる。
時間でいえば、そんなに長い時間ではなかった。むしろ短い攻防だったかもしれない。それでも、炎と水の衝突は充分すぎるインパクトを与えた。衝突が終わった時、それは……炎の玉が消滅する代償に、水の壁が蒸発した時だった。
「み、水が蒸発した……」
水が蒸発するなど、どれほどの高温だったというのか。それも、オルちゃんの神力で作った水の壁をだ。
その威力を持つ攻撃を簡単に放ってくる竜……そして今竜は、私達の真上を飛翔していた。
「……え?」
飛翔する大きな竜。それに目を奪われていた。今しがた私達を殺そうとした生物であるにも関わらず、その光景はどこか神秘的なようにも見えて。
……その時、私には見えたのだ。その竜の背に乗る、二人の人影の姿が。




