出発前の嵐
精霊が仲間に加わったおかけで、こことの繋がりも保ったまま旅を続けることができる。
「で、いつ出発するんだ?」
「元々、ドーズさん達を保護してもらうために、ここに来たんです。だから、あんまり長居するつもりは」
そう、元々ここに長居するつもりはない。多少の休息や物資の補給は必要だけど、それが済めば出発する。今こうしている間にも、苦しんでいる人はいるんだ。
「……そう。もう少しゆっくりしていけばいいのに。なんて、言えないよなぁ。ならせめて、万全の状態で出発できるよう取り計らうわ」
少し寂しそうな顔を見せながらも、カーリャさんは笑顔を見せる。私も、できることならもっと一緒にいたかったけど。
……それから、出発のための準備は滞りなく進んでいった。
いつの間にか仲良くなったオルちゃんとカーリャさん、相変わらず逃げては追いかけのスカイくんとミシェルさん、女の人達に囲まれているエドさん……と、それぞれの時間を過ごす。
やがて、旅立つ時間がやってくる。
「……よし、と。じゃ、そろそろ行くよ」
「何だか忙しないですわね。仕方ないですけど」
「今度は、世界が平和になった頃に……ゆっくり語り明かせばいいさ」
名残惜しそうなオルちゃんの頭を撫でるのは、カーリャさんだ。ホントに仲良くなったな、この二人。親と親友が友達に。何かむず痒い気持ちだ。
「ところで……その子は、ここに置いていかないのか?」
視線を移し、話題の対象となるのはスカイくんだ。今私の後ろで隠れて、フードを掴んでいる少年は、戦力としては期待できない。何より子供だ。
これまではなし崩し的に旅に同行させてきたが、安全地帯を見つけた以上こんな危険な旅には付き合わせたくない。
……のだけど。
「離れたくないって、聞かなくて。それに……」
何度か、ここに残るようにと言い聞かせようとはした。けど、「お姉ちゃんたちと一緒がいい」と聞く耳を持たなかったのだ。
それに、彼に関しては気になることも残ってるし。
「……ま、これまで三人で旅してきたんだし、今更ではあるよな。いざとなったらお姉ちゃん達が守ってくれるもんな?」
歯を見せ、笑いかける。カーリャさんのその顔は、私にもスカイくんにも向けられているようだった。そして、私に顔を近づけてきて。
「……記憶喪失、が気になるんだろうけど、油断しちゃダメだよ」
記憶喪失の少年。このご時世だ、言い方は悪いけど、そんな存在は疑ってかかるべきだろう。現にスカイくんには不可解な点が多い。
カーリャさんにも、これまでに気にかかったことを話してはみた。応対として今のように、油断しないようにと忠告を返されて。
「わかってる。気をつけるよ」
その言葉に安心したのか、ならよし、と顔が離れていく。私も気を付けるとは言ったものの、スカイくんが私達に害をなす存在だとは、思えないんだけどね。
「それと、リーシャの力のことだけど……」
「わかってる。もし負荷を感じたら、力を使い続けないように……でしょ。それが戦いの最中でも」
続けて話題は、私の力のことに。専門家に話を聞いたところ、詳しい原因はわからないとのこと。ただ、カーリャさんが言ったように、私の体内で力の循環が滅茶苦茶になっているようだ。
長年専門家をやってきたが、こんな症状は初めて見たとのこと。そもそも、天使と人間のハーフなど、私以外に存在しないのだが、初めての上に初めてが重なっているわけだが。
結局、発作の直後は力を使わないこと。例えば戦闘中でも、体に負荷を感じたらどんな時であろうと力を収めること。そのために……
「……フォロー、頼むよ」
「はい、お任せくださいですわ!」
そのために、私にはパートナーがいるのだから。でも、私個人はあまり信用されてないのでは?
