テレポーター
「き、効いてませんわね……」
オルちゃんと、スカイくんを守るように並び立つ。今しがた殴り飛ばされたサラリアさん……いやサラリアには、殴られたダメージが全く見受けられない。
殴られた顔は少し腫れてはいるものの、それで体に支障が出ているようには見えない。
「いきなりで驚いたけど、たいしたことないな。それにしても……人間風情が、私にこんな……!」
「ひっ!」
ミシェルさんに向けて放たれる殺気は、直接向けられたわけでもないのに思わず固まってしまうほどだ。それを直接向けられたミシェルさんには凄まじいプレッシャーだろう。
ただでさえ、見た目はどうあれ人間なのだから。
「まあいい……どうせみんな殺すんだ。何をしようと、それは変わらない」
「……この場の全員を相手にして、逃げるどころか僕達を殺せると?」
やけに自信ありげなサラリアだが……そうだ、いかに相手が強かろうと、多勢に無勢。こっちには、複数の天使達、エドさん、オルちゃんがいる。
ただでさえ、この人数差。その上この戦力だ。たとえ相手が悪魔四神だってひけをとらない。なのにあの自信は一体?
「あぁ、確かに。さすがにこの人数はきついかもな。……まあ」
……キン、と、次の瞬間には金属同士が打ち合ったような音が響く。それは、離れたところにいたはずのサラリアが、一瞬のうちにエドさんへと距離を詰め、爪を振るっている場面だ。
まばたきほどの時間で、この距離を一気に埋めたなんて。
「ぐっ……!」
そして、これにいつの間に反応したのか、エドさんは『星』剣である"星砕き"でそれを受け止めていた。
今のほんの一瞬のうちに、空間ポケットから星剣を取り出して、攻撃を防いだというのか。
「私には関係ないがな。よく、今のに反応したな」
感心したかのように呟くサラリアはもう片方の爪を構えており、防ぐのに手一杯のエドさんに狙いを定める。あのままでは、逃げられない!
「死ね……あ?」
爪がギラッと鋭く輝く。だがそれを仕掛ける前に、その場から離れる。その瞬間に、今サラリアがいた場所に水の矢が過ぎ去った。
それはオルちゃんの奇襲……たがそれにいち早く気付かれ、かわされたのだ。その思わぬ速さで。
「くっ、速いですわね」
悔しそうに歯を食いしばるオルちゃん。彼女の言うように、確かに、速い。だけど、今のは……特にさっきの、エドさんに攻撃を仕掛けたあれは、速いというよりも。
「……まさかとは思うが……瞬間移動、テレポート……か?」
その速さによる攻撃を直に体験したエドさんが、まさかといった表情を浮かべる。今の一瞬の移動は、速い、と言うには語弊がある。
速い、というならば、人魔戦争の時にたくさん見てきた。今のはその、どれとも違う。サラリアの動きは、足による移動とはまた違ったものに感じた。よって導かれる結論は……
「瞬間移動……でも、だとしたら……」
この人数を相手にしてもあの余裕。説明がつく。瞬間移動なんてチート技が使えれば、誰に攻撃を当てることも容易い。
それにいざとなれば、楽に逃げられるのだ。
「へぇえ、今のだけでよく気づいたな。あんた、いい男だよ。同族だったならよかったのに、な!」
殺意が、エドさんへと放たれる。それを受けてか彼も、構えの体勢を取る。再び瞬間移動し、二人の衝突が……
「がぁ!」
訪れる。かと思いきや、悲鳴が。しかも全く別の所から、女性の声が響いたのだ。その方向に顔を向けると、別の場所で立っていた天使が、サラリアの襲撃を受けていた。
「貴様!」
「何を怒ってんだ。決闘でもしてるつもりか? ただでさえ人数差があるんだ、卑怯なんて言わねえよな? 私の攻撃対象は、この場にいる全員! 私の動きに着いてこれるのはほんの一握りだけだし、お次は誰が犠牲になるかな!?」
「みんな、一人になるな!」
瞬間移動……ただの移動ならともかく、どこへ現れるとも予想がつかない動きに対応できるのはこの中でも少ない。
圧倒的人数差……その優位性は、無差別の攻撃により逆にこちらに不利に働くこととなった。人数が多い分、狙われる確率が減る代わりに誰に被害が及ぶかわからない。
エドさんのように体が反応でもしない限り、無差別の瞬間移動を見切るのは難しい。それに、例え体が追いついても、こちらの攻撃が当たる前に消えてしまう。
「ぐぁ!」
「きゃあ!」
悲鳴が、連鎖する。わけもわからず傷ついていく仲間……それは恐怖を植付け、伝染する。防御しようにも、向こうの力が大きくて防御は意味を成さない。
何十もいたこちらの人数は、あっという間に半数を切っていく。
「何とか、しないと……!」
このままでは、いずれ全滅だ! とはいえ、反撃しようにも下手をすれば味方を攻撃しかねない。それに、他の人を守るので手一杯だ。
防戦一方とはこのことだ。いったいどうすれば……
「いいこと考えましたわ!」
その時、その場に響く明るい声。それは、この状況を打破する方法を思いついたらしいオルちゃんのものだった。
「い、いいことって……?」
「説明してる時間はありませんわ! 皆さん、息を止めてください!」
こんな大声で、こんな台詞を吐けば味方には当然、敵にも聞こえる。それをわかっているのか、それでもオルちゃんは声を止めない。
まさか、自分に狙いを向けさせようとしているとかじゃ……?
「"大大津波"!」
……そう、思っていた時だった。突如として、水が……いや、それじゃ表現が甘い。あれだ、滝だ。
滝と表現しても見劣りしないほどの水の塊が、上空から降り注ぎ……辺り一面を覆い潰した。
「ふぶっ!」
オルちゃんの言葉に従い息を止めていたが、こういうことか。溺れないように。だがこれじゃ、例え息を止めてても水の圧力で止めていた息を吐き出してしまいそうだ。
というか、サラリアの攻撃を受けてダメージを負った者にとっては、この水の圧力が追い打ちになりかねないのでは?
「んん……!」
溺れる、というか……水に潰されて死ぬ! 一体オルちゃんは何でこんなことを!
顔をなんとか動かし、オルちゃんに視線を向けると、そこには……あわや、あと少しでオルちゃんに触れようかという距離で、サラリアが溺れていた。
「びぶべばびばばぁー!」
オルちゃんは、サラリアに向けて拳を振るい、顔面に直撃。そのまま、地面に激突させる。今おそらく、見つけましたわ、と言ったのだろう。
水の中なので威力は、ないんじゃないかと思った。が、その認識は甘く、勢いは凄まじいものだった。
おそらくオルちゃんは、神力で水を使うからこそ、どうすれば思い切り力の作用が働くのかをわかっているのだろう。
サラリアが地面に激突し、代わりに水が引いていく。消えては移動を繰り返すサラリアを止めるための手段……それが、敵味方関係なしの溺水。
その方法は効果的だった……が……
「どうですの! 見事捕まえましたわ!」
「「「やり過ぎだぁ!」」」
下手すれば、こっちが死ぬよ! みんなの声が、重なった瞬間だった。




