求めた先に
見つけた、他とは異質な空間。見たところ何もないけど、天使の力に反応して何かが起きるかもしれない。あれだ、力を示せ、みたいな感じで。
ということで試しに私は、天使の翼を出現させる。天使がここにいますよアピール。
……何も起きない。
「合言葉とかどうでしょう! なんか、天使特有の言葉とかないんですの!?」
「あ、合言葉……?」
合言葉かぁ……あり月なものではあるけど。残念ながら、天使特有とかそんなものはわからない。
「…開けゴマ!」
……何も起きない。さすがに、安直過ぎたか。
「愛よ! きっと愛が扉を開くのよ! 愛、愛、愛ィイイイ!」
後ろでなぜか興奮しているミシェルさんがうるさい。急にどうした!
……ともあれ、せっかくそれっぽい場所を見つけたのに、これじゃお手上げ状態だ。このままここで、ただ立ち往生しているわけにもいかないしなあ。
頭を抱え悩んでいると、後ろにいたはずのスカイくんが一歩前に出る。おやおや、どうしたのだろうか?
「……リー姉ちゃん、ちょっとごめん」
「へ?」
じっと、何もない空間を見ていたかと思うと……私に突然、謝罪をしてくる。え、私、何か謝られるようなことしたっけ? あったとしても、なぜにこのタイミングで?
その言葉の意味を問う、その前にスカイくんは私に近づいてくる。おもむろに手を伸ばし、そして……
ブチッ
「はぅ!?」
私の天使の羽を、一枚むしり取った。
……え、何で!? 何で今、私は、スカイくんに羽をむしられたの!? ねえ、教えてよ!
体にそれほどの痛みがあるわけではない。注射の針が突き刺さる「チクッ」とした感覚があるくらいだ。でもいきなりのことだったので、思わず涙が出てきてしまう。小さな痛みでも、覚悟してない痛みは痛いのだ。
「スカイくん、いったい…」
さすがになんの意味もなしに、羽をむしられたのではたまったものではない。なぜこんなことをしようとしたのか理由を問いたい。だがその間にも、彼の行動は続く。
スカイくんは、私からむしり取った天使の羽を何もない空間に近づける。すると……
「わっ」
空間が、割れた。まるで、鞄のジッパーを開けたときのように。空間が割れ、向こうに見えるのは真っ暗な光景だけ。でも、先程より天使の気配が強くなっている。
カードをかざしたら、自動ドアが開く、というシステムがある。これはそういうものなのだろうか。
「何ですのこれ……向こうから、何か感じますわ! 何と言うか、温かい感じがします」
と、オルちゃん。他のみんなも同じような反応をしていることから、空間が開いたことで、力を隔てるものがなくなったのだろう。
それにしても……翼を広げるのはダメで、羽をかざすのはオーケーなのか。どんな仕組みになっているんだ。むしらなきゃダメなのか、無駄に痛い思いするだけじゃないか。
というか……何で、スカイくんは、この仕組みを知っていたんだろう?
「ねぇ、スカイくん……」
「さすが私の天使ちゃんねー! すごいわー! ご褒美ア、ゲ、ル!」
「アーッ!」
疑問を問いただそうと振り向いた先のスカイくんは、ミシェルさんの逞しい腕に抱きしめられ抱えられ、頬にチュッチュされていた。今問いただすのは、無理みたいだ。主に精神的な意味で。
「ここから中に入るんですのねー!」
……それからしばらくして。ミシェルさんはツヤツヤに、スカイくんはガリガリになった頃、らんらんとはしゃいでいるオルちゃんを視界の端に置きつつ、倒れ込んでるスカイくんに私は、聞く。
「ねえスカイくん、どうして今の仕組みわかったの?」
生気でも吸われたんじゃないかというほどに弱ったスカイくんは、
「……わかん、ない。急に頭の中に……こうするんだ、って、浮かんで……がはっ!」
そう言って、力尽きたかのように泡を吹く。ミシェルさんに吸われて、こんな状況になってもちゃんと答えてくれるなんて、いい子だ。でも意識途絶えちゃったしこれ以上は無理そうだ。
……『頭の中に、こうするだ、って浮かんできた』か。それの意味することは何なのだろう。元々、荒れ果てた街に一人で居るところを見つけた少年。本人は、名前以外覚えていないという記憶喪失状態。
記憶喪失以前、天使と関わりがあったのかあ? それが、ここにきて一時的に思い出された……とか。
「リーさん? 何してるんですの! 行きましょう!」
オルちゃんやみんなは、天使が居るであろう向こう側に興味津々のようだ。
……まあ、あれこれ考えても仕方がない。今は、今すべきことをしよう。私は、スカイくんを抱き上げ、空間の割れ目へと向かった。
「じゃ、行きますわよー!」
まるで遠足気分のようなオルちゃんに、張り詰めていた気が削がれてしまう。まあ、変に気負ってしまうより、リラックスしていた方がいいかもしれない。それを狙っているかは、わからないけど。
「待ってよ、オルちゃん!」
先に入ってしまったオルちゃんを追いかけるようにして、私も足を進めていく。エドさんやミシェルさんらも後について来ているようで、それを確認し……全員が通ると、空間が閉じる。
まるで扉一枚を通ったような感覚。空間に足を踏み入れる前とは、景色が全く違っていた。
闇が覆っていた空はそこにはなく、以前のような青空が広がっている。周りには建物が並んでおり、先程までボロボロの屋台しかなかった風景とは随分違う。
何より……そこには、大勢の人間がいた。人だけではない、その中に、翼が生えた者もいる。私が感じた天使の気配は、間違いなんかじゃなかったんだ!
「人々を保護してる、天使の組織……ここが、そうなんだ」
目的の場所へと、ついにたどり着いたんだ!




