あの頃と変わらない関係を
とある天使がいると指定された場所に、私は駆けていく。方角は合ってる。走り過ぎる寸前、サラリアさんは「おっきな古びた教会」にいると教えてくれた。
その天使の名前は、会ってのお楽しみだと言われた。けれど、私には確信がある。
あれからずっと、会ってなかったどころか声も聞いてなかった。それでも、一目見ればあの人だとわかる……そんな根拠のない自信が、私にはあった。
道を走り、曲がり……息が荒くなる。鼓動が早くなっているのは、走っているせいで疲れているためか、それとも……会えることへの、楽しみからか。
「はぁ、はぁっ」
その人は、私を育ててくれた。鍛えてくれた。厳しくも時に優しく……私を、温かく包み込んでくれた。私を、一人にしないでくれた。
「っ、しょ……と!」
走りすぎて角を曲がり切れず、正面の壁にぶつかりそうになり少し焦る。が、正面の壁にタッチし、腕のバネの勢いを利用して激突を回避。道を曲がる。
その先は一直線。見上げると、一際大きく、そして少々古びた建物。そこには十字架の形をした石像が立っているのが見え、あそこが教会なのだと察知する。
「……カーリャ、さん……!」
想い人の名前を、無意識に口に出していた。会いたくて会いたくて仕方なかった人が、すぐそこにいる。
「わぶっ!」
気持ちが緩んだからか、何かに躓いて転んでしまう。視線は目の前に広がる教会に夢中で、地面を見てなかったからか注意を怠っていた。
転んだせいで膝を擦りむいてしまったが、そんなことに気を取られている場合ではない。かすり傷とはいえ、治療も忘れて立ち上がり、走る。
次第に近づいていく教会はついに、私の手の届く距離に。入口を潜り、大きな扉を勢いよく開ける。
外装もそうだけど、中も古びていた。けど、その中にも昔ながらの趣があるというか……古いからと乱雑にするのはバチが当たる。そんな印象。
そんな中、正面の大窓からは外の光が差し込んでおり、薄暗い室内でそこだけ照らされるように光っていた。……そこに、誰かが立っている。胸が、高鳴った。
後ろ姿しか見えないが、背中まで伸びた金髪にはウェーブがかかっているのがわかった。きれいな、遠目からでも宝石のようだと感じる。
その後ろ姿には、確かに見覚えがあった。間違いなく、あそこにいるのは……
「カーリャさん!」
何の躊躇もなく、目の前の天使が彼女だと確信して、私は叫ぶ。それに反応したのか、彼女の肩が小さく震える。
彼女は、ゆっくりと振り返る。こちらを見つめる瞳と私の瞳が交差し、まるで金縛りにあったかのように私の体は固まってしまう。けれど、それはすぐに解ける。
そこにいたのは……私の育ての母親と言うべき存在。あの頃と変わってない……と言えば厳密にはそうではない。が、どれだけ時間が経っても、本能から彼女がそうだとわかる。
何年かぶりの再会に、思わず目頭が熱くなる。
「……リーシャ、か?」
開口一番、私の名前を告げる。それが、彼女がカーリャさんたる証拠をさらに裏付けていた。声も、あの頃と変わっていない。
久しぶりだからか、それとも私の容姿が変わったからか……しばらく目を見張るようにして私を見ていた。当然だ、私はと言えば、髪も瞳も、ぐちゃぐちゃになっちゃって。
その表情が、次第に緩んでいく。
「……久しぶり、リーシャ」
柔らかく微笑むその笑顔を見て、気付けば頬には温かい何かが伝っていた。それが涙だと気づくのに、そう時間はかからなかった。
「……カーリャさん……ガーリャざぁん!」
懐かしさ、だけではない色んな感情が、溢れてくる。気づいたときには、その場を駆け出して走っていた。
そのまま、カーリャさんの胸の中にダイブする。カーリャさんも、抱き締める私を受け止めてくれて……ゆっくりと、抱き締め返してくれる。
「カーリャさぁん……うぅ……」
「ちょっ、何で泣いてるの。全く」
呆れたような口調。でも頭に何か温かいものが置かれ、撫でられる。カーリャんの手が、私の頭を撫でていたのだ。
懐かしく温かい感じに、私はしばらくの間、声をあげて身を任せていた。