原因がわからないのは不安だけど、仕方ない。元々期待は半分だった。人間の医者だって、いかに名医といえど、初めて見た患者の未知症状を断定することは難しいんじゃないだろうか。
症状は謎だが、発作などの痛みは、よっぽど機嫌が悪くない限りレイが癒してくれるだろうとのこと。元々精霊という存在、治癒能力は私なんかと比べ物にならない。とはカーリャさんの言葉だ。
……と、まだまだ不安要素は残るけど。
「じゃ、そろそろ行きますね」
このままここにいれば、別れが名残惜しくなるだけだ。まだ寂しい気持ちが薄いうちに……
……と、そこで、集団の中から一つ手が上がった。「ちょっといいかな」と男性の声で。
「僕も、連れていってくれないか?」
声の主は、自分も連れていってほしいと申し出る。その訴えに私達は目を丸くする。その声はここ最近で聞き慣れたもので、その声の主は……
「エドさん……?」
集団の中にいても、ひときわ存在感を放つ圧倒的な存在。爽やかな表情を見せる、白髪の青年、エドワード・アルスカン。エドさんは、自分も連れていってほしいと告げている。
驚きつつも、考える。確かにエドさんの実力は高いし、現状戦力は私とオルちゃん二人だけ、しかも私は爆弾を抱えているも同然。
戦力増強は願ってもない。もし着いてきてくれるなら心強い。
「いいん、ですか?」
村の人達を残して、一人来ることに迷いはないのだろうか。これまで一緒に暮らしてきた人達と離れることに。
だけどそんな心配は、杞憂に終わる。
「あぁ。恩人達への恩返し……それにみんなも、是非とも協力するようにと後押ししてくれてね。微力ながら僕なんかでよければ、力を貸そう」
「そういうことなら、よろしくお願いします」
結果として、エドさんも旅の仲間に加わった。これで私、オルちゃん、スカイくん、そしてエドさんの四人にプラス精霊一体のパーティーとなり、旅を続けることになった。
戦力としても、大幅なアップに繋がった。
さて、ここで休むことも出来たし、天使の皆さんから旅に備えていろいろなものを貰った。大荷物になるかと思われたが、エドさんの神力によってその問題は解消された。
「便利ですわー、空間ポケット」
「いや、そんな名前じゃ……まあ、いいんだけどさ」
「すみません、荷物運びみたいなことを」
「いや、気にしないでいいよ」
オルちゃん命名空間ポケット。エドさんの神力であるその力は、物の持ち運びにもってこいだ。そのおかげで、荷物が増えてもそれを空間ポケットに入れて移動することができる。これで移動には困らないのだ。
このたくさんの物は最悪、自分達の神力で浮かせて運ぶ覚悟だったよ。
「ねーねー、そういえばさ」
準備は整った、と思いきや。声を発したのは、スカイくんだ。幼い少年は、まるで忘れ物でもしたかのような調子で、見送りの人達の所へと歩いていく。
ホントに、何か忘れ物だろうか? それとも、誰かに別れの挨拶を?
向かうその先にいたのは、何とミシェルさん。苦手としていたとはいえ、お別れともなると寂しかったりするのだろうか。
そのまま、ミシェルさんの所へと行き……そのまま、通り過ぎた。
「あれ?」
何でもないように、平然と通り過ぎた。さすがのミシェルさんも、唖然としているようだった。どうやら彼の目当てはミシェルさんの、その向こうにいたらしい。
そして、ミシェルさんをすんなりと通り過ぎたスカイくんが足を止めたのは……
「ねえ、お姉さん」
「え、私? 何かな?」
ここに来て、カーリャさんの居場所を聞いたりとお世話になったサラリアさんの所だった。彼女と、いつの間に仲良くなったのか? そのことに驚きながらも、彼の彼の言葉を待つ。
彼女の前に立ち、見上げ……見た目相応な少年の、純粋な曇りなき眼で……告げる。私達にとって、衝撃の一言を。
「お姉さんさ……悪魔、でしょ?」




