再会に逸る思い
「キミね? さっき空間を開けたのは」
目の前の光景に圧倒されていると、ふとどこからともなく声をかけられる。声をたどり、視線を向けるとそこには、腰まで伸びた金髪をポニーテールにした、エメラルドグリーンの瞳を宿す女性がいた。
その特徴的な容姿。何より背中から生えた純白の翼が、彼女が天使であることを表していた。
「あ、えと……はい」
さっき空間を開けたのは、正しくは、私の翼をむしり取ったスカイくんだけども。
「っていうことはキミも天使よね? ……んー、でもおかしいわね。純粋な天の力を感じない」
つり目を細目にし、観察するように私を見てくる。
純粋な天の力を感じない、というのは、私が天使と人間のハーフだからだろう。自分からじゃ、それはわからないけども。
……あ、でもこれって天使さんに説明してもいいんだろうか。天使が人間との間に子を授かったなんて、お母さんやお姉ちゃんは、内緒にしてたみたいだし。
「もしかして、キミが噂のハーフエンジェルね?」
ふと思い出したように、パン、と手を叩く。私を指差し、にっこり笑顔を浮かべている。あ、知ってるんすね……
「へー、リーさん天使さん達の間でも有名なんですのね!」
私達のやり取りを見ていたオルちゃんが、ひょいひょいと顔を出す。背後にいるから見えないけど、多分もぐらみたいに頭を出しては引っ込めているのだろう。
目の前の天使さんを観察するようにして、彼女の周りをくるくる回っている。
「リーさん以外の天使初めて見ましたわー!」
「何この子。ちょっとうっとうし……いや、何あの胸。でけえなくそっ」
ポニーテール天使さんの、心の底から恨めしげな声が聞こえたような気がした。
内部の様子にはしゃぐオルちゃんやスカイくんを横目に、ポニーテール天使さんは気を取り直すかのように、こほん、と咳ばらいをする。
「えっと、何か騒がしくてすみません……」
「いや、構わないわ。それにしても、生き残ってる人達を連れてきてくれたのね。ありがとう」
と、後ろに立つエドさんやドーズさんらを見る。私達が連れてきた、人達。その中には、女性はいない。男性ばかり。
「……ここも、女性はいない、か」
呟くようなその言葉に、引っかかりを覚える。「ここも」とは……もしかしてやっぱり、他の場所も?
この場所には女性もいる。だけど、各所でドーズさんの村のように、女性だけ連れていかれてるのかもしれない。ここにいる女性達は、そういった悪魔の手に捕まる前に救出されたってことかな。
「いやねえ、ここにか弱いレディがいるじゃないの」
女性がいないと、少し残念そうに話すポニーテール天使さん。しかし、彼女に近づく人物が。その人物の出す声は野太く、自らをレディを呼称する。
「……か弱い? レディ? ……どこ?」
「ここよ、こ、こ♪」
私でも、オルちゃんでもない。声の主を探すポニーテール天使さんに向けて、目の前に立つ人物はバチン、と効果音がしそうなウインク。
無意味に自らの筋肉を強調するかのようなポーズ。それは、その場の全員を凍り付かせるには充分だった。その人物の正体は、ミシェルさんだった。
「あぁ……えぇ、そう……」
考えるのをやめたかのように、ポニーテール天使さんの声からは感情が消えていた。目のハイライトも、消えていた。
ここは、少し話題を変えよう。
「あの、お名前は…」
名前を聞き、呆然としていたポニーテール天使さんははっと我に帰る。よかった、戻ってきた。
「あ、そういや名乗ってなかったね。私はサラリア、よろしく」
名乗り、手を差し出してくる。それを手に取り、握手を交わす。
「よろしくお願いします、サラリアさん。私は……」
「知ってるよ。リーシャちゃん、でしょ?」
私が名乗ろうとすると、それよりも先に名前を言い当てられてしまう。それを聞いて、今度は私のほうがキョトンとしてしまう。
「え、どうして……」
なぜ、私の名前を知っているのだろう。そんな私の疑問に、サラリアさんは、ニコッと笑みを浮かべ、答えをくれる。
「今噂になってるハーフエンジェルが、私の娘かもしれない……って言ってる天使がいてさ。実際には娘じゃないんだけど、娘みたいな存在だ、って。ちょくちょく話を聞かされるの」
ククッ、と声を漏らしながら。
「ハーフエンジェルなんているって話自体初めて聞いたし、キミを見てピンと来たってわけ」
その真相を教えてくれる。
え、“双翼”とは別に私個人で噂になってたの? ハーフエンジェルって言い方も何かイカすし、いいんだけどさ。
それよりも、気になるのはその情報源。噂のハーフエンジェルが娘みたいな存在だと言い、そしてそれに私の名前を当てはめた。それって、もしかして……
「あの……その天使の名前って……?」
「それは会ってのお楽しみ。向こうにいるから、会ってきたら?」
と、親指で奥を指す。他のみんなは、こっちでもてなしておくから、と、みんなのことも心配はいらないと。その気遣いに、ありがたい気持ちになって。
「……はい!」
私は、駆け出す。私のことを、娘と言ってくれる人はもう、一人しかいない。この先に、カーリャさんが……もう一人のお母さんがいる!




