再会の筋肉祭
「人に歴史あり、と言うしな。あれから何年も経ったんだ、リーシャが驚くのも無理ないな」
「そういう問題じゃないです」
深呼吸し、落ち着く。クールダウンだ、うん。
そうだよ、体型が変わる、なんてよくあることだ。こんなことで動揺してたら、この先生きていけないぞ。
「そんなに変わったかしら? まぁ、あれから、いろいろあったのよ。付き合っていた人と別れたり、それからしばらくやけ食いややけ筋トレなんかして……」
原因まさかの失恋!? いやそういうので痩せるっていうのは効くけど、これは無理ない!? やけ筋トレって何よ! ていうかどっちと付き合ってたの!? あの時はイケメンだったから女の人かな!
……という言葉の衝動を、私は必死に呑み込んだ。追及したらキリがないことがわかったから。
「へ、へえ……ソウナンデスネ」
気にするのを、私はやめた。
「それにしても偶然ねん。まさか私達を助けてくれた女の子が、あの時の小さな女の子だったなんて」
「何だ、気づいてなかったのか?」
「気づく、っていうほど交流はなかったじゃない。いつも隠れたり逃げたりしてて……可愛いったらなかったわ。それに、容姿だってあの頃とは違うもの。名前は同じようだったけど、確証を持ったのはさっき」
やっぱりミシェルさんも、私のことは隠れたり逃げてる女の子って印象だったのか。その次の言葉は聞かなかったことにしよう。襲われそうだし。
「それにしても、あの怯えた小動物みたいで可愛かった子が、こんなに逞しく可愛い子になるなんて……ジュル」
……ゾワッ
背筋を蛇が這い回るような、悪寒を感じた。
「お、お二人は、どうやって知り合ったんですか?」
このままじゃ本格的に襲われそうだ。なので、話を切り替える。
天使のカーリャさんと人間のミシェルさん……本来関わりのないはずのこの二人、どうやって出会ったのか。あの頃は、気づけば交流があったし、そんなことを気にする余裕もなかった。
「あぁ。あの頃は、身を隠すため人里離れた所に暮らしていただろう? そこで近くに住んでいたのがミシェルでな。女子供の私達を度々気にしてくれてな。親しくなるうち、うっかりと」
「話しちゃった、てへ」と舌を出すカーリャさん。いや、うっかりって……
「迂闊どころじゃないよ!」
何やってんのカーリャさん! 人里離れたとこに住んだのにそれじゃ意味ないじゃん!
「まあ、そうなんだが……ミシェルからは邪な感情を感じなかったのでな。善の人間だとの確証があってのことだ。……、これで納得してくれ」
とても言い訳っぽいな。まあ、結果としてはそのおかげで生活が助かったんだけど。
「あの頃はホント、ミシェルのおかげで助かったよ」
「私も、あの頃は楽しかったわ。あなたと親しくし過ぎたのが原因であの人と不仲になったりもしたけど、今となってはいい思い出よ。私が役立ったなら何よりよ」
「あぁ、とても助かったよ」
二人は向き合い、固い握手を交わす。うんうん、色々突っ込みどころはあったけど、再会出来て何よりだよね。でも、今聞き捨てならない言葉が聞こえたよね。
「あの……ミシェルさんが恋人と別れたのって……」
「カーリャのとこに度々行ってたから、それであの人誤解しちゃったのよ」
「ちょっ、原因カーリャさん!?」
これ原因カーリャなの!? 二人暮らししてた私にも遠回しに原因あるの!? 人様の恋愛事情ぶっ壊しちゃったの!?
「けど、それ以前から不仲になってたのよ。最終的なスイッチはそれだとしても、直接的な原因はあなた達に関係のないところよ」
それを聞いて、安心すべきなのかがわからない。だって結果的に、別れる原因ひいてはもやしイケメンを筋肉ダルマに変化させてしまったのは私達なんだもん。
「そりが合わなかったのよ、あの人とは」
「そうだぞミシェル! お前の良さをわからないなんて、相手はわかってない。お前にはもっとふさわしい相手がいるさ!」
力説するカーリャさん。何でこうも熱くなれるのかわからないが、手どころか腕同士を組んでいる二人の間に確執はないようだ。まあ本人達がいいならいいんだけどさ。
……何にせよ、二人は天使と人間の種族を超えた友情を育んでいる。これは素敵なんじゃないのかな、うん。この人達を見てると、私とアカリちゃんだって、隠し事のない友人同士になれたかもしれないと思える。
「嬉しいこと言ってくれるじゃないの、カーリャ! いっそ私達が付き合っちゃう!?」
「それは断る」
……ふ、二人は、天使と人間の種族を超えた友情を育んでいる。うん。
何はともあれ、こうして再開できたというのは、奇跡的なものだろう。二人とも嬉しそうだし。イケメンもやしが筋肉ダルマ化はしたけど、カーリャさんにとって気を許せる相手というのに間違いはない。
「親子再会記念……そしてマブダチ再会記念! これはもう、宴ね!」
叫び声、というか奇声に近いものを発しつつ、高まる感情を爆発させるように、上半身をはだけさせるミシェルさん。
…脱いだ!?
「おぉ。あの頃より育ったな、筋肉」
そりゃ当たり前だよ! もやしが筋肉ダルマだもの!
己の筋肉を披露するミシェルさんと、それを見つめ感嘆の声を漏らすカーリャさん。何だこの構図。地獄?
その肉体美は、異性の裸を直視したことのない私でも立派なものなのだろうということがわかる。あれだ、ぼでぃびるだー、ってやつみたい。その体を見ても、不思議と何も感じないけど。
……いや、違うな。感じるものはある。それは嫌悪だ。
ムッキムキの肌には、汗ばんでいるのかそれが光に照らされ無駄に美しく光っている。それでいてポーズを決めているのだから、気分が悪いどころの話ではない。正直吐きそう。
……というか、仮にも乙女を自称するなら脱がないでよ!
「もう、ちゃんと服着てください!」
脱ぐに飽き足らず何やら踊っている。近づくのも躊躇われるが、このままだと目がやられる。主に毒に的な意味で。そのためには服を着てもらわないと。
全く、何が悲しくてこんなことを。こんな場面もし誰かに見られたりなんかしたらどうするんだ。まあ、そうそう誰かが来るとも思えないけど……
「リーさーん、ここですのー?」
その考えが甘かったことを、私は一秒後に知った。軽いノック。開かれる扉。確認しなくても誰だかわかる口調。それは、その特徴に見当するのは一人しかいない。
「あ、やーっと見つけましたわ。どこに行ったのかと」
念のため確認する。瞳に映るのは美しく輝く青色の髪。そして嫌味なくらいに存在を主張している胸。
つまりそこにいたのは、やはりオルちゃんであった。
体が固まる。何せ今彼女の目に映っているのは、筋肉ダルマが脱ぎ、服を着させようとしている私。見ようによっては、私が筋肉ダルマの服を脱がそうとしているようにも見える。
これは、誤解を生む状況……なのだろうか。相手が純粋な男の子ならともかく。
「あの、オルちゃん、説明させて」
「お、お邪魔しました……」
声を掛ける前に、扉はそっと閉じられる。こんなイベント、誰が得するのだろうか。




